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第三章:恋獄の国と悲しいおとぎ話

34.前世の物語と不幸令嬢(ルーファス視点)11

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衝撃的な出来事から3日ほど経過したが、特に状況が変わったわけではなかった。とにかくここから脱出したいのだがいくつかの要素が問題ですぐに逃げることができないでいた。

ひとつ目は1年近く寝たきりだっため立ち上がることすら難しいという現実だ。それについてはなんとか立てるようにと練習をしている。しかし少なくともそれが実るのはまだ先になりそうだ。

ふたつ目が重要で、魔法が何故か使えないということだ。魔法が使えればすぐにでもこんな場所から出れるのだが、魔法がまるで使えない。どうやらこの部屋か僕自身に魔法を封印するような呪文がかけられているようなのだ。その問題が解決すれば歩けない問題も解決するので最優先事項である。

そして、みつつ目はここが海の国であり、今どこに居るのかが全くつかめていないということだ。仮に逃げられた場合もこの場所がどこかわからないと魔法がない場合すぐ見つかり再度部屋に捕まる可能性がある。そうなると、とても問題だ。

あの日以降もトリスは毎日ここを訪れては僕のベットの脇に座りじっと僕の顔を見つめてきたり、髪を撫でたりしてくる。

正直、生理的嫌悪しかないのだが、そこで抵抗すると首を絞められたり、一度危なく腕の骨を折られかけたので一応大人しくしている。

気持ち悪いが、口づけをしたり肉体関係を持とうとしたりはしてこないだけまだマシだ。そんなことをしようものなら何がなんでも殺されても抵抗するつもりだが、今のところはなんとかなっている。

しかし、レミーナにあの男が何をするつもりか考えると一刻も早くここからでないといけない。

「俺のお姫様、また、ベットから落ちてるね。可哀そうに、床は冷たいから風邪を引いてしまうよ」

歩くための練習中にやってきたそいつは軽々と僕を持ち上げた。そのままベットに乗せられると思ったが、いつの間にか準備したらしい車椅子におろされる。

「無理しなくても俺が運んであげるから動き回らないで。かわいいお姫様の肌に俺の知らないところで傷がつくのは嫌なんだ」

そう言って、歩く練習の際に転んで擦りむいた膝の傷口に指でふれた後に、優しい手つきで撫でまわした。あまりの気持ち悪さにうっかり蹴飛ばした。

(まずい、やってしまった)

トリスはにっこりと笑った。とても嫌な笑みだ。これはまずいかもしれない。

「悪いお姫様だね。駄目だよ蹴ったら痛いからね。もしも次に蹴ったりしたら勿体ないからしたくないけどその綺麗な白い足を折って二度と動かないようにしてしまうよ」

優しい声色で言う言葉ではない。この男は完全に狂っている。僕は狂った人間を何人も見たことがあるがこの男のそれは月の国で出会った狂気とは違う。それが何かは全く分からないが気持ちが悪くて仕方がない。しかし逆上させるのは悪手である。今は耐えるしかない。

「もうしない」

「えらいね。俺のお姫様は良い子で賢いね」

「……僕のところにばかりくるけどレミーナは……」

「嫉妬?安心していい。俺は今も昔もお姫様にしか興味が湧かないから。愛しているのは君だけだよ」

「違う、レミーナをないがしろにしたりしていなだろうな」

思わず怒りが込みあがてしまった。レミーナがもしこいつのせいで不幸になっていたらそれを考えたら腸が煮えくり返る。するとニコニコまたトリスが笑う。

「ねぇ、ルーファス様。ルーファス様が俺だけのものになってくれるなら、レミーナの身の安全や幸せは保証してあげるよ」

あまりの言葉に絶句する。こいつは何を言っているんだ。同じ男の僕に何を言っているんだ。完全に思考が静止する。しかしトリスは昏い瞳で僕を見つめている。

「お前のものになるって……」

「もちろん、俺の好きにさせてもらう。可愛いルーファスの全てを俺が貰うってことだよ」

「……僕は男だ」

「知っているよお姫様。そう、男じゃなければ、君がお姫様なら俺はとうの昔に幸せだったよ」

そう少し切なげに笑ったトリスはまるで何かを思い出しているようだった。

「君がお姫様なら、僕はきみにはじめてあってすぐに婚約を打診しただろうし、それが断られてもあきらめなかっただろうし、必ず君を世界一幸せな花嫁にしたと誓えるよ」

「貴殿みたいな独りよがりの人間が?」

「ははは。確かに強引な手段をとってしまったね。でもそれは君が男だったからだ。君がお姫様なら、ただトロトロに甘やかして甘やかして俺なしでは生きれないものにしてずっとずっと幸せにしてあげたしちゃんと正当な手筈を踏んで祝福だってされたはずだよ」

しかし、現実はそうではない。大体女でもこんな男は願い下げだ。

「まぁ。の話なんていいんだ。俺はちゃんと合意の上で君を俺だけのものにしたいんだよ。だから取引を持ちかけた。すぐに答えられないなら1週間期限をあげよう。それまでにどうするか決めたらいいよ。もちろん断ることもできる。でもその場合は……」

これは脅しだった。レミーナを人質に僕の口から陥落しろとこの男は言っているのだ。

(くそっ、レミーナのことがなければ自殺してやるのに)

レミーナだけはどうにか救いたい。けれどこいつの慰み者になど死んでもなりたくないしなるくらいなら壁に頭を打ち付けて憤死するだろう。

しかし、怒りをなんとかおさめてトリスを僕は見据えた。

「わかった1週間後に返事をする」

「ありがとう。ああ。これでやっと俺の夢がかなう」

そう、恍惚とした笑みを浮かべた男は完全に狂っている。そして、何か歌のようなものを口ずさみながら、車椅子を押して、そのまま部屋の外に連れ出した。
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