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48:ヤンデレに本音をぶちまけて一本背負投をした
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何もかもがおかしい。先ほどまで確かにしていた風の音も、小鳥のさえずりも周りの物音がまるでしない。そこだけ無音の別の世界になったような感覚だった。
「どうして……」
「それはこちらのセリフだよ、ベベ。どうして君は僕を裏切ったんだい??」
甘く耳元でささやく割に、見据えた瞳は、狂気を孕んでいた。その狂気は何度か見てきたものの中で一番大きかった。
「裏切る??私は何も……」
「君は僕の番だ。それなのにどうして、ルキヤンが番と言った瞬間に僕らの婚約は一旦保留になったんだい。君は間違いなく僕の番だ。先に出会ったのも見つけたのも僕だ。だからルキヤンが君の番のはずはない、それなのに……」
そう、ルキヤンが私を番だといった日、今までヤンデル殿下の番とされて婚約者になっていた事実が一旦見直されたのだ。
竜帝の番はお互いが番と認識してはじめて成立するもの。もっというと本来であれば、私も相手を番として認識するはずなのだ。
しかし、申し訳ないが私は、ヤンデル殿下もルキヤンも番と認識をしていない。
ルキヤンに関しては少し事情があってだけれど、ヤンデル殿下を異性として見たことがないというか、前の時間軸のトラウマが強すぎて全く愛を感じることができない。
それはとても異例なのだそうだ。番というのはとても神聖なもので本来は必ずお互いがそれを認識するはずなのだと、『予言の書』から私は、次回の竜帝の番であることは間違いない。しかし、私は次回の竜帝ふたりともを番と認識していない。
「アレク様、いえ、アレクサンドル殿下。私は貴方を番と思う日はきっと来ないでしょう」
変な期待を持たせてはいけない。今まで曖昧にしてきたが、ここまで来てしまえば彼に本音を話すしかない。
「何を言っているんだい??ベベは僕を……」
「アレクサンドル殿下、嫌悪剤のことを覚えていらっしゃいますか??」
私は狂っているその眼差しを睨みつけた。
「あの嫌悪剤、貴方はあの薬は自分には効かなかったと思っているようですが、もしあのまま私がそれに気づかなければ、貴方も私を嫌悪して遠ざけ虐げていたのですよ」
そう言った私の顔には、酷薄な笑みが浮かんでいた。きっと100年の恋だって冷めるような顔をしたと思う。もちろんわざとだ。
「そんなはずはない、僕は君を番をないがしろになんか……」
「もし嫌悪剤が効いていたら、貴方はエリザベスを番として妃に迎えて、その結婚式の翌日に私を処刑したのですよ。私には未来を見る力がある。その恐ろしい未来が見えていた。まるでゴミでも見るみたいな目で私を見る冷たい貴方の双眸を忘れたりなんてしません」
「それは夢だ、現実には起こっていない。何故、君は昔からそれにこだわるんだ!!」
(実際に味わったからよ。そう、番であるはずが嫌悪剤ごときで心を塗り替えられた薄情な貴方を!!番とはもっと深いつながりがあるはずだ、そうだ、もっともっと)
そこまで考えて私の中にある映像が浮かぶ。それはあの変な夢、リアム殿下の映像だ。
『僕は、僕と彼女が番だから、ずっと彼女を傷つけ続けてしまう。どうして、どうしてだ!!彼女を、彼女を大切にしたい、けれど強制力が邪魔をする。ならばせめてと彼女を誰か別の人に幸せにしてほしいと願うのに、どうして彼女は幸せになれないんだ??どうして』
泣き崩れるその姿に、胸が震える。それは、この世界でも前の時間軸でも感じたことのない架空だと分かるけれどとても熱い感情、きっとこれこそが……。
「貴方はただの夢だという。確かにこの世界ではそれは起こらなかった。けれど、本当に番であるならば私を遠ざけても、自身の幸福のために殺そうとまではしないのよ。不幸になんてしたいと願わないのよ!!」
喉が張り裂けるほど叫んでいた。
「真実の愛とは、決して相手を不幸にしても通すものではない。ヤンデル殿下は今私を閉じ込めてでもものにしようとしている、私が不幸になっても手に入れたい時点でそれは、そんなものは……」
私の言葉に、ヤンデル殿下の顔が青ざめているのを通り越して紙のように白くなっていた。しかし、何故か次の瞬間、彼は急に笑う。そして……。
「ああ、そうか。そうだね。君は僕が君を幸せにできるか不安なんだね。問題ないよ。君を僕は必ず幸せにできる。そのためなら、なんだってできるんだ、そうなんだって……僕はヤンデルでもないし……」
そう言った彼の瞳は、完全に虚ろで正気ではないことが分かった。
(逃げなければ!!)
私は、恍惚とした様子で未だに私を後ろから抱きしめている彼を振り払おうとしたが、中性的だが一応男性である彼には普通では敵わない。
(かくなる上は……)
私は前世の知識を思い出す。
前世少しだけ柔道を齧っていた。今世ではやったことがないのでうまくいくか分からないが、私は気合を入れた。
「押忍!!てりゃあああああ!!」
掛け声をかけて私は、ヤンデル殿下を一本背負投した。鮮やかに決まりヤンデル殿下を地面に叩きつけたので、気絶している。
久々だったが魂の知識がここで役に立った。とりあえずそのまま私は王城へ走り出した。
しかし、この選択が全くよくなかったことを、そう遠くない未来に理解することになるなどこの時の私は知らなかった。
「どうして……」
「それはこちらのセリフだよ、ベベ。どうして君は僕を裏切ったんだい??」
甘く耳元でささやく割に、見据えた瞳は、狂気を孕んでいた。その狂気は何度か見てきたものの中で一番大きかった。
「裏切る??私は何も……」
「君は僕の番だ。それなのにどうして、ルキヤンが番と言った瞬間に僕らの婚約は一旦保留になったんだい。君は間違いなく僕の番だ。先に出会ったのも見つけたのも僕だ。だからルキヤンが君の番のはずはない、それなのに……」
そう、ルキヤンが私を番だといった日、今までヤンデル殿下の番とされて婚約者になっていた事実が一旦見直されたのだ。
竜帝の番はお互いが番と認識してはじめて成立するもの。もっというと本来であれば、私も相手を番として認識するはずなのだ。
しかし、申し訳ないが私は、ヤンデル殿下もルキヤンも番と認識をしていない。
ルキヤンに関しては少し事情があってだけれど、ヤンデル殿下を異性として見たことがないというか、前の時間軸のトラウマが強すぎて全く愛を感じることができない。
それはとても異例なのだそうだ。番というのはとても神聖なもので本来は必ずお互いがそれを認識するはずなのだと、『予言の書』から私は、次回の竜帝の番であることは間違いない。しかし、私は次回の竜帝ふたりともを番と認識していない。
「アレク様、いえ、アレクサンドル殿下。私は貴方を番と思う日はきっと来ないでしょう」
変な期待を持たせてはいけない。今まで曖昧にしてきたが、ここまで来てしまえば彼に本音を話すしかない。
「何を言っているんだい??ベベは僕を……」
「アレクサンドル殿下、嫌悪剤のことを覚えていらっしゃいますか??」
私は狂っているその眼差しを睨みつけた。
「あの嫌悪剤、貴方はあの薬は自分には効かなかったと思っているようですが、もしあのまま私がそれに気づかなければ、貴方も私を嫌悪して遠ざけ虐げていたのですよ」
そう言った私の顔には、酷薄な笑みが浮かんでいた。きっと100年の恋だって冷めるような顔をしたと思う。もちろんわざとだ。
「そんなはずはない、僕は君を番をないがしろになんか……」
「もし嫌悪剤が効いていたら、貴方はエリザベスを番として妃に迎えて、その結婚式の翌日に私を処刑したのですよ。私には未来を見る力がある。その恐ろしい未来が見えていた。まるでゴミでも見るみたいな目で私を見る冷たい貴方の双眸を忘れたりなんてしません」
「それは夢だ、現実には起こっていない。何故、君は昔からそれにこだわるんだ!!」
(実際に味わったからよ。そう、番であるはずが嫌悪剤ごときで心を塗り替えられた薄情な貴方を!!番とはもっと深いつながりがあるはずだ、そうだ、もっともっと)
そこまで考えて私の中にある映像が浮かぶ。それはあの変な夢、リアム殿下の映像だ。
『僕は、僕と彼女が番だから、ずっと彼女を傷つけ続けてしまう。どうして、どうしてだ!!彼女を、彼女を大切にしたい、けれど強制力が邪魔をする。ならばせめてと彼女を誰か別の人に幸せにしてほしいと願うのに、どうして彼女は幸せになれないんだ??どうして』
泣き崩れるその姿に、胸が震える。それは、この世界でも前の時間軸でも感じたことのない架空だと分かるけれどとても熱い感情、きっとこれこそが……。
「貴方はただの夢だという。確かにこの世界ではそれは起こらなかった。けれど、本当に番であるならば私を遠ざけても、自身の幸福のために殺そうとまではしないのよ。不幸になんてしたいと願わないのよ!!」
喉が張り裂けるほど叫んでいた。
「真実の愛とは、決して相手を不幸にしても通すものではない。ヤンデル殿下は今私を閉じ込めてでもものにしようとしている、私が不幸になっても手に入れたい時点でそれは、そんなものは……」
私の言葉に、ヤンデル殿下の顔が青ざめているのを通り越して紙のように白くなっていた。しかし、何故か次の瞬間、彼は急に笑う。そして……。
「ああ、そうか。そうだね。君は僕が君を幸せにできるか不安なんだね。問題ないよ。君を僕は必ず幸せにできる。そのためなら、なんだってできるんだ、そうなんだって……僕はヤンデルでもないし……」
そう言った彼の瞳は、完全に虚ろで正気ではないことが分かった。
(逃げなければ!!)
私は、恍惚とした様子で未だに私を後ろから抱きしめている彼を振り払おうとしたが、中性的だが一応男性である彼には普通では敵わない。
(かくなる上は……)
私は前世の知識を思い出す。
前世少しだけ柔道を齧っていた。今世ではやったことがないのでうまくいくか分からないが、私は気合を入れた。
「押忍!!てりゃあああああ!!」
掛け声をかけて私は、ヤンデル殿下を一本背負投した。鮮やかに決まりヤンデル殿下を地面に叩きつけたので、気絶している。
久々だったが魂の知識がここで役に立った。とりあえずそのまま私は王城へ走り出した。
しかし、この選択が全くよくなかったことを、そう遠くない未来に理解することになるなどこの時の私は知らなかった。
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