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閑話:この世界の物語03(側妃視点)

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その朝は突然訪れた。

いつものように侍女が準備をしに来て、服装や身なりを整えて朝食へ向かおうとした。その時、私はそれを目撃することになった。

私の部屋の窓から見えるアリアが幽閉された塔、その塔のある部屋の窓からカーテンが外に飛び出してゆらゆらと揺れていたのだ。

そんなことは今まで一度もなかったの気になって目を凝らした時、私は後悔することになる。

それはカーテンではなかった。ゆらゆらと揺れるそれが白いドレスだと気付いた時、心臓がバクバクと鳴るのがわかった。

そして、その白いドレスから伸びた真っ白い脚を見た瞬間に私はそのまま意識を失った。

次に目覚めた時、見慣れない侍女が不愛想にこちらを見つめていた。

「貴方、誰かしら??」

「今日から、側妃様の身の周りのお世話を仰せつかったものでございます」

そう答えた侍女の髪は黒く、その瞳は切れ長で同じように黒かった。侍女は多分20代後半くらいだと思われた。

その容姿から、彼女が辺境伯家の血筋の娘であることがわかったが、私が知る限りあの家に彼女位の年齢の女性が居るという話を聞いたことがなかった。

さらに、彼女が既婚であれば何らかのお茶会などで目にしたことがあっても不思議ではないのに彼女を見た記憶は一切なかった。

「……私が物珍しいのですか??そうですよね、側妃様は知らなくって当然でございます」

私の目線に気付いたらしい彼女はそう言ってニヤリと笑った。その表情には少なくとも好意的なところはなかった。あるのは強い憎しみのようなものだと気付かないほど私は愚かではない。

「……一体どういうつもりかしら??」

彼女を静かに睨むが、不敵な笑みを浮かべたままだった。長い沈黙の後、彼女は薄い唇から囁くように話はじめた。

「側妃様は、ご存じないですよね。貴方の護衛騎士の生家の子爵家の末路を。正確にはまだ私も兄も生きているので末路ではないですが、見ての通り子爵家とは名ばかりで没落したのですよ」

「……それがなんだというの」

「その原因は貴方と愚かな次兄にありました。ふたりのせいで我々一族は国王派の貴族から見放されて、されど貴族派の貴族となるにはあまりに国王派の中心に近すぎたのです。そのせいでどちらにつくこともできず、兄は仕方なく王家に仕える影として生きる道を選びました。そして私は……長年の婚約が破談になり、以降はこのように貴族の屋敷で侍女として働くしかなくなったのです」

その言葉に背筋がゾクリと冷たくなる。私はただが愛する人の幸せのためにと行動してきたが、そのために不幸になった人間が目の前にいた。

知らないうちに、私は『カルマ』を溜めていた。

その事実に慄きそうになるが、必死に抑えた。モブひとりの人生を変えたくらいならそこまでこの世界でだって問題ないはずだと思いなおしたのだ。

しかし、すぐにその認識を改めないといけないことに気付くことになった。
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