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29.心を無にした(ヴァン視点(影武者))
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「……連中の動きはあの後どうだ??」
突然、通信用の石が光ったかと思うとこちらの都合など関係なしに、主君からの連絡が入った。何故か顔中に引っかき傷があるようだが、いつも通りの主君である。
そのあまりの傍若無人さに怒りを感じたが、顔には出さないで静かにしかし鬱憤を告げる。
「主君、いい加減に王城へお戻り頂きたいのですが……」
「断る。明日、愛おしいルドルフとふたりで湖に行くんだからな。戻るのは最低でもその後だ」
その言葉に俺の目が死んだ魚のようになるのを止めることができなかった。
主君であるイヴァン殿下は相変わらず俺に成り代わり、ルドルフ殿とイチャついている間、俺はずっと殿下に成りすまして地獄のような日々を送っていた。
この国の国王夫妻はとてもお忙しいため、あまり主君と接する機会がいまのところないので入れ替わりについて気付かれてはいないはずだが、それでもいつ怪しまれてもおかしくないので気が気ではない。
しかも、ルドルフ殿との婚約が決まったというのに、毎日のようにジョバンニ殿から手紙やら使いやらがひっきりなしに来ていて正直困っている。
邪険にするには、デネブ公爵令息という肩書の彼は身分が高すぎる。だからつかず離れずあくまで友人程度の距離を保っている。
しかもそこまでしつこいのにその全てが婚約者が居ても、その相手に対して無礼にならない程度の内容なところが本当に恐ろしい。見た目は天使のように愛らしいが絶対に心を許してはいけないタイプだと痛感した。
大体、俺は間違えても彼に触れてはいけないのだ。もし触れるようなことがあれば……。主君が告げた衝撃的な事実を思い出して身震いした。
「わかりました。ちなみに、連中というか、サドル子爵令息の様子がガラリと変わってしまいました。以前はどちらかというとジョバンニ殿の普通のシンパでしたが、今やあれは……」
「完全な下僕だろう??」
俺の言葉を予想したようにニヤリと笑った。憎たらしいがその通りだったので淡々と答えた。
「はい。主君、もしや彼は……」
「そうだ。間違いなくジョバンニにやられたんだろうな、しかしおかげで枠は減った」
主君は割と嬉しそうだが、俺の胸は痛んだ。
「枠は減りましたが、その、無事なのでしょうか……」
「それは問題ない、無事は確認済みだ」
何故かすごく不機嫌に答えた主君に失言をしたかと焦ったが、どちらかというと拗ねているようだった。
そんな主君の機嫌は一旦ほっといて、俺は今後の行動について確認をする。
「一応、ジョバンニ殿には影はついていますが、やはり目に見えて彼自身では行動は起こしていないようです。むしろサドル子爵令息などにも影をつけた方が情報が出るかもしれません」
「……そうだな。そちらにもつけろ。後全ての影にお前どうようジョバンニには間違えても触れられて目を合わせられないようにとの通告も忘れるな。影がジョバンニの手に落ちるなど笑えない。俺の愛するルドたんを守るためにも……」
幻聴だろうか。いままでルドルフと呼んでいた名前を物凄い気持ち悪い、もとい独特の愛称で主君が呼んだような気がしたが……。
「承知いたしました。影には指示を出します」
返事をしてあまり深く考えないようにした、いや考えたら負けだ。ロクな目に合わない。
「何かわかったら連絡しろ。それと、お前も途中から湖で合流しろ」
そのセリフにものすごく眉間にしわが寄った。腐っても王族であるイヴァン殿下がフラフラしているのは望ましくない。しかし、さらに恐ろしいミッションが追加された。
「後、ルドたんにプレゼントの名目で水着も持ってこい。既に王都の仕立て屋に頼んであるのでそれを持っていけば問題ない。ああ、ビキニのきわどいルドたん来てくれるかな。それとも清楚な白のワンピースを選ぶかな??そちらはしっかり大切なところが隠れて見えるけど、水につかると透けるタイプ……ブチッ」
すごく気になるけど聞くだけで正気度を失いそうな発言を残して主君からの通信は途絶えた。
「とりあえず、心を無にしたい……」
その後、色んな感情が無になるまで俺が剣を振り回したのは言うまでもない。
突然、通信用の石が光ったかと思うとこちらの都合など関係なしに、主君からの連絡が入った。何故か顔中に引っかき傷があるようだが、いつも通りの主君である。
そのあまりの傍若無人さに怒りを感じたが、顔には出さないで静かにしかし鬱憤を告げる。
「主君、いい加減に王城へお戻り頂きたいのですが……」
「断る。明日、愛おしいルドルフとふたりで湖に行くんだからな。戻るのは最低でもその後だ」
その言葉に俺の目が死んだ魚のようになるのを止めることができなかった。
主君であるイヴァン殿下は相変わらず俺に成り代わり、ルドルフ殿とイチャついている間、俺はずっと殿下に成りすまして地獄のような日々を送っていた。
この国の国王夫妻はとてもお忙しいため、あまり主君と接する機会がいまのところないので入れ替わりについて気付かれてはいないはずだが、それでもいつ怪しまれてもおかしくないので気が気ではない。
しかも、ルドルフ殿との婚約が決まったというのに、毎日のようにジョバンニ殿から手紙やら使いやらがひっきりなしに来ていて正直困っている。
邪険にするには、デネブ公爵令息という肩書の彼は身分が高すぎる。だからつかず離れずあくまで友人程度の距離を保っている。
しかもそこまでしつこいのにその全てが婚約者が居ても、その相手に対して無礼にならない程度の内容なところが本当に恐ろしい。見た目は天使のように愛らしいが絶対に心を許してはいけないタイプだと痛感した。
大体、俺は間違えても彼に触れてはいけないのだ。もし触れるようなことがあれば……。主君が告げた衝撃的な事実を思い出して身震いした。
「わかりました。ちなみに、連中というか、サドル子爵令息の様子がガラリと変わってしまいました。以前はどちらかというとジョバンニ殿の普通のシンパでしたが、今やあれは……」
「完全な下僕だろう??」
俺の言葉を予想したようにニヤリと笑った。憎たらしいがその通りだったので淡々と答えた。
「はい。主君、もしや彼は……」
「そうだ。間違いなくジョバンニにやられたんだろうな、しかしおかげで枠は減った」
主君は割と嬉しそうだが、俺の胸は痛んだ。
「枠は減りましたが、その、無事なのでしょうか……」
「それは問題ない、無事は確認済みだ」
何故かすごく不機嫌に答えた主君に失言をしたかと焦ったが、どちらかというと拗ねているようだった。
そんな主君の機嫌は一旦ほっといて、俺は今後の行動について確認をする。
「一応、ジョバンニ殿には影はついていますが、やはり目に見えて彼自身では行動は起こしていないようです。むしろサドル子爵令息などにも影をつけた方が情報が出るかもしれません」
「……そうだな。そちらにもつけろ。後全ての影にお前どうようジョバンニには間違えても触れられて目を合わせられないようにとの通告も忘れるな。影がジョバンニの手に落ちるなど笑えない。俺の愛するルドたんを守るためにも……」
幻聴だろうか。いままでルドルフと呼んでいた名前を物凄い気持ち悪い、もとい独特の愛称で主君が呼んだような気がしたが……。
「承知いたしました。影には指示を出します」
返事をしてあまり深く考えないようにした、いや考えたら負けだ。ロクな目に合わない。
「何かわかったら連絡しろ。それと、お前も途中から湖で合流しろ」
そのセリフにものすごく眉間にしわが寄った。腐っても王族であるイヴァン殿下がフラフラしているのは望ましくない。しかし、さらに恐ろしいミッションが追加された。
「後、ルドたんにプレゼントの名目で水着も持ってこい。既に王都の仕立て屋に頼んであるのでそれを持っていけば問題ない。ああ、ビキニのきわどいルドたん来てくれるかな。それとも清楚な白のワンピースを選ぶかな??そちらはしっかり大切なところが隠れて見えるけど、水につかると透けるタイプ……ブチッ」
すごく気になるけど聞くだけで正気度を失いそうな発言を残して主君からの通信は途絶えた。
「とりあえず、心を無にしたい……」
その後、色んな感情が無になるまで俺が剣を振り回したのは言うまでもない。
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