41 / 143
第三章:恋獄の国と悲しいおとぎ話
34.前世の物語と不幸令嬢(ルーファス視点)11
しおりを挟む
衝撃的な出来事から3日ほど経過したが、特に状況が変わったわけではなかった。とにかくここから脱出したいのだがいくつかの要素が問題ですぐに逃げることができないでいた。
ひとつ目は1年近く寝たきりだっため立ち上がることすら難しいという現実だ。それについてはなんとか立てるようにと練習をしている。しかし少なくともそれが実るのはまだ先になりそうだ。
ふたつ目が重要で、魔法が何故か使えないということだ。魔法が使えればすぐにでもこんな場所から出れるのだが、魔法がまるで使えない。どうやらこの部屋か僕自身に魔法を封印するような呪文がかけられているようなのだ。その問題が解決すれば歩けない問題も解決するので最優先事項である。
そして、みつつ目はここが海の国であり、今どこに居るのかが全くつかめていないということだ。仮に逃げられた場合もこの場所がどこかわからないと魔法がない場合すぐ見つかり再度部屋に捕まる可能性がある。そうなると、とても問題だ。
あの日以降もトリスは毎日ここを訪れては僕のベットの脇に座りじっと僕の顔を見つめてきたり、髪を撫でたりしてくる。
正直、生理的嫌悪しかないのだが、そこで抵抗すると首を絞められたり、一度危なく腕の骨を折られかけたので一応大人しくしている。
気持ち悪いが、口づけをしたり肉体関係を持とうとしたりはしてこないだけまだマシだ。そんなことをしようものなら何がなんでも殺されても抵抗するつもりだが、今のところはなんとかなっている。
しかし、レミーナにあの男が何をするつもりか考えると一刻も早くここからでないといけない。
「俺のお姫様、また、ベットから落ちてるね。可哀そうに、床は冷たいから風邪を引いてしまうよ」
歩くための練習中にやってきたそいつは軽々と僕を持ち上げた。そのままベットに乗せられると思ったが、いつの間にか準備したらしい車椅子におろされる。
「無理しなくても俺が運んであげるから動き回らないで。かわいいお姫様の肌に俺の知らないところで傷がつくのは嫌なんだ」
そう言って、歩く練習の際に転んで擦りむいた膝の傷口に指でふれた後に、優しい手つきで撫でまわした。あまりの気持ち悪さにうっかり蹴飛ばした。
(まずい、やってしまった)
トリスはにっこりと笑った。とても嫌な笑みだ。これはまずいかもしれない。
「悪いお姫様だね。駄目だよ蹴ったら痛いからね。もしも次に蹴ったりしたら勿体ないからしたくないけどその綺麗な白い足を折って二度と動かないようにしてしまうよ」
優しい声色で言う言葉ではない。この男は完全に狂っている。僕は狂った人間を何人も見たことがあるがこの男のそれは月の国で出会った狂気とは違う。それが何かは全く分からないが気持ちが悪くて仕方がない。しかし逆上させるのは悪手である。今は耐えるしかない。
「もうしない」
「えらいね。俺のお姫様は良い子で賢いね」
「……僕のところにばかりくるけどレミーナは……」
「嫉妬?安心していい。俺は今も昔もお姫様にしか興味が湧かないから。愛しているのは君だけだよ」
「違う、レミーナをないがしろにしたりしていなだろうな」
思わず怒りが込みあがてしまった。レミーナがもしこいつのせいで不幸になっていたらそれを考えたら腸が煮えくり返る。するとニコニコまたトリスが笑う。
「ねぇ、ルーファス様。ルーファス様が俺だけのものになってくれるなら、レミーナの身の安全や幸せは保証してあげるよ」
あまりの言葉に絶句する。こいつは何を言っているんだ。同じ男の僕に何を言っているんだ。完全に思考が静止する。しかしトリスは昏い瞳で僕を見つめている。
「お前のものになるって……」
「もちろん、俺の好きにさせてもらう。可愛いルーファスの全てを俺が貰うってことだよ」
「……僕は男だ」
「知っているよお姫様。そう、男じゃなければ、君がお姫様なら俺はとうの昔に幸せだったよ」
そう少し切なげに笑ったトリスはまるで何かを思い出しているようだった。
「君がお姫様なら、僕はきみにはじめてあってすぐに婚約を打診しただろうし、それが断られてもあきらめなかっただろうし、必ず君を世界一幸せな花嫁にしたと誓えるよ」
「貴殿みたいな独りよがりの人間が?」
「ははは。確かに強引な手段をとってしまったね。でもそれは君が男だったからだ。君がお姫様なら、ただトロトロに甘やかして甘やかして俺なしでは生きれないものにしてずっとずっと幸せにしてあげたしちゃんと正当な手筈を踏んで祝福だってされたはずだよ」
しかし、現実はそうではない。大体女でもこんな男は願い下げだ。
「まぁ。もしもの話なんていいんだ。俺はちゃんと合意の上で君を俺だけのものにしたいんだよ。だから取引を持ちかけた。すぐに答えられないなら1週間期限をあげよう。それまでにどうするか決めたらいいよ。もちろん断ることもできる。でもその場合は……」
これは脅しだった。レミーナを人質に僕の口から陥落しろとこの男は言っているのだ。
(くそっ、レミーナのことがなければ自殺してやるのに)
レミーナだけはどうにか救いたい。けれどこいつの慰み者になど死んでもなりたくないしなるくらいなら壁に頭を打ち付けて憤死するだろう。
しかし、怒りをなんとかおさめてトリスを僕は見据えた。
「わかった1週間後に返事をする」
「ありがとう。ああ。これでやっと俺の夢がかなう」
そう、恍惚とした笑みを浮かべた男は完全に狂っている。そして、何か歌のようなものを口ずさみながら、車椅子を押して、そのまま部屋の外に連れ出した。
ひとつ目は1年近く寝たきりだっため立ち上がることすら難しいという現実だ。それについてはなんとか立てるようにと練習をしている。しかし少なくともそれが実るのはまだ先になりそうだ。
ふたつ目が重要で、魔法が何故か使えないということだ。魔法が使えればすぐにでもこんな場所から出れるのだが、魔法がまるで使えない。どうやらこの部屋か僕自身に魔法を封印するような呪文がかけられているようなのだ。その問題が解決すれば歩けない問題も解決するので最優先事項である。
そして、みつつ目はここが海の国であり、今どこに居るのかが全くつかめていないということだ。仮に逃げられた場合もこの場所がどこかわからないと魔法がない場合すぐ見つかり再度部屋に捕まる可能性がある。そうなると、とても問題だ。
あの日以降もトリスは毎日ここを訪れては僕のベットの脇に座りじっと僕の顔を見つめてきたり、髪を撫でたりしてくる。
正直、生理的嫌悪しかないのだが、そこで抵抗すると首を絞められたり、一度危なく腕の骨を折られかけたので一応大人しくしている。
気持ち悪いが、口づけをしたり肉体関係を持とうとしたりはしてこないだけまだマシだ。そんなことをしようものなら何がなんでも殺されても抵抗するつもりだが、今のところはなんとかなっている。
しかし、レミーナにあの男が何をするつもりか考えると一刻も早くここからでないといけない。
「俺のお姫様、また、ベットから落ちてるね。可哀そうに、床は冷たいから風邪を引いてしまうよ」
歩くための練習中にやってきたそいつは軽々と僕を持ち上げた。そのままベットに乗せられると思ったが、いつの間にか準備したらしい車椅子におろされる。
「無理しなくても俺が運んであげるから動き回らないで。かわいいお姫様の肌に俺の知らないところで傷がつくのは嫌なんだ」
そう言って、歩く練習の際に転んで擦りむいた膝の傷口に指でふれた後に、優しい手つきで撫でまわした。あまりの気持ち悪さにうっかり蹴飛ばした。
(まずい、やってしまった)
トリスはにっこりと笑った。とても嫌な笑みだ。これはまずいかもしれない。
「悪いお姫様だね。駄目だよ蹴ったら痛いからね。もしも次に蹴ったりしたら勿体ないからしたくないけどその綺麗な白い足を折って二度と動かないようにしてしまうよ」
優しい声色で言う言葉ではない。この男は完全に狂っている。僕は狂った人間を何人も見たことがあるがこの男のそれは月の国で出会った狂気とは違う。それが何かは全く分からないが気持ちが悪くて仕方がない。しかし逆上させるのは悪手である。今は耐えるしかない。
「もうしない」
「えらいね。俺のお姫様は良い子で賢いね」
「……僕のところにばかりくるけどレミーナは……」
「嫉妬?安心していい。俺は今も昔もお姫様にしか興味が湧かないから。愛しているのは君だけだよ」
「違う、レミーナをないがしろにしたりしていなだろうな」
思わず怒りが込みあがてしまった。レミーナがもしこいつのせいで不幸になっていたらそれを考えたら腸が煮えくり返る。するとニコニコまたトリスが笑う。
「ねぇ、ルーファス様。ルーファス様が俺だけのものになってくれるなら、レミーナの身の安全や幸せは保証してあげるよ」
あまりの言葉に絶句する。こいつは何を言っているんだ。同じ男の僕に何を言っているんだ。完全に思考が静止する。しかしトリスは昏い瞳で僕を見つめている。
「お前のものになるって……」
「もちろん、俺の好きにさせてもらう。可愛いルーファスの全てを俺が貰うってことだよ」
「……僕は男だ」
「知っているよお姫様。そう、男じゃなければ、君がお姫様なら俺はとうの昔に幸せだったよ」
そう少し切なげに笑ったトリスはまるで何かを思い出しているようだった。
「君がお姫様なら、僕はきみにはじめてあってすぐに婚約を打診しただろうし、それが断られてもあきらめなかっただろうし、必ず君を世界一幸せな花嫁にしたと誓えるよ」
「貴殿みたいな独りよがりの人間が?」
「ははは。確かに強引な手段をとってしまったね。でもそれは君が男だったからだ。君がお姫様なら、ただトロトロに甘やかして甘やかして俺なしでは生きれないものにしてずっとずっと幸せにしてあげたしちゃんと正当な手筈を踏んで祝福だってされたはずだよ」
しかし、現実はそうではない。大体女でもこんな男は願い下げだ。
「まぁ。もしもの話なんていいんだ。俺はちゃんと合意の上で君を俺だけのものにしたいんだよ。だから取引を持ちかけた。すぐに答えられないなら1週間期限をあげよう。それまでにどうするか決めたらいいよ。もちろん断ることもできる。でもその場合は……」
これは脅しだった。レミーナを人質に僕の口から陥落しろとこの男は言っているのだ。
(くそっ、レミーナのことがなければ自殺してやるのに)
レミーナだけはどうにか救いたい。けれどこいつの慰み者になど死んでもなりたくないしなるくらいなら壁に頭を打ち付けて憤死するだろう。
しかし、怒りをなんとかおさめてトリスを僕は見据えた。
「わかった1週間後に返事をする」
「ありがとう。ああ。これでやっと俺の夢がかなう」
そう、恍惚とした笑みを浮かべた男は完全に狂っている。そして、何か歌のようなものを口ずさみながら、車椅子を押して、そのまま部屋の外に連れ出した。
11
お気に入りに追加
432
あなたにおすすめの小説
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
【完結済】ラーレの初恋
こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた!
死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし!
けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──?
転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。
他サイトにも掲載しております。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる