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08.クリスの巷説
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だれがたいまつ もつのかな?
わたし とべにすずめがいいました
おやすいごようだ
わたしがもとう
「ビクトリアがいなくなった?」
その報告が入った時、柄にもなく心臓が激しく鼓動した。もしかしたらヘンリーの側の人間が先走りビクトリアに危害を加えたかもしれない。
「まだ、すべての謎が解けていない。結局誰がダービー男爵令嬢を殺したか……方角的には」
ボウガンを撃たれた方角にはヘンリーの部屋がある。しかしその時ヘンリーは部屋にはいなかったとアリバイがある。なら誰がマリアを殺したというのか……。
「エドワード様、ビクトリア様は絶対無事に探し出して見せます。だから少し冷静に」
ヴィクトールに窘められて、ハッとするまでずっと部屋を行ったり来たりしていた。ビクトリアが死んでしまっては意味がない。なんとか探し出さねばならない。
「手がかりは何かないのか……」
「わかりません。ただ、その……最後にビクトリア様を見ていたものが変な証言をしていて……ビクトリア様は男と何か話していたと……」
「会話の内容はわかるか?」
「いえ、ただ、その……ビクトリア様は彼の顔を見るなり驚いたように目を見開き、それから何故かついていってしまったと……まるで催眠術にでもかかったみたいに……」
その言葉に思わず息をのむ。催眠術、相手を意のままに操る術は王国では禁術とされている。それを行いビクトリアを連れ去った犯人……。そして、魔法式ボウガンを使うことが許可されている人物となると相当絞られる。
まず、魔法式ボウガンは公爵家以上の家系、つまり王族か公爵家しか所有が実は許されていない。さらにその所有が紛失した際のために所有者の紋章が消せない魔法で付けられている。
この国の公爵家はうちを含めて3家しかないが今回の件に関係ありそうな家などグロスター以外ない。しかしうちのボウガンではないとすれば……
そこまで考えた時、妙な噂を思い出した。
「ヴィクトール、時計台の幽霊の噂に詳しい人間をしらないか?」
「ああ、あの時計台に妙な男が住んでいるって話ですよね?あそこは王家の持ち物ですし、完全なデマだと思いますがね。一応その辺りならクリスが詳しいはずです」
ヴィクトールは下働きのひとりの男の名前を出した。
「彼を呼んできてほしい」
「……あの、正直あいつのいうことは話半分に聞いた方がいいですよ」
すごくげんなりした様子でヴィクトールは部屋を出た。
◇クリスの視点◇
「お呼びでございますか?」
まさか家の主のご長男であるエドワード様からの呼び出しがあるなんて。何かやらかしたと思って震えながら部屋へやってきた。
とりあえずごまをするように上目遣いで主である黒髪の彫像のような男を見た。男は表情ひとつ変えない。何を考えているか全くわからない。
「ああ。お前がクリスか。お前に尋ねたいことがある」
「なんでございましょう。あの、エドワード様が知りたいようなことなどこんな下僕が知っているとは思えませんが……」
「ヴィクトールからお前は時計台の幽霊の噂に詳しいと聞いた。その話をしてほしい」
あまりの言葉に驚いた。エドワード様は現実主義で神秘系の話など聞かないとおもっていたのだけど。しかし、その話やゴシップなら自信がある。俺は媚びた姿勢のままニィと作り笑みを貼りつかせながら話し始めた。
「時計台には幽霊が住んでいる。その幽霊はとても奇妙で巷ではジョン・ドゥって言われていて、その男の顔を見た者はいない。見た者は消えてしまう。その噂を面白がった若者たちが時計台に入ろうとしたけど兵士が常駐していては入れなかったって話です。そこから実はあの時計台の中には王族のご落胤がいるのではないかった一部では噂されてますね。特に身分が低すぎて公に愛妾にもできなかった女との子供って……」
「その幽霊、いやジョン・ドゥの年齢について聞いたことはないか?」
「顔無し男の年齢というと難しい質問ですね。ただ、老人ではないでしょうし、子供でもない。青年~中年くらいだと思われますが……」
「後、分かればでいいがこの噂はいつ頃からささやかれている?」
思った以上に食いつかれて驚いたが、ゆっくり思い出しながら答えた。
「確か、ここ半年くらいですかね。ただ元から時計塔の幽霊話はエドワード様が12歳くらいの頃位からありましたが、その時の噂はもっと違うもので、時計台から叫び声がするというようなものだったと……」
「ありがとう。もういい。下がれ、後ヴィクトールを呼んできてはくれないか?」
「は、はい。分かりました」
わたし とべにすずめがいいました
おやすいごようだ
わたしがもとう
「ビクトリアがいなくなった?」
その報告が入った時、柄にもなく心臓が激しく鼓動した。もしかしたらヘンリーの側の人間が先走りビクトリアに危害を加えたかもしれない。
「まだ、すべての謎が解けていない。結局誰がダービー男爵令嬢を殺したか……方角的には」
ボウガンを撃たれた方角にはヘンリーの部屋がある。しかしその時ヘンリーは部屋にはいなかったとアリバイがある。なら誰がマリアを殺したというのか……。
「エドワード様、ビクトリア様は絶対無事に探し出して見せます。だから少し冷静に」
ヴィクトールに窘められて、ハッとするまでずっと部屋を行ったり来たりしていた。ビクトリアが死んでしまっては意味がない。なんとか探し出さねばならない。
「手がかりは何かないのか……」
「わかりません。ただ、その……最後にビクトリア様を見ていたものが変な証言をしていて……ビクトリア様は男と何か話していたと……」
「会話の内容はわかるか?」
「いえ、ただ、その……ビクトリア様は彼の顔を見るなり驚いたように目を見開き、それから何故かついていってしまったと……まるで催眠術にでもかかったみたいに……」
その言葉に思わず息をのむ。催眠術、相手を意のままに操る術は王国では禁術とされている。それを行いビクトリアを連れ去った犯人……。そして、魔法式ボウガンを使うことが許可されている人物となると相当絞られる。
まず、魔法式ボウガンは公爵家以上の家系、つまり王族か公爵家しか所有が実は許されていない。さらにその所有が紛失した際のために所有者の紋章が消せない魔法で付けられている。
この国の公爵家はうちを含めて3家しかないが今回の件に関係ありそうな家などグロスター以外ない。しかしうちのボウガンではないとすれば……
そこまで考えた時、妙な噂を思い出した。
「ヴィクトール、時計台の幽霊の噂に詳しい人間をしらないか?」
「ああ、あの時計台に妙な男が住んでいるって話ですよね?あそこは王家の持ち物ですし、完全なデマだと思いますがね。一応その辺りならクリスが詳しいはずです」
ヴィクトールは下働きのひとりの男の名前を出した。
「彼を呼んできてほしい」
「……あの、正直あいつのいうことは話半分に聞いた方がいいですよ」
すごくげんなりした様子でヴィクトールは部屋を出た。
◇クリスの視点◇
「お呼びでございますか?」
まさか家の主のご長男であるエドワード様からの呼び出しがあるなんて。何かやらかしたと思って震えながら部屋へやってきた。
とりあえずごまをするように上目遣いで主である黒髪の彫像のような男を見た。男は表情ひとつ変えない。何を考えているか全くわからない。
「ああ。お前がクリスか。お前に尋ねたいことがある」
「なんでございましょう。あの、エドワード様が知りたいようなことなどこんな下僕が知っているとは思えませんが……」
「ヴィクトールからお前は時計台の幽霊の噂に詳しいと聞いた。その話をしてほしい」
あまりの言葉に驚いた。エドワード様は現実主義で神秘系の話など聞かないとおもっていたのだけど。しかし、その話やゴシップなら自信がある。俺は媚びた姿勢のままニィと作り笑みを貼りつかせながら話し始めた。
「時計台には幽霊が住んでいる。その幽霊はとても奇妙で巷ではジョン・ドゥって言われていて、その男の顔を見た者はいない。見た者は消えてしまう。その噂を面白がった若者たちが時計台に入ろうとしたけど兵士が常駐していては入れなかったって話です。そこから実はあの時計台の中には王族のご落胤がいるのではないかった一部では噂されてますね。特に身分が低すぎて公に愛妾にもできなかった女との子供って……」
「その幽霊、いやジョン・ドゥの年齢について聞いたことはないか?」
「顔無し男の年齢というと難しい質問ですね。ただ、老人ではないでしょうし、子供でもない。青年~中年くらいだと思われますが……」
「後、分かればでいいがこの噂はいつ頃からささやかれている?」
思った以上に食いつかれて驚いたが、ゆっくり思い出しながら答えた。
「確か、ここ半年くらいですかね。ただ元から時計塔の幽霊話はエドワード様が12歳くらいの頃位からありましたが、その時の噂はもっと違うもので、時計台から叫び声がするというようなものだったと……」
「ありがとう。もういい。下がれ、後ヴィクトールを呼んできてはくれないか?」
「は、はい。分かりました」
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