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05:ブラコン設定を生やされて私は激怒した

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「君が、ベアトリーチェ嬢か」

そう声を掛けてきた、私の憎き敵、もとい前世で散々地獄へ叩き落としてくれた男、今はまだ14歳の少年であるアレクサンドル殿下を私は見つめる。

沸き立つ様々な感情を全て殺して私は微笑む。

「はい、お目に掛かれて光栄でございます」

内心では「こいつから逃げられれば私は、幸せになる道もあるかもしれない」という本音を必死に隠しながら完璧な淑女の笑みを浮かべた。その顔をジッと見つめられているのが分かる。

(以前はこの辺りで微妙な顔されたんだよね。今回はどんな顔するんだ……)

軽い気持ちでその顔を見たことを後悔した。その顔は、なんだろう微妙だなというものではない、しかしなんかこう好感を持っているというものでもない。

一番近いのは「困惑」というような表情だった。

(これまた、パターン入ったかな……)

そんなことを考えていた時、前回全く盛り上がらなかったイベント開催の一声が掛かる。

「どうせならふたりでお茶でも飲んできなさい」

そう言って、庭にエスコートされてお茶を飲むというだけのミッションだが前回ここで全くと言って良いほど何ひとつ弾まなかったし、なんなら目も合わせてくれなかった。

「あの、ふたりきりでないとだめですか、その……」

そう口に出してから、特に何も考え無しだったので焦る。

「それは、僕とふたりが不満ということか」

不機嫌に返す、アレクサンドル殿下。それがどのような感情かはあまり分からないが不快そうなのは伝わる。誰が好き好んで針の筵お茶会をしないといけないのか、ましてや前世自身を殺そうとした相手と……。しかしそんなこと言えないのでわざとらしく恥ずかしそうな雰囲気で俯く。ここは恥ずかしいからとかゴネてお母様と一緒に行くなどしたい。そう考えていたのだけれど……。

「申し訳ありません、アレクサンドル殿下。僕の可愛い妹は、大好きな僕と片時でも離れると情緒不安定になってしまうのです、まだ幼いのでどうかお許しを」

危なくすごい顔で「はぁ??」っと言いかけた。なぜ私は、ブラコンキャラの設定を生やされたのか、私は激怒した。必ず、かのドM変態魔術師を痛めつけねばならぬと決意した。

思い立ったが吉日、見えないように強めにリアムの足を踏みつけた。しかし、何故か小声で「あっ」という妙に甘い声の後に「ありがとうございます、マイ・クイーン」と聞こえた気がするが悪い夢だろう。

「……なるほど、人見知りなのか。、けれどまだ王妃教育もはじまっていないから今回は大目に見よう」

思わず「空耳かな」と思うワードが飛び出した。『君は僕の番として王妃になる』だと??前世この瞬間には間違いなく絶対口にしなかった台詞だった。

「ありがとうございます、アレクサンドル殿下」

無難にそう答えたのに、また少し困惑した顔になるアレクサンドル殿下。彼は一体私に何を感じているのかよく分からない。ただ、ひとつ言えるのは前回より幾分かマシということだろう。

そのまま、私は、アレクサンドル殿下にエスコートされながら、リアムも一緒について中庭に移動した。道中では何故か、アレクサンドル殿下はずっと兄を見つめていた。

もしかしたら新しい恋でもしたのかしらと腐ったことを考えてみたが、多分違う。それにドM変態魔術師×地獄への切符を送るマンな皇子のカップリングとか私は解釈違いなのでご勘弁願いたい。

しばらくして、庭園のテラスについた。私と向かい合わせでアレクサンドル殿下が座り、私の隣にリアムは座った。前もリアムが居ないだけでこんな感じで座った記憶がある。

椅子に座るなり、アレクサンドル殿下は私に話しかけた。

「その、ベアトリーチェ嬢は、報告とだいぶ違う印象なのだが、そのずっと愛らしく思う……」

「報告ですか??」

明かなアレクサンドル殿下の失言だった。それに気づいた途端、アレクサンドル殿下は俯いた。

どうやら私の様子を報告させているらしい。だとすれば私の身近に皇族と繋がり密告している人間が居るということだろう。

いくら『予言の書』に記載がされている疑惑のある人間だからといって、伯爵令嬢に対して色々やり過ぎだと思ってしまうのは平和ボケした日本人としての記憶があるからだろうか。

「殿下、報告とは妹について王家の影を動かされているということでしょうか」

柔和な声でリアムが聞いた。その響きとは裏腹に決して逃がさないという類のものだと私にもすぐにわかった。

「ああ。ベアトリーチェ嬢、君が本当に番かしっかり見極める必要があった。知っていると思うが番を間違えた場合、からな」

」その言葉の意味をこの場で一番理解しているのは間違いなく私だ。なんせその「世界が滅んだ」時間軸から嫌々やり直し中なのだから。

だから、私は意趣返しと自由のために、きっと前世なら絶対に口にしなかった発言をした。

「……アレクサンドル殿下、私は貴方の番と思えないのですが……」

解放してほしい。

諸々の問題も、番であるからという婚約さえどうにかできればなんとかなるはずだ。しかし、その言葉に何故かアレクサンドル殿下の顔色が真っ青になる。

「どうして、そんなことを言う。君と今日、直接会って確信した。君は僕の間違いなく番だ」

それは、妙に確信を帯びた言葉だった。しかし、その言葉は私が聞きたいものではなかった。
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