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12:ヤンデル殿下との話し合い01

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(リアムはどこに行ったのかな……)

あまり彼を頼りたいという訳ではないけれど、居ないなら居ないで少し不安になるのは、変な乱入の仕方をされる懸念があるからだ。

例えば初日の家族団らんにいきなり混ざるような、実に良くない形で……。

(でも一応、兄という設定だからね、その設定覆すことはないはず。まぁヤンデル殿下にひとりで会うのは正直、物凄く嫌だけど、をするために仕方ない)

色々な考えが頭をグルグルまわっていたが、もう私はヤンデル殿下の待っている応接室前まで来ていた。

前の時間軸では一度もヤンデル殿下が我が家に来たことはない。なんなら一度も私の元を訪れたこともなかった。だからこそよりいっそう私の心は凪のように静かだった。

彼を愛することはない。そう強く確信しているから。ただ、不興をわざわざ買うつもりはない。ケンカならいつでも買ってやりたいところだけれど。

私は深呼吸をして、室内へ入る。

「ごきげんよう、アレクサンドル殿下」

「ああ、ベベ、会いたかったよ。僕の番」

手紙から想像したよりは幾分かマシだった、ヤンデル殿下の隣に見覚えのある男が座っている。

具体的には手紙で何度となく殺されそうになっていて、かつ毒まで盛られ始めたはずの男、つまり兄(仮)のリアムがとてもにこやかに座っていた。

「……アレクサンドル殿下とお兄様。お兄様どうしていらっしゃるのですか」

「ああ、それはね、僕の中でに誤解されている部分もあるかもなと思って、マイ・プリンセスが会う前に話し合いをしたのさ」

無駄にキラキラしながら微笑むのがムカつくが、つまり事前に何か話をしていたらしい。

ちょっと怖いけどリアムの隣のヤンデル殿下を確認する、もし阿修羅みたいな顔していたらすごく嫌だなと思うと同時にしばらく視界を逸らすという決意をしたからだった。

しかし、ヤンデル殿下はとても穏やかな表情だった。その妙な静けさが怖い気もしたが今は、それについては私は全面的にスルーすることにする。

そう、私がここに来たのはヤンデル殿下とある約束を交わしてもらうためなのだから。

「先日は、沢山の薔薇とお手紙を頂きありがとうございます」

「ああ、いいんだ。婚約者として当たり前のことをしただけなのだから」

普通の婚約者は、あんな部屋の中に全て入れたら酸欠で死ぬような量の薔薇は送らないし、あんな狂った手紙も送らないと言い返したい気持ちを必死に抑えて無理やり微笑んだ。

「マイ・プリンセスも狂気溢れるプレゼントあまりにも素敵な贈り物に声も出せませんでしたよ」

「そうか、あの……昨日はガーベラと手紙を有難う。君からの真心は伝わったよ」

赤面して嬉しそうなヤンデル殿下。正直手紙には薔薇のお礼しか書いていないし、「感謝」の意味で返礼として贈ったピンクのガーベラがそんなに嬉しかったのだろうか。

変な期待をされないように、細心の注意を払いかつ失礼にならない程度に愛のない返しにしたはずだけれど……。

「手紙は大切に保管し、ガーベラも魔法をかけて半永久的に枯れないようにした」

(こわっ!!)

内心でドン引きしながらけれど必死に表情に出さないようにする。

「あの、アレクサンドル殿下、その……」

「前も言ったが、ベベ、僕のことはアレクと呼んでくれないかい??」

正直あれから5日しか経っていない上に前世の地獄のせいで、現段階で心を開くつもりはない。それなのに彼はそんなことお構いなしのようだ。

その点については手紙から察してはいた。だからこそ今日は約束をさせようと思っているのだ。

「すみません。失礼を承知で申し上げますが、私はアレクサンドル殿下を今も番とも思っていません」

きっぱりと言いきれば、ヤンデル殿下の表情が変わる。どこまでも激しい何かを秘めた無の表情。その辺りは予測通りだ。

「何故そう思う??」

「アレクサンドル殿下、私には不思議な力があるのです」

ドヤ顔でそう言い放った瞬間、無駄にキラキラしながらお茶をひとり優雅に飲んでいたリアムが吹いた。汚いので侮蔑した目で一瞬見てしまったがすぐに真顔に戻す。ここからが大切だ。

「不思議な力。そのような話は聞いていないが……」

「それは話しておりませんから。私には不特定多数の未来が見えます。そしてその未来の中で、一番不幸な未来で私は貴方から冷遇されて最期には冤罪で処刑されることになりました」

そこまで言ってから、私は目の前の紅茶をひとくち飲む。緊張で渇いていた喉が潤っていく。その言葉にヤンデル殿下が、不快な表情を浮かべた。とても見慣れたその表情に逆に安堵している自分がいる。

(貴方はいつもその顔で私を見ていた。むしろさっきまでがおかしいのよ)

「君は、その不確かな能力で僕を番ではないといいきったのか??こんなに愛して……」

「その不幸な世界では、貴方は私を嫌悪剤の影響で嫌い、私の従姉妹の子爵令嬢を番だとし婚約を破棄されました。それだけならまだしも、番を偽った罪として私の家族を殺し、私は廃墟のような離宮へ追いやった。それだけでは飽き足らず、従姉妹の子爵令嬢を殺そうとした冤罪をかけて私を処刑しようとされたのです」
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