10 / 143
第一章:れんごくの国と約束の娘
09.ルーファスと不幸令嬢
しおりを挟む
たいようのくにとつきのくにのおうさまたちはやくそくをしました
たいようのくににおひめさまがうまれたらつきのくにのおうじさまとけっこんすると
けれどたいようのおひめさまにこいをしたうみのくにのおうじさまは
おひめさまをさらってしまいました
おこったつきのくにのおうさまはうみのくにのおうぞくにのろいをかけました
そして、おひめさまをうばわれたつきのおうじさまは……
「ここはどこ?」
目を覚ましたレミリアがまず見たのは見たことがない美しい天井だった。それは夜の星空のような美しい群青にキラキラした星が浮かび上がっているように見える。少なくともそんな場所をレミリアは知らない。
「よかった、レミー、目が覚めたんだね」
「貴方は……ルーファス??」
「そうだよ、レミー」
レミリアは驚きのあまり大声を出してしまった。青年に成長したルーファスがレミリアを抱きしめたからだ。銀色の髪に紫の瞳をしたその青年はこの世の者とは思えないほど美しく、そのあたたかい腕の中でレミリアの心臓は早鐘を打つのがわかった。
(私は死んだはずではないの?)
あのキンモクセイの木の前で、レミリアは毒を飲んで死んだはずだった。脈が速くなり心臓が止まると思った時に誰かに呼ばれた気がしたが、それとは別であたたかい腕に抱きとめられたのを思い出した。
「ルーファス、教えて。ここは天国?それとも地獄?」
自殺した人の魂は地獄へ堕ちると聞いたことある。ならばここは地獄なのかもしれない。けれどルーファスがいてくれるならそれが地獄でも構わないとレミリアは思った。
少なくとも生きている時にレミリアを愛する人などひとりもいなかった、むしろそちらのが地獄だったのだから。レミリアの瞳から自然に零れていく涙をルーファスの綺麗な指先が壊れ物でも扱うように繊細に拭う。
「どちらでもないよ。ここは僕の国だ。レミー、ううん。僕のレミー。やっとこちらへ迎えられて嬉しいよ」
綺麗な笑顔だった。その笑顔はとても綺麗で汚いところがひとつもない。それを息がかかるほど間近で見たレミリアの胸の奥でとても熱い感情が萌芽した。それが何かまだレミリアには分からなかった。
「迎えるって……私、確か毒を飲んだの。だからここは死後の世界かなって思ったんだけど……」
「大丈夫だよ。後その……昔みたいにルーって呼んでくれるかな」
肯定されたおかげで心が落ち着いていく。それは今までレミリアが味わったことのないとてもあたたかい感情で安堵と呼ぶものだった。気付けばまるで決壊したダムみたいに涙腺が崩壊して、レミリアは泣いていた。ずっと泣けなかったのにそれが戻ってきたように胸の中で荒れ狂う。激しい嵐の海のように。
「ルー、ルー」
とその大切な名前を何度も壊れたように連呼することしかできず、ひたすらに涙が零れ落ちた。いつもならそんなことしたら見捨てられたり軽蔑されるという恐怖が募るのに、今は違う。ルーファスだけはレミリアを見捨てないという確信がある。
(誰が見捨ててもルーファスは見捨てない。そしてルーファスだけは必ずわかってくれる。そして約束通り彼はちゃんと迎えに来てくれた)
「いいんだよ。レミー君はよく頑張ったよ。もう頑張らないでいいんだ。これからはずっと僕と一緒にいよう」
あたたかい手がその髪を撫でる。そのぬくもりを感じた時、レミリアの意識がふよふよと浮遊する。とてもとても眠くなる。
「今はゆっくりお休み。大丈夫。必ず僕が君を守るからね」
額にキスを落とされる。まるで幼子をいとおしむようなそれでいて慈悲深いぬくもり。そして、その優しい声に安心してまるで小さな子供みたいにレミリアは眠りについた。そのまどろみの中遠く遠く何故かとても昏い響きのする声がした気がした。
「ずっとずっと待っていたよ。やっと手に入れた僕だけの太陽」
けれど、それはきっと夢だとレミリアはその時何も気にすることはなかった。
たいようのくににおひめさまがうまれたらつきのくにのおうじさまとけっこんすると
けれどたいようのおひめさまにこいをしたうみのくにのおうじさまは
おひめさまをさらってしまいました
おこったつきのくにのおうさまはうみのくにのおうぞくにのろいをかけました
そして、おひめさまをうばわれたつきのおうじさまは……
「ここはどこ?」
目を覚ましたレミリアがまず見たのは見たことがない美しい天井だった。それは夜の星空のような美しい群青にキラキラした星が浮かび上がっているように見える。少なくともそんな場所をレミリアは知らない。
「よかった、レミー、目が覚めたんだね」
「貴方は……ルーファス??」
「そうだよ、レミー」
レミリアは驚きのあまり大声を出してしまった。青年に成長したルーファスがレミリアを抱きしめたからだ。銀色の髪に紫の瞳をしたその青年はこの世の者とは思えないほど美しく、そのあたたかい腕の中でレミリアの心臓は早鐘を打つのがわかった。
(私は死んだはずではないの?)
あのキンモクセイの木の前で、レミリアは毒を飲んで死んだはずだった。脈が速くなり心臓が止まると思った時に誰かに呼ばれた気がしたが、それとは別であたたかい腕に抱きとめられたのを思い出した。
「ルーファス、教えて。ここは天国?それとも地獄?」
自殺した人の魂は地獄へ堕ちると聞いたことある。ならばここは地獄なのかもしれない。けれどルーファスがいてくれるならそれが地獄でも構わないとレミリアは思った。
少なくとも生きている時にレミリアを愛する人などひとりもいなかった、むしろそちらのが地獄だったのだから。レミリアの瞳から自然に零れていく涙をルーファスの綺麗な指先が壊れ物でも扱うように繊細に拭う。
「どちらでもないよ。ここは僕の国だ。レミー、ううん。僕のレミー。やっとこちらへ迎えられて嬉しいよ」
綺麗な笑顔だった。その笑顔はとても綺麗で汚いところがひとつもない。それを息がかかるほど間近で見たレミリアの胸の奥でとても熱い感情が萌芽した。それが何かまだレミリアには分からなかった。
「迎えるって……私、確か毒を飲んだの。だからここは死後の世界かなって思ったんだけど……」
「大丈夫だよ。後その……昔みたいにルーって呼んでくれるかな」
肯定されたおかげで心が落ち着いていく。それは今までレミリアが味わったことのないとてもあたたかい感情で安堵と呼ぶものだった。気付けばまるで決壊したダムみたいに涙腺が崩壊して、レミリアは泣いていた。ずっと泣けなかったのにそれが戻ってきたように胸の中で荒れ狂う。激しい嵐の海のように。
「ルー、ルー」
とその大切な名前を何度も壊れたように連呼することしかできず、ひたすらに涙が零れ落ちた。いつもならそんなことしたら見捨てられたり軽蔑されるという恐怖が募るのに、今は違う。ルーファスだけはレミリアを見捨てないという確信がある。
(誰が見捨ててもルーファスは見捨てない。そしてルーファスだけは必ずわかってくれる。そして約束通り彼はちゃんと迎えに来てくれた)
「いいんだよ。レミー君はよく頑張ったよ。もう頑張らないでいいんだ。これからはずっと僕と一緒にいよう」
あたたかい手がその髪を撫でる。そのぬくもりを感じた時、レミリアの意識がふよふよと浮遊する。とてもとても眠くなる。
「今はゆっくりお休み。大丈夫。必ず僕が君を守るからね」
額にキスを落とされる。まるで幼子をいとおしむようなそれでいて慈悲深いぬくもり。そして、その優しい声に安心してまるで小さな子供みたいにレミリアは眠りについた。そのまどろみの中遠く遠く何故かとても昏い響きのする声がした気がした。
「ずっとずっと待っていたよ。やっと手に入れた僕だけの太陽」
けれど、それはきっと夢だとレミリアはその時何も気にすることはなかった。
14
お気に入りに追加
432
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる