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46:幸せな日常と忍び寄るなにか

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「マイ・プリンセス。どうしたんだいそんな不安そうな顔をして」

リアムが心配そうに聞いた。今日は、もう恒例となったとのお茶会である。

「問題ないわ」

「ベアトリーチェ、体調でも悪いのか??もし悪いならば……」

心配そうに私を見つめる父が、17歳の私と居るという状況はとても幸せだ。

(前の時間軸では、この時期は、離宮でルキヤンと肩を寄せ合っていたのよね)

「お父様、大丈夫ですわ。それにお兄様も付いてきてくださいますので」

「もちろんだとも、マイ・プリンセス。僕が君を守る玄関マットになろう!!」

「そこは嘘でも盾といいなさい。全く誰に似たのかしら」

そこで、リアムにツッコミを入れる母もいる。両親が生きている。それだけで私は幸福な気持ちに包まれた。

けれど、まだ、私はあの処刑をされた18歳ではない。

後1年ある。何故かわからないけれど私の第六感が18歳を過ぎればもう大丈夫だといっている。つまり後1年ある。

両親に見送られて、伯爵家の馬車に乗って、王城を目指す。

馬車にふたりきりになるなりリアムが、いつも通り話はじめた。

「マイ・クイーン。ガルマショフ公爵から連絡があったよ。どうも隣国の王太子が僕らの国の学園に転入してくるらしい」

「……何故このタイミングなのかしら」

隣国マムラカ王国の王太子、ファハド・マムラカ。度々見る変な夢の中では彼と私は親しいようだった。

けれど、竜王様の話を聞いて獣の名を持つ彼は私の警戒対象でもある。

今のところ直接会ったことはないが、学園に留学するならば顔を合わせることもあるかもしれない。

「マイ・クイーン。ファハド殿下には注意した方がいい。彼は君を……」

リアムが何かを話しかけようとした時、ちょうど王城へ着いてしまった。

(リアムっていつも間が悪いのよね)

そんなことを考えて馬車が開くとそこには……。

「ベベ、会いたかったよ」

「ベアトリーチェ嬢お待ちしておりました」

私のエスコートのために、馬車の入り口の両脇で狛犬のように待ち構えている、ヤンデル殿下とルキヤンがいた。

何故こうなったのかというと……。

「ルキヤン、僕が先に番を見つめたのだから僕がベベをエスコートする」

「兄上、僕は確かにベアトリーチェ嬢との出会いは兄上より遅かったです。しかし、僕も彼女を番として認識し、ひとめぼれしたのです」

(ああ、また始まった)

ルキヤンが第2皇子に認められてすぐの婚約者同士のお茶会で、偶然再会したルキヤン。彼は私を見るなり開口一番こういった。

『ベアトリーチェ嬢、。お会いしたかった』

その場は凍り付いた。

『あ、あの……』

『ルキヤン、ベベは僕の番だ。君のじゃない』

そう反論した、ヤンデル殿下にものすごく腹黒そうな、もとい笑顔を浮かべたルキヤンが一言。

『まさか、兄上。彼女は間違いなく僕の番です』

と宣言した。ここで再び『予言の書』問題が勃発してしまう。

『次の竜帝の番は銀髪に紫の瞳をしたこの国の少女である。いかなる場合も彼女を尊重しなければこの国は滅ぶだろう』

今代の皇子ふたりが何故か私を両方番だと言いはったのだ。ヤンデル殿下に気持ちのない私はそのままルキヤンの手を物凄く取りたかった。

けれど、マクシム様がいくらにらみを利かせていても側妃側の勢力を全て排除できたわけではない。むしろお互いの膠着状態が続いているし、私を監視し隣国に情報を売る存在についてもそれが誰なのかまだはっきりとしていない。多分相当の手練れなのだろう。

「ベベは僕の番だ」

「いいえ、僕のです」

そう言ってふたりに手をとられた私は以前もあったけど、捕らえられた宇宙人スタイルで馬車を降りる羽目になった。

しかし、もうこの光景になれている王城の従者たちからは生ぬるい眼差しを向けれれている。

「あーあ。僕のマイ・クイーンなのにな」

小さくそんなこと呟くリアム。相変わらずその日も平和そうだと思った。そのままお茶会の場所まで来た私の両脇をヤンデル殿下とルキヤンが囲む。

「ベベ、君の好きなアッサムのミルクティーだよ」

「ベアトリーチェ嬢。この間お話しに出た、今帝都で評判のキャロットケーキです」

「「さぁ、召し上がれ」」

ふたりから同時にお茶とお菓子を勧められる。私は面倒で虚無のような顔をしているが、それについて気にした様子はない。いや、むしろ私の心を射止めたいのなら気にしてほしいが。

「ありがとうございます」

2日位死んでからほっといた魚の死骸みたいな目をした私は、とりあえず紅茶をひとくち飲んで、それからキャロットケーキを食べる。

「「どう??美味しい」」

「……ええ」

「「よかった」」

仲良くハモるふたりの声。この5年でヤンデル殿下との距離が縮まったということは特にない。やはり心の傷はそう簡単に癒えずいまだにふたりになるのは怖い。逆にルキヤンに対しては元々恋心のようなものを抱いていたのもあり、割と距離は近づいているはずだと思っている。

「いやー、アッサムのミルクティーもキャロットケーキも美味だね。流石殿下達だ。でもこう甘いものばかりだと飽きてしまわないかい、マイ・プリンセス」

あくまでおまけ参戦なのにずうずうしいリアム。その発言になんか服についている糸くずでも見るような目でヤンデル殿下とルキヤンがリアムを見た時だった。

ーーーードン!!

まるで、激しい爆音のような音が響き渡ったのは……。
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