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34:ずさんな管理者と忌子の噂

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管理者の男、ロジャーソンについて覚えているのは彼が、私やルキヤンに割かれていたであろう予算を着服していたことと管理者でありながら、離宮の管理を怠っていたことだ。

『お前たちなんて、居ないようなものだから予算など最低限で十分だ!!』

まるで、離宮の主のように振舞っていた男。ロジャーソンのせいで、私達の生活は本当に最低限の物資しかないきついものだった。

囚人と同じくらいなのかもしれないが、私もルキヤンも罪人ではない。

基本的には離宮におらず、建物が荒れ果てていてもロジャーソンは放置していた。離宮の維持費用に、ルキヤンは公爵家が、私は神殿が資金援助をしていたにも関わらず、それが還元されることはなかった。

ロジャーソンは、一応貴族出身だが、貧しい男爵の次男だったのに、いつも羽振りが異常に良かったのはこれだけの金を横領していたためだった。

一度、私は前の時間軸で彼に対して抗議をしたことがある。ルキヤンは、ずっとこの環境で暮らしていたから分からないようだったけど明らかに私達への待遇は酷過ぎた。

『ロジャーソン様、私には少なくとも伯爵家と神殿からの支援金が支払われているかと思いますが、どう考えてもこの扱いは……』

『ふん、そんなものはない。元伯爵令嬢だからと偉そうにするな。ここでは俺様が正義だ』

『……元??それはどういう……』

『アレクサンドル殿下は偽の番であるお前を番と偽った、マグダラ伯爵家に対してお怒りだ。だからお前の家族は罰せられて処刑された』

ロジャーソンにより家族がいわれなき罪で処刑されたことを知った。

『そんなこと……』

『話は終わりだ。精々俺様の機嫌を損ねないようにするんだな。元伯爵令嬢殿』

人の不幸を喜ぶような、実に下卑た笑いを浮かべた男の顔への憎しみを私は忘れてはいない。だから、こそ今回のこの時間軸で私は彼に会いたいと思った。

「あの、アレク様、クリス様。気になることがありまして、その管理人と一度お話しがしたいのですが……」

私の言葉にクリスが意外そうな顔をした。

「えっ、それは構いませんが……その」

「べべ、管理人への処罰は厳格に行うだから……」

ヤンデル殿下も少し焦っているようだった。それもそうだろう。離宮と管理人は、側妃様の息がかかった存在だったはずだ。

どこまで関与しているかは知らないが、ルキヤンへの嫌がらせに等しい行為は側妃様の指示だったのは間違いない。ただ、今回の件は皇太子であるヤンデル殿下にも危害が加わりかねなかったのでお咎めがあっただけで、このままいけばうやむやになってしまうだろう。

(そんなことは、許さないし、私の当初の計画のためにもここは……)

「私、あの離宮で男の子に会いました」

「男の子??」

ヤンデル殿下は何も知らない様子だった。そして、まだクリスもとても驚いたような顔をしていた。

「そうです。私と同じ年くらいの黒い髪に赤い目をした子。でもとても痩せてとてもボロボロの服を着ていて……」

「浮浪者でも入り込んでいたのか。だとしたらそれは問題だな」

「殿下、その、言いにくいのですが王城のセキュリティ的に外部の者が入り込むことは考えにくいです。だとしたら……」

クリスな何か考え込んでいた。14歳のクリスはきっとあの離宮にまつわる秘密はまだ知らないのだろう。しかし彼の父である宰相は間違いなく知っているし、側妃様であれば関与している可能性すらある。

「だとしたらなんだ??」

しかし、それをクリスは話すべきか逡巡しているようだった。

「クリス殿。今ここに居るのは、アレク様と、その婚約者で番のベアトリーチェとその兄である僕だけだ。違う派閥のものはひとりもおりません」

リアムがキラキラ胡散臭い笑みを浮かべた。正直私なら詐欺師に見えて信用しないのだが、クリスはコクリと小さく頷いて覚悟したように話出した。

「その、皇族の忌子という話を知っていらっしゃいますか??」

「ああ。100年前の竜帝が定めたものだな。黒髪の皇族を忌子とするものだろう」

「そうです。殿下も私も幼い頃なのではっきりしておりませんが、正妃様が今から13年前に身ごもられて御子が流れたという話があります。しかし、本当はその子は生まれていたけれど忌子だったのでないものとされたという噂があるのです」

その言葉に、リアムが深く頷く。

「この中では僕が一番年長だから覚えているけれど、確かに正妃様は以前身ごもれれていた。そして流産されたという話も覚えているよ」

「それと離宮に居た者が何故つながる??ん、まさか……」

「そうです。その黒い髪に赤い瞳の少年はもしかしたら忌子として離宮で養育されていた、殿下の腹違いの弟君やもしれません」

「なに、だとしたら……。あの離宮には使用人は愚か幽霊しかいなかった。それにほとんど廃屋で手入れもおろそかにされていたではないか……そんな場所で仮に忌子であっても皇子が養育されているなど」

相当にショックを受けたらしいヤンデル殿下。彼は、私にした仕打ちからとても冷たく傲慢な男だと思っていたが少し違うのかもしれない。

少なくとも、腹違いの弟の惨状を聞いて同情する心はあるようだ。

(……私への同情は一切なかったのにね)

シニカルな笑みを一瞬浮かべたが、それもすぐに無へ戻して、私は3人に再び話しかけた。

「この件について、私達はやはり管理人に話を聞くべきではありませんか??」
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