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第四章:太陽の国と皇太子

69.月の国の不幸令嬢03

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あまりにも自身に似ている少女に思わず釘付けになる。その死体はそれこそ昨日死んだばかりのような、眠っているだけのようなそんな雰囲気を持っていた。

けれどその胸元に真っ赤な血のシミがある。刺されて死んだようだ。

(刺されて死んだ……)

レミリアは悪夢を思い出す。誰かに刺されて死ぬ恐ろしい夢。そして、自分にそっくりの少女の遺骸。それらが結び付く気がして、急に怖くなる。

急いでレミリアがその棺から目を離そうとして、その少女の名前が書かれていることに気付いた。白い象牙のプレートに金色の文字で書かれていた名前に思わず目を見開く。

「最愛なる花嫁 

『レミー』

そう自分を呼ぶ、ルーファスの声が蘇る。そして、ルーファスが読んでいる「レミー」がレミリアではなくレミーナなのではないかと妙な感が働く。

(だとしたら、ルーファスが求めているのは……)

この沈丁花の棺に眠る自分そっくりな少女で自分ではない。その考えに至った時、心が死んでしまうような気がした。レミリアはルーファスを信じて愛し始めていたから。

「こんなのって、酷い……」

ふらふらとしながら、霊廟の扉を開けて、レミリアはもう片側の扉も開いてみた。そちらは拍子抜けするほどあっさりと開く。

そこには……。

「むせ返るほどの沈丁花。どうしてこんなにむしられて……」

あまりの惨状、沈丁花の惨殺現場ともいえる光景に思わず凍り付く。しかもよく見ればその白い花弁に混ざって紙片が落ちていた。その一片をレミリアは拾い上げる。

 

(ああ、やっぱりルーファスは私じゃなくってあの死んでしまった恋人を愛しているのね……)

目の前が真っ暗になる。そして、立ち上がろうとした、しかし思うように力が入らない。

「やっと、やっと愛してくれる人に出会えたと思ったのに……私は身代わりなの?」

そんな考えが頭に浮かんで、あまりの辛さにその場に伏せる。思い切り沈丁花の甘い香りを吸い込んだ時、何かが頭の中に浮かぶ。

ぼんやりとした輪郭のそれは、自身の体を抱きしめながら泣き叫ぶルーファスの姿。

「レミーナ、レミーナ」

(これは……幻覚。でもやっぱりルーファスの好きな人はレミーナさんで、私はレミーナさんに似ていたから興味をもっただけなのね……)

全てがどうでも良いと思った。今度こそちゃんと死ねるだろうかとも。

、何故ここに……」

遠くからルーファスの声がした気がする。けれどレミリアにはそれがどうでも良いことのように感じされていた。
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