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33:ありえない記憶とルキヤン

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同じく少しホラーがあります。

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(あの部屋に連れて行こう……)

このヤンデレを蹴散らす、もとい遠ざけるべく、私は、私と一番仲が良かった彼女の部屋へふたりを導いた。

竜帝に番だと言われて無理やり連れてこられたのに、はめられて処刑された彼女は、私と境遇が似ていたのもあり、とても親しくしていた。

今回は初対面だけれど、きっと彼女は私の心を理解してくれると確信があった。幽霊には心が見えるらしいのだ。

だから、ここで彼女と会わせることでふたりには退場願おうと思っている。

(やっぱり、修理されてないわね)

管理人が適当なため、この部屋の封印は適当になっている。

私が扉を開けようとしたら簡単に開くくらいに……

「ダメです!!殿下そこはいけません!!」

背後から叫んだ男に私は見覚えがある。彼は確かヤンデル殿下の側近だった男だ。

そして、彼は前の時間軸では、15歳で私が幽閉される前に側近を更迭されていたはずだ。

彼が、ヤンデル殿下を庇うようにした時、彼女、メアリーが現れた。

先ほどの貴婦人が綺麗に見えるほどに血に染まり、口は避けて目は空な幽霊。別名をブラッディーメアリー。

しかし、前の時間軸では、マリー、ベベと呼び合うほど親しい仲だった。

「コロシテヤル」

そう行って近づいて来たメアリー。

「あああ」

「ヒィ」

完全に硬直するヤンデル殿下とリアム。

「彼女は、彼女はダメです、逃げますよ!!」

ヤンデル殿下の手を引いて走り出す側近。

(よし、うまく引き離せたわ)

「あばば、こ、殺すなら僕だけにしてください。ベアトリーチェは、彼女は、彼女だけは」

震えて泣いて鼻水まみれになりながらも必死に私を庇おうとするリアム。

作戦は成功したし、ネタバラシをしようかと思った時、何故かある光景が見えた。

『ベティは僕が守る』

とても小さなリアム殿下が泣きながら鼻水をたらしながら私を庇う。目の前には野犬が唸りを上げていた。

『リアム殿下……』

『大丈夫、大丈夫だから!!』

そうして、感じた覚えのない想いが蘇る。

(あなたは泣き虫で、ヘタレだけど優しい人で私を傷つけるような人じゃなかった)

その感覚に、私の頬を涙が伝う。何故だか分からないけれど泣いていた。

「はばばば、だ、大丈夫だ……よ」

「ナニガダイジョウブダ?コロス」

いつの間にか間近の真正面にいた、メアリーと目があったリアム。

「あああ!!!??」

パタリ

泡を吹いて倒れたリアム。折角見直しかけたのに全く決まらない人だ。

「ごめんなさい、びっくりさせてしまいましたね」

「……オマエハ……コロサナイ。ルキヤンガサッキアイタガッテイタ」

メアリーの言葉に驚いていた。この時間軸ではルキヤンは私を知らないはずである。

「ルキヤン??」

そう口に出した瞬間、彼が現れた。黒い髪に優しい赤い瞳をしたルキヤンが……。

「はじめまして、僕はルキヤン。君とお話ししたかったんだ……えっと……」

記憶の彼より、痩せている。その姿に思わず胸が押しつぶされた。

「私はベアトリーチェよ。どうしてここに??」

「……言えない。でも…….、ベアトリーチェ、君は救い主様に似てとても綺麗で……」

頬を赤らめたその姿に、思わず自然に笑顔になる。

「ありがとう。私も貴方に……」

「ダレカタクサンクル。ルキヤンニゲル」

言葉を告げようとした時、メアリーが何かを感じ取る。間違いない、ヤンデル殿下と側近が助けを呼んだのだろう。

「ごめん」

そう言ってルキヤンはどこかに隠れてしまった。

それからしばらくして、ヤンデル殿下と側近が連れて来た衛兵により私とリアムは救出された。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「申し訳ございません。私がいたらぬばかりに」

目の前で五体投地する彼、ヤンデル殿下の護衛のクリスを見つめた。

彼は、前の時間軸で、唯一私のためにヤンデル殿下に意見を言ってくれた人だ。

婚約者を大切にしろと言って、ヤンデル殿下を諌めていた姿を思い出した。

なら私の選択はひとつだけ。

「貴方を許します」

その言葉に彼は涙ぐんでいた。ヤンデル殿下の側にもまともな人は居たのである。

彼は前の時間軸でも嫌悪剤は聞いていなかった。もしかしたら何かあるのかもしれない。

「ベベ、僕は、なんて最悪な」

自身の情けなさにずっと虚な目をして、同じ言葉を繰り返すヤンデル殿下はヤンデルからクルッテルに進化?退化?したのかもしれない。

「まぁ、アレは恥ずかしいから仕方ない」

鼻水を垂らした玄関マットがドヤ顔しているけど、恥ずかしさは似たり寄ったりのはずだ。

「しかし、あの杜撰な管理。管理者は現在取調べをしております」

クリスの言葉に、私はほくそ笑んだ。

あそこの管理者と言う名の役立たずに、私とルキヤンは苦しめられたのだから。
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