世にも不幸なレミリア令嬢は失踪しました

ひよこ麺

文字の大きさ
上 下
82 / 143
第五章:真実の断片と

74.海の王太子と不幸令嬢

しおりを挟む
「レミリア公爵令嬢、君は今、精神体だけで歩いているという危うい状態だ」

そう、執務室へレミリアを連れて行った、クレメンテが口火をきった。全てが雑然と並ぶその部屋はまるで何かを隠しているような空気も纏っていた。

「精神体……私の体は……」

「今はサンソレイユ帝国に肉体があると聞いている。ただ、今行くのは得策ではないだろうし、もし行っても誰も気付かないだろう」

とても冷静な答えだった。明らかに異常な事態でも彼は決して慌てている様子がない。

「あの、驚かれないのですね、私は今幽霊のようなものだということなのに……」

その言葉に、ずっとぼんやりした顔をしていた、クレメンテの顔が明らかに綻んだのが分かる。そんな柔らかな顔をレミリアははじめてみた。

「私には昔から、そういうものが見えていた。元々は母が父に殺された時から見えるようになったのだけれど……。父に縋りついて泣き喚いている半透明の母を見た時、その母が誰にも見えないのを知った時、私は死者を見ることが出来ることに気付いた」

「……それは、お辛かったのではないですか?」

レミリアは、はじめてクレメンテという人を理解した気がした。どこかまるでこの世界と一線引いているような眼差し、やる気のない怠惰なと評される眠たげな瞳は、きっとここではない世界を見ていたのだろうと。

「いえ。そうあった時間のが長いので。だから、必然的に私には多くの怨嗟の声が聞こえ続けてしまっている……」

「それは……」

「レミリア公爵令嬢、クリストファーは危険です。弟には……ずっと質の悪い霊、アレは前世の因縁のようなものが絡みついている」

前世の因縁。その意味がレミリアにはよくわからない。ただひとつ言えるのはそれはもしかしたらルーファスの愛するレミーナと関係があるかもしれないと勝手に思った。

「前世の因縁とは……私にもそれはあるのですか??」

「……レミリア公爵令嬢には、貴方を心配している銀色の髪の青年が見える。そして……」

クレメンテが何か言いかけた時、突然執務室の扉が開いた。そこにはこの国の国王が立っていた。その瞬間、レミリアはそれを見た。ほんの一瞬だがクレメンテの目に怒りが浮かぶのがわかった。

「クレメンテ!!クリストファーがレミリア嬢の体を略奪して消えたと報告が上がった」

「そうですか、サンソレイユ帝国側はなんと??」

とても冷静に、怒りで感情的になる王に対してもひるまずにクレメンテが言葉を返す。

「それは……」

「証拠がないなら、「知らないと」一旦は通せば良い。その間に対策を考えれば良いでしょう」
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

処理中です...