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第二章:海の国と呪われた血筋

25.海の王子の旅立ちと不幸令嬢

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「レミリア……レミリア……」

クリストファーは虚ろな目でつぶやいた。そうして彼女が王宮へ住む前に贈られていた手紙を読みながら涙を流していた。特に最後の署名に書かれている文字を何度も何度もなぞるように読み返す。

『愛をこめて レミリア』

確かに、その手紙をやり取りしていた時、レミリアはクリストファーを愛していたはずだと思うと自身の行いで遠くへ行ってしまったレミリアのことが、レミリアの笑顔が思い出されて胸が苦しくなった。

(レミリア、君の笑顔が好きだ、君の声が好きだ、君の優しさもあたたかさも君を作り出す全てが好きだ。君がいないと僕には息をすることすら辛い。僕は……)

思考の袋小路にハマっているが、そのすべてがレミリアを取り返す方法の答えを導き出してはくれない。

あの後、月の国への攻撃も繰り返してはいるが、あちら側からの反応は一切ない。正確には攻撃は全て防がれていて、何をしても中に入ることができないということだった。

「月の国、ムーンティア王国。どうすればレミリアを取り返せる?それに、レミリアの体も心配だ……」

父である陛下からは太陽の国であるサンソレイユ帝国へ行く許可はおろしてもらえていない。けれど、愛するレミリアの体が今どのような状態であるのかが心配で仕方がない。

サンソレイユ帝国の現皇帝はレミリアの祖父にあたるため、決して酷い扱いは受けていないと思ってはいたが、とにかくいてもたってもいられなかった。

「ムーンティア王国については別で調べつつ、せめてレミリアに会いに行こう」

サンソレイユ帝国へは決して遠い道のりではない。馬車で一週間もあれば帝都であるジャンナに行くことができる。ただし、行くためには通行許可証が必要となる。しかし父王が通行許可証を出してくれることはない。

しかし、それを乗り越える方法を考える必要が必要だった。その方法こそが浮かばない袋小路でもあるのだが。

「どうすれば、通行許可証を発行いただけるか……」

「通行許可証が欲しいなら、別にレミリア公女を理由にしなければよろしいのではありませんか?」

側近がそう悩み続けて公務にも身が入らないクリストファーに告げた。

「どういうことだ?」

「サンソレイユ帝国には、それはそれは多くのアトラス王国出身のご親類がおりますでしょう。特に、皇后様の御母君であらせられるクシナダ様もサンソレイユ帝国に輿入れされて今も離宮で暮らされているではありませんか、そちらを訪ねる名目なら、通行許可証も頂けるかと」

「しかし、父上はそもそも僕をサンソレイユに行かせたくないと考えている訳で……」

「何も通行許可証は陛下からもらう必要はありません。もうひとり、通行許可証を出せる方がいらっしゃいますでしょう」

そう言われてクリストファーはポンと手を叩いた。通行許可証を発行できるのは国王、王太子、役所である。役所については国王の手が回っている可能性が高いが、王太子、つまりクリストファーの兄からなら貰える可能性がある。

なぜなら、王太子はとてもズボラな性格だとクリストファーは認識している。彼ならばクリストファーの申請を大して読まずに承認するだろうことが予測できた。

「今から、おばあ様を訪ねる名目で通行許可証の申請をしに行く」

なんとしてもレミリアを取り戻すと固く誓い、クリストファーは通行許可書の書類を丁寧に作成したのだった。


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