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第一章:れんごくの国と約束の娘
13.沈丁花と不幸令嬢
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月の宮殿を抜けると、夜の闇の中にランプの灯がともる美しい並みが広がっている。カラフルな幾何学模様の中にほんのりと浮かぶ灯が揺れる。
それが町中を覆うようにまるでランプの街であるように広がる様はとても幻想的で素敵だった。そして、それと同じくらい気になることがレミリアにはあった。
「ねぇ、ルー。この香りはなに?」
まるでジャスミンのような香りなのだが、それよりも優雅で心地良い甘い香りが先ほどから町を覆っているのだ。それは人の生活の営みの香りよりも強く、レミリアには不思議だった。
「ああ、これがゲツライコウの香りだよ」
「そうなの!!こんなに良い香りがするんだね。私見る前からその花が好きになりそうだな」
レミリアはキンモクセイが好きだ。そして、沈丁花も好きだ。百合と薔薇なら百合が好きだ。どちらかというと香りが比較的する花を好む傾向にある。それもあり、今既に町を漂うゲツライコウの香りはレミリアにとってとても好ましいものだった。
その言葉にルーファスが幸せそうな笑みを浮かべる。
「良かった。レミーも好きになってくれそうでうれしいよ」
「そうだね。とういえばずっと気になっていたんだけど……」
レミリアは何気なくずっと気になっていたことがあった。それはルーファスからただよう沈丁花の香りだ。いままでレミリアはゲツライコウについて香りの強い花だと思っていなかった、それもここまで心地よい香りのする花であるならば、その香りをルーファスは身近に置く気がした。
けれど、ルーファスからは常に沈丁花の香りがするのが急に不思議になった。
「ルーは沈丁花が好きなの?」
何気ない質問だった。それこそ天気でも聞くくらいの本当に何気ないもの。しかし、その瞬間ルーファスの表情が明らかに変わる。それは先ほどの優しい笑みともヨミと話していた時のしかめっ面でもない。あのおとぎ話をした時のような昏い「無」に近い表情だ。
「ごめん、嫌なこと聞いたかな?」
「違うよ、違う、だって、沈丁花は君が、君が……」
何かをまるで全てを吐き出すように、叫ぶようにルーファスが言おうとした時だった。
「殿下、置き去りとか本当にするのは酷いですよ!!」とヨミが人懐っこい困った顔をしながら走ってきた。
その脱力するような言葉と様子にルーファスの表情がしかめっ面になる。まるで先ほどの表情等なかったかのように空気が和らいでいく。
(沈丁花、ルーファスどうしてあんなに怖い顔してたのかな……おとぎ話の時もそうだったけど……)
それ以上知らない方がいいとも思ったけれどその疑問はレミリアの心に確かに棘のように刺さった。それから結局三人でゲツライコウの咲く丘へやってきた。
そして、レミリアが想像していたのとは全然違う花が咲いていた。真っ白で大きな、とても美しいその花はサボテンのような棘を持った大きな木のように咲いていた。
レミリアがイメージしていたゲツライコウはジャスミンのような清楚な白い花だったがゲツライコウはまるで夜の女王様とでもいうような貫禄と天国に咲く花のような不思議な魅力にあふれていた。
「綺麗ね」
「そうだろう」
「まるでルーみたいね」
その浮世離れした美しい様はまさにルーファスに似ていた。するとルーファスは少し恥ずかしそうにしながら、レミリアの手を握ると美しい顔を幸せそうな笑顔にしてレミリアの瞳を見つめた。
(なんだろう、すごく胸がドキドキする)
「僕は僕より、レミーに似てるって思ったんだ。綺麗ででも綺麗なだけじゃなく堂々としていた本当にお姫様みたいだなって」
「そんなこと言ってくれるのはルーファスくらいよ。私王宮でなんて呼ばれてたと思う?」
「まさか、酷いことを言われてたのかい?」
ルーファスの周りの外気温が笑顔なのに下がった気がするが、その辺りはレミリアは意に介さず話を進める。
「私、向日葵ってよばれてたのよ。でもあまりその呼び名が好きじゃないの」
「向日葵。確かに太陽に近いけど……」
「向日葵って、太陽みたいだけど全然儚さとかないし、なんというか逞しい感じが私はして令嬢を例えるには適さないってこっそり思っていたわ」
向日葵が悪い訳じゃない。けれどレミリアは常にたくましい女性という扱いをされていた。確かに健康で基本的に笑っていて存在感のある黄金の瞳を持つ彼女には似合うのだが、例えば薔薇のようだとか白百合のようだみたいな誉め言葉とは到底思えなかった。
「レミーは確かに太陽みたいだけど、向日葵よりはゲツライコウの方が似合うとおもうな」
「ありがとう。ルーは優しいね」
自然に距離が近づくふたり。お互いのぬくもりが側にあるだけでこんなに幸せだなんてレミリアは考えたこともなかった。
(このまま時がとまればいいのに……)
「レミー、僕は君がずっと……」
「はいはい、おふたりとも、私もいますからねー。いや、本当は空気に徹するか迷いましたが、まだ未成年の淫行を見逃すわけにはいかないので」
いきなりふたりの間に割って入ってきたヨミに明らかに殺意の籠った目を向けるルーファス。
「お前、邪魔するなって言っただろう」
「ははは、仕方ないじゃないですか」
「不敬だ」
「じゃあ、殿下はこの憐れな魔法騎士を殺しますか。まぁ、意味ないですけど」
軽い調子でそう言って笑う。その違和感にレミリアは思わず反応する。
「殺しても意味がないって……なんでです?」
「殿下まだ説明してなかったんですか?この国は……」
ヨミが何かを言いかけた時、突然奇妙な音がした。それは花火を打ち上げたような大きな爆発音だった。
それが町中を覆うようにまるでランプの街であるように広がる様はとても幻想的で素敵だった。そして、それと同じくらい気になることがレミリアにはあった。
「ねぇ、ルー。この香りはなに?」
まるでジャスミンのような香りなのだが、それよりも優雅で心地良い甘い香りが先ほどから町を覆っているのだ。それは人の生活の営みの香りよりも強く、レミリアには不思議だった。
「ああ、これがゲツライコウの香りだよ」
「そうなの!!こんなに良い香りがするんだね。私見る前からその花が好きになりそうだな」
レミリアはキンモクセイが好きだ。そして、沈丁花も好きだ。百合と薔薇なら百合が好きだ。どちらかというと香りが比較的する花を好む傾向にある。それもあり、今既に町を漂うゲツライコウの香りはレミリアにとってとても好ましいものだった。
その言葉にルーファスが幸せそうな笑みを浮かべる。
「良かった。レミーも好きになってくれそうでうれしいよ」
「そうだね。とういえばずっと気になっていたんだけど……」
レミリアは何気なくずっと気になっていたことがあった。それはルーファスからただよう沈丁花の香りだ。いままでレミリアはゲツライコウについて香りの強い花だと思っていなかった、それもここまで心地よい香りのする花であるならば、その香りをルーファスは身近に置く気がした。
けれど、ルーファスからは常に沈丁花の香りがするのが急に不思議になった。
「ルーは沈丁花が好きなの?」
何気ない質問だった。それこそ天気でも聞くくらいの本当に何気ないもの。しかし、その瞬間ルーファスの表情が明らかに変わる。それは先ほどの優しい笑みともヨミと話していた時のしかめっ面でもない。あのおとぎ話をした時のような昏い「無」に近い表情だ。
「ごめん、嫌なこと聞いたかな?」
「違うよ、違う、だって、沈丁花は君が、君が……」
何かをまるで全てを吐き出すように、叫ぶようにルーファスが言おうとした時だった。
「殿下、置き去りとか本当にするのは酷いですよ!!」とヨミが人懐っこい困った顔をしながら走ってきた。
その脱力するような言葉と様子にルーファスの表情がしかめっ面になる。まるで先ほどの表情等なかったかのように空気が和らいでいく。
(沈丁花、ルーファスどうしてあんなに怖い顔してたのかな……おとぎ話の時もそうだったけど……)
それ以上知らない方がいいとも思ったけれどその疑問はレミリアの心に確かに棘のように刺さった。それから結局三人でゲツライコウの咲く丘へやってきた。
そして、レミリアが想像していたのとは全然違う花が咲いていた。真っ白で大きな、とても美しいその花はサボテンのような棘を持った大きな木のように咲いていた。
レミリアがイメージしていたゲツライコウはジャスミンのような清楚な白い花だったがゲツライコウはまるで夜の女王様とでもいうような貫禄と天国に咲く花のような不思議な魅力にあふれていた。
「綺麗ね」
「そうだろう」
「まるでルーみたいね」
その浮世離れした美しい様はまさにルーファスに似ていた。するとルーファスは少し恥ずかしそうにしながら、レミリアの手を握ると美しい顔を幸せそうな笑顔にしてレミリアの瞳を見つめた。
(なんだろう、すごく胸がドキドキする)
「僕は僕より、レミーに似てるって思ったんだ。綺麗ででも綺麗なだけじゃなく堂々としていた本当にお姫様みたいだなって」
「そんなこと言ってくれるのはルーファスくらいよ。私王宮でなんて呼ばれてたと思う?」
「まさか、酷いことを言われてたのかい?」
ルーファスの周りの外気温が笑顔なのに下がった気がするが、その辺りはレミリアは意に介さず話を進める。
「私、向日葵ってよばれてたのよ。でもあまりその呼び名が好きじゃないの」
「向日葵。確かに太陽に近いけど……」
「向日葵って、太陽みたいだけど全然儚さとかないし、なんというか逞しい感じが私はして令嬢を例えるには適さないってこっそり思っていたわ」
向日葵が悪い訳じゃない。けれどレミリアは常にたくましい女性という扱いをされていた。確かに健康で基本的に笑っていて存在感のある黄金の瞳を持つ彼女には似合うのだが、例えば薔薇のようだとか白百合のようだみたいな誉め言葉とは到底思えなかった。
「レミーは確かに太陽みたいだけど、向日葵よりはゲツライコウの方が似合うとおもうな」
「ありがとう。ルーは優しいね」
自然に距離が近づくふたり。お互いのぬくもりが側にあるだけでこんなに幸せだなんてレミリアは考えたこともなかった。
(このまま時がとまればいいのに……)
「レミー、僕は君がずっと……」
「はいはい、おふたりとも、私もいますからねー。いや、本当は空気に徹するか迷いましたが、まだ未成年の淫行を見逃すわけにはいかないので」
いきなりふたりの間に割って入ってきたヨミに明らかに殺意の籠った目を向けるルーファス。
「お前、邪魔するなって言っただろう」
「ははは、仕方ないじゃないですか」
「不敬だ」
「じゃあ、殿下はこの憐れな魔法騎士を殺しますか。まぁ、意味ないですけど」
軽い調子でそう言って笑う。その違和感にレミリアは思わず反応する。
「殺しても意味がないって……なんでです?」
「殿下まだ説明してなかったんですか?この国は……」
ヨミが何かを言いかけた時、突然奇妙な音がした。それは花火を打ち上げたような大きな爆発音だった。
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