14 / 70
12:ヤンデル殿下との話し合い01
しおりを挟む
(リアムはどこに行ったのかな……)
あまり彼を頼りたいという訳ではないけれど、居ないなら居ないで少し不安になるのは、変な乱入の仕方をされる懸念があるからだ。
例えば初日の家族団らんにいきなり混ざるような、実に良くない形で……。
(でも一応、兄という設定だからね、その設定覆すことはないはず。まぁヤンデル殿下にひとりで会うのは正直、物凄く嫌だけど、例の提案をするために仕方ない)
色々な考えが頭をグルグルまわっていたが、もう私はヤンデル殿下の待っている応接室前まで来ていた。
前の時間軸では一度もヤンデル殿下が我が家に来たことはない。なんなら一度も私の元を訪れたこともなかった。だからこそよりいっそう私の心は凪のように静かだった。
彼を愛することはない。そう強く確信しているから。ただ、不興をわざわざ買うつもりはない。ケンカならいつでも買ってやりたいところだけれど。
私は深呼吸をして、室内へ入る。
「ごきげんよう、アレクサンドル殿下」
「ああ、ベベ、会いたかったよ。僕の番」
手紙から想像したよりは幾分かマシだった、ヤンデル殿下の隣に見覚えのある男が座っている。
具体的には手紙で何度となく殺されそうになっていて、かつ毒まで盛られ始めたはずの男、つまり兄(仮)のリアムがとてもにこやかに座っていた。
「……アレクサンドル殿下とお兄様。お兄様どうしていらっしゃるのですか」
「ああ、それはね、僕の中でアレク様に誤解されている部分もあるかもなと思って、マイ・プリンセスが会う前に話し合いをしたのさ」
無駄にキラキラしながら微笑むのがムカつくが、つまり事前に何か話をしていたらしい。
ちょっと怖いけどリアムの隣のヤンデル殿下を確認する、もし阿修羅みたいな顔していたらすごく嫌だなと思うと同時にしばらく視界を逸らすという決意をしたからだった。
しかし、ヤンデル殿下はとても穏やかな表情だった。その妙な静けさが怖い気もしたが今は、それについては私は全面的にスルーすることにする。
そう、私がここに来たのはヤンデル殿下とある約束を交わしてもらうためなのだから。
「先日は、沢山の薔薇とお手紙を頂きありがとうございます」
「ああ、いいんだ。婚約者として当たり前のことをしただけなのだから」
普通の婚約者は、あんな部屋の中に全て入れたら酸欠で死ぬような量の薔薇は送らないし、あんな狂った手紙も送らないと言い返したい気持ちを必死に抑えて無理やり微笑んだ。
「マイ・プリンセスも狂気溢れるプレゼントに声も出せませんでしたよ」
「そうか、あの……昨日はガーベラと手紙を有難う。君からの真心は伝わったよ」
赤面して嬉しそうなヤンデル殿下。正直手紙には薔薇のお礼しか書いていないし、「感謝」の意味で返礼として贈ったピンクのガーベラがそんなに嬉しかったのだろうか。
変な期待をされないように、細心の注意を払いかつ失礼にならない程度に愛のない返しにしたはずだけれど……。
「手紙は大切に保管し、ガーベラも魔法をかけて半永久的に枯れないようにした」
(こわっ!!)
内心でドン引きしながらけれど必死に表情に出さないようにする。
「あの、アレクサンドル殿下、その……」
「前も言ったが、ベベ、僕のことはアレクと呼んでくれないかい??」
正直あれから5日しか経っていない上に前世の地獄のせいで、現段階で心を開くつもりはない。それなのに彼はそんなことお構いなしのようだ。
その点については手紙から察してはいた。だからこそ今日は約束をさせようと思っているのだ。
「すみません。失礼を承知で申し上げますが、私はアレクサンドル殿下を今も番とも思っていません」
きっぱりと言いきれば、ヤンデル殿下の表情が変わる。どこまでも激しい何かを秘めた無の表情。その辺りは予測通りだ。
「何故そう思う??」
「アレクサンドル殿下、私には不思議な力があるのです」
ドヤ顔でそう言い放った瞬間、無駄にキラキラしながらお茶をひとり優雅に飲んでいたリアムが吹いた。汚いので侮蔑した目で一瞬見てしまったがすぐに真顔に戻す。ここからが大切だ。
「不思議な力。そのような話は聞いていないが……」
「それは話しておりませんから。私には不特定多数の未来が見えます。そしてその未来の中で、一番不幸な未来で私は貴方から冷遇されて最期には冤罪で処刑されることになりました」
そこまで言ってから、私は目の前の紅茶をひとくち飲む。緊張で渇いていた喉が潤っていく。その言葉にヤンデル殿下が、不快な表情を浮かべた。とても見慣れたその表情に逆に安堵している自分がいる。
(貴方はいつもその顔で私を見ていた。むしろさっきまでがおかしいのよ)
「君は、その不確かな能力で僕を番ではないといいきったのか??こんなに愛して……」
「その不幸な世界では、貴方は私を嫌悪剤の影響で嫌い、私の従姉妹の子爵令嬢を番だとし婚約を破棄されました。それだけならまだしも、番を偽った罪として私の家族を殺し、私は廃墟のような離宮へ追いやった。それだけでは飽き足らず、従姉妹の子爵令嬢を殺そうとした冤罪をかけて私を処刑しようとされたのです」
あまり彼を頼りたいという訳ではないけれど、居ないなら居ないで少し不安になるのは、変な乱入の仕方をされる懸念があるからだ。
例えば初日の家族団らんにいきなり混ざるような、実に良くない形で……。
(でも一応、兄という設定だからね、その設定覆すことはないはず。まぁヤンデル殿下にひとりで会うのは正直、物凄く嫌だけど、例の提案をするために仕方ない)
色々な考えが頭をグルグルまわっていたが、もう私はヤンデル殿下の待っている応接室前まで来ていた。
前の時間軸では一度もヤンデル殿下が我が家に来たことはない。なんなら一度も私の元を訪れたこともなかった。だからこそよりいっそう私の心は凪のように静かだった。
彼を愛することはない。そう強く確信しているから。ただ、不興をわざわざ買うつもりはない。ケンカならいつでも買ってやりたいところだけれど。
私は深呼吸をして、室内へ入る。
「ごきげんよう、アレクサンドル殿下」
「ああ、ベベ、会いたかったよ。僕の番」
手紙から想像したよりは幾分かマシだった、ヤンデル殿下の隣に見覚えのある男が座っている。
具体的には手紙で何度となく殺されそうになっていて、かつ毒まで盛られ始めたはずの男、つまり兄(仮)のリアムがとてもにこやかに座っていた。
「……アレクサンドル殿下とお兄様。お兄様どうしていらっしゃるのですか」
「ああ、それはね、僕の中でアレク様に誤解されている部分もあるかもなと思って、マイ・プリンセスが会う前に話し合いをしたのさ」
無駄にキラキラしながら微笑むのがムカつくが、つまり事前に何か話をしていたらしい。
ちょっと怖いけどリアムの隣のヤンデル殿下を確認する、もし阿修羅みたいな顔していたらすごく嫌だなと思うと同時にしばらく視界を逸らすという決意をしたからだった。
しかし、ヤンデル殿下はとても穏やかな表情だった。その妙な静けさが怖い気もしたが今は、それについては私は全面的にスルーすることにする。
そう、私がここに来たのはヤンデル殿下とある約束を交わしてもらうためなのだから。
「先日は、沢山の薔薇とお手紙を頂きありがとうございます」
「ああ、いいんだ。婚約者として当たり前のことをしただけなのだから」
普通の婚約者は、あんな部屋の中に全て入れたら酸欠で死ぬような量の薔薇は送らないし、あんな狂った手紙も送らないと言い返したい気持ちを必死に抑えて無理やり微笑んだ。
「マイ・プリンセスも狂気溢れるプレゼントに声も出せませんでしたよ」
「そうか、あの……昨日はガーベラと手紙を有難う。君からの真心は伝わったよ」
赤面して嬉しそうなヤンデル殿下。正直手紙には薔薇のお礼しか書いていないし、「感謝」の意味で返礼として贈ったピンクのガーベラがそんなに嬉しかったのだろうか。
変な期待をされないように、細心の注意を払いかつ失礼にならない程度に愛のない返しにしたはずだけれど……。
「手紙は大切に保管し、ガーベラも魔法をかけて半永久的に枯れないようにした」
(こわっ!!)
内心でドン引きしながらけれど必死に表情に出さないようにする。
「あの、アレクサンドル殿下、その……」
「前も言ったが、ベベ、僕のことはアレクと呼んでくれないかい??」
正直あれから5日しか経っていない上に前世の地獄のせいで、現段階で心を開くつもりはない。それなのに彼はそんなことお構いなしのようだ。
その点については手紙から察してはいた。だからこそ今日は約束をさせようと思っているのだ。
「すみません。失礼を承知で申し上げますが、私はアレクサンドル殿下を今も番とも思っていません」
きっぱりと言いきれば、ヤンデル殿下の表情が変わる。どこまでも激しい何かを秘めた無の表情。その辺りは予測通りだ。
「何故そう思う??」
「アレクサンドル殿下、私には不思議な力があるのです」
ドヤ顔でそう言い放った瞬間、無駄にキラキラしながらお茶をひとり優雅に飲んでいたリアムが吹いた。汚いので侮蔑した目で一瞬見てしまったがすぐに真顔に戻す。ここからが大切だ。
「不思議な力。そのような話は聞いていないが……」
「それは話しておりませんから。私には不特定多数の未来が見えます。そしてその未来の中で、一番不幸な未来で私は貴方から冷遇されて最期には冤罪で処刑されることになりました」
そこまで言ってから、私は目の前の紅茶をひとくち飲む。緊張で渇いていた喉が潤っていく。その言葉にヤンデル殿下が、不快な表情を浮かべた。とても見慣れたその表情に逆に安堵している自分がいる。
(貴方はいつもその顔で私を見ていた。むしろさっきまでがおかしいのよ)
「君は、その不確かな能力で僕を番ではないといいきったのか??こんなに愛して……」
「その不幸な世界では、貴方は私を嫌悪剤の影響で嫌い、私の従姉妹の子爵令嬢を番だとし婚約を破棄されました。それだけならまだしも、番を偽った罪として私の家族を殺し、私は廃墟のような離宮へ追いやった。それだけでは飽き足らず、従姉妹の子爵令嬢を殺そうとした冤罪をかけて私を処刑しようとされたのです」
5
お気に入りに追加
1,101
あなたにおすすめの小説
私と運命の番との物語
星屑
恋愛
サーフィリア・ルナ・アイラックは前世の記憶を思い出した。だが、彼女が転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢だった。しかもその悪役令嬢、ヒロインがどのルートを選んでも邪竜に殺されるという、破滅エンドしかない。
ーなんで死ぬ運命しかないの⁉︎どうしてタイプでも好きでもない王太子と婚約しなくてはならないの⁉︎誰か私の破滅エンドを打ち破るくらいの運命の人はいないの⁉︎ー
破滅エンドを回避し、永遠の愛を手に入れる。
前世では恋をしたことがなく、物語のような永遠の愛に憧れていた。
そんな彼女と恋をした人はまさかの……⁉︎
そんな2人がイチャイチャラブラブする物語。
*「私と運命の番との物語」の改稿版です。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?
夕立悠理
恋愛
ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。
けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。
このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。
なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。
なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。
甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)
夕立悠理
恋愛
伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。
父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。
何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。
不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。
そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。
ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。
「あなたをずっと待っていました」
「……え?」
「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」
下僕。誰が、誰の。
「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」
「!?!?!?!?!?!?」
そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。
果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる