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プロローグ
03.王子様と不幸令嬢
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レミリアの婚約者である第二王子のクリストファーは王宮に来てから意味もなくレミリアの側へやってくる変な人だった。けれどそれは真面目な彼の義務感からだろうとレミリアは思っていた。
また、レミリアは愛されたことも憧れるような恋を近くで見たこともなかったから恋とか愛とかが良く分からなかったし、もっと根本的に幸せな夫婦というものがよくわからなかった。
読んでいた本にも恋愛についての話はなかったのでレミリアには恋愛とか結婚への憧れは皆無だった
「レミリア、君の話が聞きたい」
いつもそういって勉強の合間をみてやってきた婚約者は艶のある美しい深い青の海原のような髪とモスグリーンの瞳をした美しい少年だった。しかし彼はいつも無表情が多くその心の中は分からない。
ただ、その何も楽しいことがないような顔をしているところだけレミリアには少し親近感があった。彼は正室が産んだ第二王子だから決してないがしろにされはいない。けれど観察していれば分かる。彼とこの城の人たちとの間には臣下と王族以上に妙な距離があった。それはいつも本宅で使用人から距離を置かれていたレミリア自身と重なる。
(彼はなにも幸せじゃないのね)
しかし、彼には彼を愛してくれる国王様と王妃様と言う両親がいる。いつも会えるわけではないがたまに話をしている姿は道足りているように見える。そこは皆から放置されてここにいるレミリアとは状況は違うが彼からは自分と少し同じ匂いを感じていた。だからレミリアは彼が話したいと来た時に拒むことはなかった。
ただ、話したいと来る割にはいつもクリストファーはレミリアの話すのを待っていた。だから適当にレミリアは話始めるのだった。
「殿下が面白いと思うようなお話が出来るか分かりませんが、そうだこの間見たお花の話をします」
「お花?王宮の庭園に咲いている花の中にお気に入りがあったのか?」
「いえ、私が一番好きなのは家の庭にあるキンモクセイです。あの花は私の本当のお母様が自身の故郷の国から持ってきたものでこの国にはほとんど咲いてません。けどすごく良い香りがするんです」
「キンモクセイ……」
少し笑ったような表情になるクリストファーにレミリアは自分が役に立てたと胸を撫でおろす。正直婚約者なんて言葉はピンとこない。レミリアは「王宮の居候」であるという認識は冗談でもいうが実際もあった。だからせめてこの婚約者にある程度すり寄る必要があるとちゃんと理解していた。
「今度もし機会があったら見に行きますか?花もとても可憐な黄色い小さな花が沢山咲くんですよ。あ、でこの間見た花なんですけどね、そのお花はハエを食べるんです」
「……花が虫を?」
「ええ。食虫植物というらしくて……」
何気ない話に聞き入り、良いタイミングで相槌を打つクリストファーはいつもレミリアと居る時とても楽し気に見えた。レミリアは変な話が好きな変わった王子様なんだろうくらいに考えていた。
そうして何気ない話が終わればまたクリストファーは諸々の用事へ戻り、レミリアも勉強と公爵夫人の業務の一部を行った。
時折話題にだした花や、お菓子をプレゼントしてくれたし、そのお礼にレミリアも面白いと思ったものをクリストファーが喜んだのでお礼にプレゼントした。婚約者として当たり前と言われるやりとり。そしてほんの少しあたたかい気持ちになる交流だった。それはとても短い時間の繰り返しだったがレミリアにも印象深いものだったと後で思い返した時姿を変えるそんな記憶だった。
レミリアはその時、胸に浮かんだあたたかさの名前を知らなかった。
また、レミリアは愛されたことも憧れるような恋を近くで見たこともなかったから恋とか愛とかが良く分からなかったし、もっと根本的に幸せな夫婦というものがよくわからなかった。
読んでいた本にも恋愛についての話はなかったのでレミリアには恋愛とか結婚への憧れは皆無だった
「レミリア、君の話が聞きたい」
いつもそういって勉強の合間をみてやってきた婚約者は艶のある美しい深い青の海原のような髪とモスグリーンの瞳をした美しい少年だった。しかし彼はいつも無表情が多くその心の中は分からない。
ただ、その何も楽しいことがないような顔をしているところだけレミリアには少し親近感があった。彼は正室が産んだ第二王子だから決してないがしろにされはいない。けれど観察していれば分かる。彼とこの城の人たちとの間には臣下と王族以上に妙な距離があった。それはいつも本宅で使用人から距離を置かれていたレミリア自身と重なる。
(彼はなにも幸せじゃないのね)
しかし、彼には彼を愛してくれる国王様と王妃様と言う両親がいる。いつも会えるわけではないがたまに話をしている姿は道足りているように見える。そこは皆から放置されてここにいるレミリアとは状況は違うが彼からは自分と少し同じ匂いを感じていた。だからレミリアは彼が話したいと来た時に拒むことはなかった。
ただ、話したいと来る割にはいつもクリストファーはレミリアの話すのを待っていた。だから適当にレミリアは話始めるのだった。
「殿下が面白いと思うようなお話が出来るか分かりませんが、そうだこの間見たお花の話をします」
「お花?王宮の庭園に咲いている花の中にお気に入りがあったのか?」
「いえ、私が一番好きなのは家の庭にあるキンモクセイです。あの花は私の本当のお母様が自身の故郷の国から持ってきたものでこの国にはほとんど咲いてません。けどすごく良い香りがするんです」
「キンモクセイ……」
少し笑ったような表情になるクリストファーにレミリアは自分が役に立てたと胸を撫でおろす。正直婚約者なんて言葉はピンとこない。レミリアは「王宮の居候」であるという認識は冗談でもいうが実際もあった。だからせめてこの婚約者にある程度すり寄る必要があるとちゃんと理解していた。
「今度もし機会があったら見に行きますか?花もとても可憐な黄色い小さな花が沢山咲くんですよ。あ、でこの間見た花なんですけどね、そのお花はハエを食べるんです」
「……花が虫を?」
「ええ。食虫植物というらしくて……」
何気ない話に聞き入り、良いタイミングで相槌を打つクリストファーはいつもレミリアと居る時とても楽し気に見えた。レミリアは変な話が好きな変わった王子様なんだろうくらいに考えていた。
そうして何気ない話が終わればまたクリストファーは諸々の用事へ戻り、レミリアも勉強と公爵夫人の業務の一部を行った。
時折話題にだした花や、お菓子をプレゼントしてくれたし、そのお礼にレミリアも面白いと思ったものをクリストファーが喜んだのでお礼にプレゼントした。婚約者として当たり前と言われるやりとり。そしてほんの少しあたたかい気持ちになる交流だった。それはとても短い時間の繰り返しだったがレミリアにも印象深いものだったと後で思い返した時姿を変えるそんな記憶だった。
レミリアはその時、胸に浮かんだあたたかさの名前を知らなかった。
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