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57:敵か味方か??(一部リアム視点)
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(この状況、どうするのが正しいのだろう……)
私は、部屋に戻りベッドに腰掛けて、冷たい水を飲みながら今起きている状況を整理していた。
まず、この家にはファハド王子が居る。ただし現段階で私は彼とは初対面だし、なんなら彼等は隣国の貴族としか名乗っていないため、私が彼を知っているのは不自然だ。そして、そのファハド王子の従者の中に私を睨んでいた謎の女がいた。
そして、次に、例の正妃様襲撃事件の犯人はエマだと、シェリー言っていた。けれどその後、水を取りに行ったはずの彼女は現段階まで戻らない。彼女はどこへ消えたのか??
さらに、リアムはルキヤンと王城へ行ってしまった、なんのためか理由は不明。
(とりあえず、両親かリアムが帰ってくれば少しは心強いけれど……)
「お嬢様、顔色がまだお悪いですね。長くお眠りになっていたのに、小伯爵様もいない今日に限って……」
メイは私を心配しているように、表情を歪めている。今この状況では、できればメイを信じたい。
しかし、明確にメイは、皇族の影であることは、公の秘密であり、そう考えると、エマとも接点があった可能性が高い。
その場合、彼女も信用できなくなる。
「そうね、本当にどうして……ところでメイ、貴方に聞きたいことがあるの」
「なんでございますか??」
メイを私は真正面からしっかりと見つめた。今は自室で、私とメイはふたりきりだ。だから敵ならとても危ないし、味方ならとても安心である。
もし、この後の質問をしてメイが敵なら、私はあることをするつもりだ。そして、もしメイが味方なら今の状況のまま、リアムが戻るまではしばらくこのままでいるつもりだ。
「メイは、正妃様襲撃事件について、犯人を知っている??」
私の問いかけに、メイは少し困ったような顔をしてからこう答えた。
「そうですね、私は知っていますが……それを今この状況でお嬢様に、お応えするのは不適切かと考えています」
「どうして不適切なの??シェリーはさっき私に犯人はエマだと教えてくれたのよ」
その言葉を聞いた瞬間、明らかにメイの表情が変わった。それは完全な「無」に近い顔でいつも朗らかな彼女から感じるものとは異なる違和感を感じた。
いや、むしろそちらこそ影である彼女の本質かもしれない。
「お嬢様、それは確かにシェリーが言ったのですか??」
「そうよ、水を取りに行く前に……」
そう答えた時、メイが何か呪文を唱えた。それが結界魔法であることは部屋の雰囲気が変わったことですぐに気付いた。メイの魔法で今部屋に外から誰も入れず、音も聞こえない状態になった。
「これから話す話は、本来お嬢様にお伝えするような内容ではありません。けれど話さないといけなくなってしまいました。どうかお許しを」
*********************************************************************************
(リアム視点)
「……ルキヤン殿下、何故僕はここに連れてこられたのですか??」
「必要だったからです」
そう言われて、僕は何故かルキヤンに連れられてそこに来ていた。
てっきりレオナルドとなんらかの会話をすることになると踏んでいたのに、今僕の目の前には本来であれば小伯爵如きである僕が直接会うことのない人物がいる。
「マグダラ伯爵家の小伯爵。もっとこちらへ来なさい」
とても美しい女性、現竜帝の番である正妃様がいらっしゃる状態だ。彼女に手招きをされて僕は微妙な気分になりながら臣下の礼をとる。
「いいのです、その顔をこちらに見せて下さい」
涙ぐんでいるその美しい人は、僕の顔を凝視していた。
まるで、死に別れた息子にでも再会したような胸がつまるような表情で僕を見ていた。
「リアム、ああ……貴方はリアムなのでしょう??」
「僕は確かにリアムです、しかし僕はマグダラ伯爵家の……」
「ああ。側妃ですね、あの女が、私の可愛い子を奪ったのですね。自身が側妃になるために、生まれて間もない貴方を死んだことにしたのですね」
「いえ、僕は……」
なんとか、逃げようとしたが正妃様は、僕を抱きしめた。そのやわらかな感触とどこか懐かしい匂い。分かっている、僕は別の時間軸で確かにこの人の息子だった。
けれど、僕はこの世界から退場しているので、こんなことは起きないはずなのだ。それなのに、何故こんなことになっているのか分からない。本当は狼狽えそうなのだが必死にそれを押し殺す。
「貴方は、赤ん坊の時に死産と見せかけて攫い、側妃派が子供を失くしたばかりだったマグダラ伯爵家の養子に出したのですから。けれど、その髪の色と目の色はごまかすことはできないし、顔だって……」
(まずったかもしれない……無理やり事実を捻じ曲げたから……)
泣きながら僕を抱きしめる母上に、罪悪感を感じていた。多分、これは僕が無理やりマイ・クイーンの兄という設定を付与した弊害だ。
今までは、決して表舞台に立たなかったので何もなかったが、今回はなんとか彼女を救うため少し無茶をしすぎたらしい。
「……僕は」
複雑な気持ちだった。けれど、僕は彼等を、家族を、身分を、全てを、彼女を救うために捨てたのだ、だから今更それを取り戻す権利などないのだ。
それなのに、どうして、涙が頬を伝うのだろう。
(僕は、神様と約束した。全てを捨てて、それでも彼女を……)
その時、ルキヤンがとても静かに僕に語りかける。
「兄上、貴方の力を貸してください。貴方と僕ならおじたんを救えます」
私は、部屋に戻りベッドに腰掛けて、冷たい水を飲みながら今起きている状況を整理していた。
まず、この家にはファハド王子が居る。ただし現段階で私は彼とは初対面だし、なんなら彼等は隣国の貴族としか名乗っていないため、私が彼を知っているのは不自然だ。そして、そのファハド王子の従者の中に私を睨んでいた謎の女がいた。
そして、次に、例の正妃様襲撃事件の犯人はエマだと、シェリー言っていた。けれどその後、水を取りに行ったはずの彼女は現段階まで戻らない。彼女はどこへ消えたのか??
さらに、リアムはルキヤンと王城へ行ってしまった、なんのためか理由は不明。
(とりあえず、両親かリアムが帰ってくれば少しは心強いけれど……)
「お嬢様、顔色がまだお悪いですね。長くお眠りになっていたのに、小伯爵様もいない今日に限って……」
メイは私を心配しているように、表情を歪めている。今この状況では、できればメイを信じたい。
しかし、明確にメイは、皇族の影であることは、公の秘密であり、そう考えると、エマとも接点があった可能性が高い。
その場合、彼女も信用できなくなる。
「そうね、本当にどうして……ところでメイ、貴方に聞きたいことがあるの」
「なんでございますか??」
メイを私は真正面からしっかりと見つめた。今は自室で、私とメイはふたりきりだ。だから敵ならとても危ないし、味方ならとても安心である。
もし、この後の質問をしてメイが敵なら、私はあることをするつもりだ。そして、もしメイが味方なら今の状況のまま、リアムが戻るまではしばらくこのままでいるつもりだ。
「メイは、正妃様襲撃事件について、犯人を知っている??」
私の問いかけに、メイは少し困ったような顔をしてからこう答えた。
「そうですね、私は知っていますが……それを今この状況でお嬢様に、お応えするのは不適切かと考えています」
「どうして不適切なの??シェリーはさっき私に犯人はエマだと教えてくれたのよ」
その言葉を聞いた瞬間、明らかにメイの表情が変わった。それは完全な「無」に近い顔でいつも朗らかな彼女から感じるものとは異なる違和感を感じた。
いや、むしろそちらこそ影である彼女の本質かもしれない。
「お嬢様、それは確かにシェリーが言ったのですか??」
「そうよ、水を取りに行く前に……」
そう答えた時、メイが何か呪文を唱えた。それが結界魔法であることは部屋の雰囲気が変わったことですぐに気付いた。メイの魔法で今部屋に外から誰も入れず、音も聞こえない状態になった。
「これから話す話は、本来お嬢様にお伝えするような内容ではありません。けれど話さないといけなくなってしまいました。どうかお許しを」
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(リアム視点)
「……ルキヤン殿下、何故僕はここに連れてこられたのですか??」
「必要だったからです」
そう言われて、僕は何故かルキヤンに連れられてそこに来ていた。
てっきりレオナルドとなんらかの会話をすることになると踏んでいたのに、今僕の目の前には本来であれば小伯爵如きである僕が直接会うことのない人物がいる。
「マグダラ伯爵家の小伯爵。もっとこちらへ来なさい」
とても美しい女性、現竜帝の番である正妃様がいらっしゃる状態だ。彼女に手招きをされて僕は微妙な気分になりながら臣下の礼をとる。
「いいのです、その顔をこちらに見せて下さい」
涙ぐんでいるその美しい人は、僕の顔を凝視していた。
まるで、死に別れた息子にでも再会したような胸がつまるような表情で僕を見ていた。
「リアム、ああ……貴方はリアムなのでしょう??」
「僕は確かにリアムです、しかし僕はマグダラ伯爵家の……」
「ああ。側妃ですね、あの女が、私の可愛い子を奪ったのですね。自身が側妃になるために、生まれて間もない貴方を死んだことにしたのですね」
「いえ、僕は……」
なんとか、逃げようとしたが正妃様は、僕を抱きしめた。そのやわらかな感触とどこか懐かしい匂い。分かっている、僕は別の時間軸で確かにこの人の息子だった。
けれど、僕はこの世界から退場しているので、こんなことは起きないはずなのだ。それなのに、何故こんなことになっているのか分からない。本当は狼狽えそうなのだが必死にそれを押し殺す。
「貴方は、赤ん坊の時に死産と見せかけて攫い、側妃派が子供を失くしたばかりだったマグダラ伯爵家の養子に出したのですから。けれど、その髪の色と目の色はごまかすことはできないし、顔だって……」
(まずったかもしれない……無理やり事実を捻じ曲げたから……)
泣きながら僕を抱きしめる母上に、罪悪感を感じていた。多分、これは僕が無理やりマイ・クイーンの兄という設定を付与した弊害だ。
今までは、決して表舞台に立たなかったので何もなかったが、今回はなんとか彼女を救うため少し無茶をしすぎたらしい。
「……僕は」
複雑な気持ちだった。けれど、僕は彼等を、家族を、身分を、全てを、彼女を救うために捨てたのだ、だから今更それを取り戻す権利などないのだ。
それなのに、どうして、涙が頬を伝うのだろう。
(僕は、神様と約束した。全てを捨てて、それでも彼女を……)
その時、ルキヤンがとても静かに僕に語りかける。
「兄上、貴方の力を貸してください。貴方と僕ならおじたんを救えます」
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