17 / 143
第一章:れんごくの国と約束の娘
16.太陽の娘と不幸令嬢
しおりを挟む
「太陽の娘」その言葉は確かずっと昔におとぎ話で聞いたような記憶がレミリアにはあった。けれどおとぎ話で聞いたようなものに自分が例えられるのはなんだか奇妙な感覚がした。
確かそのおとぎ話は「れんごくの国」の一部、だった気がする。「れんごくの国」はいくつかの話が連作になってひとつの絵本に入っているタイプのお話しだった気がした。
「太陽の娘」が出てくるのはその中のひとつ、「たいようの国」という話だっただろうか。うろ覚えだがその内容は確か、太陽の神様が作った太陽の国。その王様は神様の血を引いた太陽の化身。太陽の国の王族は男ばかり生まれるけど、ごく稀に女の子が生まれた場合、その子を「太陽の娘」という。「太陽の娘」は月を照らし、深海も照らす素晴らしい存在で、太陽の生まれ変わりだから大切にしなければいけないという教訓のような内容だったはずだ。
(そんなおとぎ話の存在と私が結びつくはずはない)
「あれ、姫君は「たいようの国」をご存じありませんか?小さい子供も知っているおとぎ話で……」
「ヨミ、やめろ」
不機嫌に話をルーファスが遮る。しかしその感情は不機嫌というよりもっと深いものを感じるものだった。それを表現するなら恐れとでもいうのだろうか……。
「殿下、いつまで隠していても話が進みませんよ。レミリア姫、貴方の母君は「太陽の娘」なのです。聞いたことはありませんか、母君はサンソレイユ帝国の出身だと」
「……隣国の貴族であるとは聞いていましたが、まさかお姫様とは知りませんでした」
「正確には公爵令嬢ですが、母君の父は皇帝で婚外子だったのです。母君が「太陽の娘」だったので望まれて海の国の呪われていた公爵令息と婚姻したのです」
「嘘です。あの人と母は仲が良かったことなんてなかったはずです……」
レミリアはずっと父は母と無理やり婚姻させられたため母を愛していなかったと思っていたし、だからこそレミリアを放置したと考えていた。しかし、ヨミの話ではまるで父側が望んでの婚姻だったように思えた。
「母君はレミリア姫が2歳の頃には亡くなられましたよね。だとしたら記憶が曖昧なのかもしれませんね。普通その当時の記憶はないですから。伝え聞く話では大層仲睦まじかったと聞いておりましたし、そもそも呪われた人間は「太陽の娘」に触れればその喜びから手放したくなんて絶対ないはずです」
(だとしたら、何故、あの館には母の持ち物や形跡が何もなかったのだろう。それに父は元の婚約者と再婚した……愛する娘もできて……)
そう考えた時、レミリアは今まで考えもしなかったある考えが浮かんでしまった。レミリアが2歳の時に母は死んだ。しかし、レミリアと妹の年の差は2歳だ。今までは父が昔の婚約者とその間も愛をはぐくんでいたのだろうと考えていたが、もしヨミの話通り父と母が愛し合っていたとしたら、果たしてその子供、妹は父の本当の娘なのだろうか。
「レミー、あまり言いたくなかったんだけど、君の家族は君の目に見えているよりずっと複雑なようだったよ、特に父親は君に対して妙に他人行儀だっただろう?」
「そうよ、放置されてきたの。もしあの人がお母様を愛していたなら私を嫌う理由はなんだったのだろう……」
「……それは君も「太陽の娘」だったからだろう」
「太陽の娘」とは太陽の皇帝の娘を指す言葉だ。レミリアは孫にあたるだろうがそれは適切ではないと考えている。しかしルーファスはつづけた。
「本来、太陽の皇帝の孫には引き継がれないはずなのに、君は黒い髪に金色の瞳で生まれてきた。それは「太陽の娘」の証だ。そしてなにより、君の心はひだまりのように優しくあたたかい。僕にはわかる、君は太陽だと」
「太陽って……大げさだよ。でも、私にもその力がある場合どうして父が私を避けることにつながるの?」
「それは……君の父君は「太陽を失くしてしまった男」だからだよ。自身の太陽を失くすと「太陽狂い」になってしまうんだ。そうなると……自身の意思とは関係なくもし太陽に触れることがあった場合、それを異常に欲してしまうんだよ」
その言葉に何故か機械のように話す公爵の姿をレミリアは思い出した。あれはわざと感情を押し殺していたというのだろうか。
「本当は抱きしめてあげたいとおもったかもしれない。けれど抱きしめたら狂うことが分かっていて触れられなかったのだろうね」
ルーファスの眼差しはさみしげに遠くを眺めていた。それは同情でもしているような感傷的な表情に見えた。レミリアの体がふるえる。それは今まで見えていなかった暗い何かに触れた気がしていたからだ。
心臓が鼓動を早めるのは緊張から。それくらいレミリアは動揺していた。
(お父様は私を愛していたの?でも愛していても近くにいることができなかった?だとしたらせめて話して欲しかったよ。触れなくても言葉にはできるもの)
「とりあえず、「太陽狂い」については置いておいて、そろそろ宮殿にもどろう。寒くなってきたし、レミーが風邪を引いたら、僕は心配で死んでしまうかもしれないからね」
震えるレミリアの肩にルーファスのあたたかい手が優しくのせられた。そのぬくもりにほんの少し安堵しつつもレミリアの心は掻きみだされていた。
そして、自身をただの不幸な女だと思っていたのに、それ以上に因縁めいた何かを背負っているという事実が分かり、レミリアはひとり言いようのない不安感に襲われたのだった。
確かそのおとぎ話は「れんごくの国」の一部、だった気がする。「れんごくの国」はいくつかの話が連作になってひとつの絵本に入っているタイプのお話しだった気がした。
「太陽の娘」が出てくるのはその中のひとつ、「たいようの国」という話だっただろうか。うろ覚えだがその内容は確か、太陽の神様が作った太陽の国。その王様は神様の血を引いた太陽の化身。太陽の国の王族は男ばかり生まれるけど、ごく稀に女の子が生まれた場合、その子を「太陽の娘」という。「太陽の娘」は月を照らし、深海も照らす素晴らしい存在で、太陽の生まれ変わりだから大切にしなければいけないという教訓のような内容だったはずだ。
(そんなおとぎ話の存在と私が結びつくはずはない)
「あれ、姫君は「たいようの国」をご存じありませんか?小さい子供も知っているおとぎ話で……」
「ヨミ、やめろ」
不機嫌に話をルーファスが遮る。しかしその感情は不機嫌というよりもっと深いものを感じるものだった。それを表現するなら恐れとでもいうのだろうか……。
「殿下、いつまで隠していても話が進みませんよ。レミリア姫、貴方の母君は「太陽の娘」なのです。聞いたことはありませんか、母君はサンソレイユ帝国の出身だと」
「……隣国の貴族であるとは聞いていましたが、まさかお姫様とは知りませんでした」
「正確には公爵令嬢ですが、母君の父は皇帝で婚外子だったのです。母君が「太陽の娘」だったので望まれて海の国の呪われていた公爵令息と婚姻したのです」
「嘘です。あの人と母は仲が良かったことなんてなかったはずです……」
レミリアはずっと父は母と無理やり婚姻させられたため母を愛していなかったと思っていたし、だからこそレミリアを放置したと考えていた。しかし、ヨミの話ではまるで父側が望んでの婚姻だったように思えた。
「母君はレミリア姫が2歳の頃には亡くなられましたよね。だとしたら記憶が曖昧なのかもしれませんね。普通その当時の記憶はないですから。伝え聞く話では大層仲睦まじかったと聞いておりましたし、そもそも呪われた人間は「太陽の娘」に触れればその喜びから手放したくなんて絶対ないはずです」
(だとしたら、何故、あの館には母の持ち物や形跡が何もなかったのだろう。それに父は元の婚約者と再婚した……愛する娘もできて……)
そう考えた時、レミリアは今まで考えもしなかったある考えが浮かんでしまった。レミリアが2歳の時に母は死んだ。しかし、レミリアと妹の年の差は2歳だ。今までは父が昔の婚約者とその間も愛をはぐくんでいたのだろうと考えていたが、もしヨミの話通り父と母が愛し合っていたとしたら、果たしてその子供、妹は父の本当の娘なのだろうか。
「レミー、あまり言いたくなかったんだけど、君の家族は君の目に見えているよりずっと複雑なようだったよ、特に父親は君に対して妙に他人行儀だっただろう?」
「そうよ、放置されてきたの。もしあの人がお母様を愛していたなら私を嫌う理由はなんだったのだろう……」
「……それは君も「太陽の娘」だったからだろう」
「太陽の娘」とは太陽の皇帝の娘を指す言葉だ。レミリアは孫にあたるだろうがそれは適切ではないと考えている。しかしルーファスはつづけた。
「本来、太陽の皇帝の孫には引き継がれないはずなのに、君は黒い髪に金色の瞳で生まれてきた。それは「太陽の娘」の証だ。そしてなにより、君の心はひだまりのように優しくあたたかい。僕にはわかる、君は太陽だと」
「太陽って……大げさだよ。でも、私にもその力がある場合どうして父が私を避けることにつながるの?」
「それは……君の父君は「太陽を失くしてしまった男」だからだよ。自身の太陽を失くすと「太陽狂い」になってしまうんだ。そうなると……自身の意思とは関係なくもし太陽に触れることがあった場合、それを異常に欲してしまうんだよ」
その言葉に何故か機械のように話す公爵の姿をレミリアは思い出した。あれはわざと感情を押し殺していたというのだろうか。
「本当は抱きしめてあげたいとおもったかもしれない。けれど抱きしめたら狂うことが分かっていて触れられなかったのだろうね」
ルーファスの眼差しはさみしげに遠くを眺めていた。それは同情でもしているような感傷的な表情に見えた。レミリアの体がふるえる。それは今まで見えていなかった暗い何かに触れた気がしていたからだ。
心臓が鼓動を早めるのは緊張から。それくらいレミリアは動揺していた。
(お父様は私を愛していたの?でも愛していても近くにいることができなかった?だとしたらせめて話して欲しかったよ。触れなくても言葉にはできるもの)
「とりあえず、「太陽狂い」については置いておいて、そろそろ宮殿にもどろう。寒くなってきたし、レミーが風邪を引いたら、僕は心配で死んでしまうかもしれないからね」
震えるレミリアの肩にルーファスのあたたかい手が優しくのせられた。そのぬくもりにほんの少し安堵しつつもレミリアの心は掻きみだされていた。
そして、自身をただの不幸な女だと思っていたのに、それ以上に因縁めいた何かを背負っているという事実が分かり、レミリアはひとり言いようのない不安感に襲われたのだった。
12
お気に入りに追加
432
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる