57 / 73
閑話:崩れ落ちた日常08(ヴィンター視点)
しおりを挟む
迎えに来たと言われた時、昨日までなら嬉しかったかもしれない。
けれど、今この瞬間は何故か素直に喜ぶことができなかった。それはきっと絶望している半面でなぜか優しく僕のために料理を差し出してくれたアルムの顔が浮かんでいたのだ。
僕が不貞で生まれた子であるならば、例え父上に再会できても以前のようには戻れない。そして、自分が王族ですらないと分かった以上は王族として以前のように振舞うことは精神的に難しいと思った。
だからと言って、母上からの手紙に従いこの男について行っても父が次男でしかも側妃に手を出していた大悪人だったのだとすれば……果たしてその実家が僕をあたたかく迎えてくれる気がしていなかった。
僕が躊躇している様子に気付いたらしいおじ様は、不健康な顔で優し気に微笑む。
「安心してください。我々の家は貴方をあたたかく迎える準備があります」
そう言って両手を拡げた姿に、何故か胸がざわめいている。どこもおかしなところはないのになぜか胸騒ぎがしていた。だから僕はどうするべきか悩んでしまう。
(けれど、どう考えても他人のアルムに迷惑を掛ける訳にもいかないし、ついて行くべきなんだけれど、何かがおかしい気がする)
そんなことを考えていた時、家のすぐ側で気配がした。アルムが帰ってきたのかもしれない。
「今晩迎えに来ます」
音を聞いて、おじ様はそう言い残すと現れた時のようにそのまま姿を消してしまった。
それと同時に扉が開いて、アルムが少し焦ったように入ってきた。
「アルム……??」
「けがはしていないか??」
今までよりもはっきりした口調でそう言って僕の様子を見ているアルムに首を傾げる。すると、アルムは食べ物が置いてある台所へ行って、鍋に火をくべ始めた。
「すまない……火のくべかたがわからなかっただろう??腹をすかせているのに……」
熊のような男なのに、シュンとしているその姿は大型犬のようで思わず吹き出す。
「うん、でもまだ食べてようとしてなかったから大丈夫」
「……よかった」
そう言って、目の前にあたたかいシチューとパンにサラダを準備してくれた。
「ありがとう」
そう答えながらそれらを口に入れようとした時、グーッと腹の虫が鳴いた。そんな僕の頭をアルムの大きな手が撫でた。
「……子ども扱いしないでよ」
「……すまない、そういえば……」
アルムが何かに気付いたようにあたりを見渡している。
僕は、パンを熱々のシチューに付けて口いっぱいに頬張る。まるで頬袋を膨らませたリスみたいな状態になりながらアルムを見つめる。
「……アルム??」
「なにか、怖いめにあわなかったか??」
心配するように言われてなぜかギクリと心臓がなる。おじ様が来ていたことをアルムは知らないはずだが何故かそれがわかったように聞かれたからだ。
「……別に」
「……くろいけはいがする。これは狂ったもののけはいだ」
そう言って、難しい顔をするアルム。『狂ったもの』とはなんだろう。真っ先に浮かぶのは叔父上が討伐しに向かっている『狂った竜王』だが、それとは違う気がする。
「『狂ったもの』ってなに??」
「……わからない、ただ……それはくろいけはいをのこす」
「わからないけどそいつは怖いものなの??」
その言葉にアルムは頷いてこう答えた。
「『狂ったもの』は、とにかくこわい。ふれたものすべてを狂わせてしまうから……」
けれど、今この瞬間は何故か素直に喜ぶことができなかった。それはきっと絶望している半面でなぜか優しく僕のために料理を差し出してくれたアルムの顔が浮かんでいたのだ。
僕が不貞で生まれた子であるならば、例え父上に再会できても以前のようには戻れない。そして、自分が王族ですらないと分かった以上は王族として以前のように振舞うことは精神的に難しいと思った。
だからと言って、母上からの手紙に従いこの男について行っても父が次男でしかも側妃に手を出していた大悪人だったのだとすれば……果たしてその実家が僕をあたたかく迎えてくれる気がしていなかった。
僕が躊躇している様子に気付いたらしいおじ様は、不健康な顔で優し気に微笑む。
「安心してください。我々の家は貴方をあたたかく迎える準備があります」
そう言って両手を拡げた姿に、何故か胸がざわめいている。どこもおかしなところはないのになぜか胸騒ぎがしていた。だから僕はどうするべきか悩んでしまう。
(けれど、どう考えても他人のアルムに迷惑を掛ける訳にもいかないし、ついて行くべきなんだけれど、何かがおかしい気がする)
そんなことを考えていた時、家のすぐ側で気配がした。アルムが帰ってきたのかもしれない。
「今晩迎えに来ます」
音を聞いて、おじ様はそう言い残すと現れた時のようにそのまま姿を消してしまった。
それと同時に扉が開いて、アルムが少し焦ったように入ってきた。
「アルム……??」
「けがはしていないか??」
今までよりもはっきりした口調でそう言って僕の様子を見ているアルムに首を傾げる。すると、アルムは食べ物が置いてある台所へ行って、鍋に火をくべ始めた。
「すまない……火のくべかたがわからなかっただろう??腹をすかせているのに……」
熊のような男なのに、シュンとしているその姿は大型犬のようで思わず吹き出す。
「うん、でもまだ食べてようとしてなかったから大丈夫」
「……よかった」
そう言って、目の前にあたたかいシチューとパンにサラダを準備してくれた。
「ありがとう」
そう答えながらそれらを口に入れようとした時、グーッと腹の虫が鳴いた。そんな僕の頭をアルムの大きな手が撫でた。
「……子ども扱いしないでよ」
「……すまない、そういえば……」
アルムが何かに気付いたようにあたりを見渡している。
僕は、パンを熱々のシチューに付けて口いっぱいに頬張る。まるで頬袋を膨らませたリスみたいな状態になりながらアルムを見つめる。
「……アルム??」
「なにか、怖いめにあわなかったか??」
心配するように言われてなぜかギクリと心臓がなる。おじ様が来ていたことをアルムは知らないはずだが何故かそれがわかったように聞かれたからだ。
「……別に」
「……くろいけはいがする。これは狂ったもののけはいだ」
そう言って、難しい顔をするアルム。『狂ったもの』とはなんだろう。真っ先に浮かぶのは叔父上が討伐しに向かっている『狂った竜王』だが、それとは違う気がする。
「『狂ったもの』ってなに??」
「……わからない、ただ……それはくろいけはいをのこす」
「わからないけどそいつは怖いものなの??」
その言葉にアルムは頷いてこう答えた。
「『狂ったもの』は、とにかくこわい。ふれたものすべてを狂わせてしまうから……」
2
お気に入りに追加
890
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
頭の上に現れた数字が平凡な俺で抜いた数って冗談ですよね?
いぶぷろふぇ
BL
ある日突然頭の上に謎の数字が見えるようになったごくごく普通の高校生、佐藤栄司。何やら規則性があるらしい数字だが、その意味は分からないまま。
ところが、数字が頭上にある事にも慣れたある日、クラス替えによって隣の席になった学年一のイケメン白田慶は数字に何やら心当たりがあるようで……?
頭上の数字を発端に、普通のはずの高校生がヤンデレ達の愛に巻き込まれていく!?
「白田君!? っていうか、和真も!? 慎吾まで!? ちょ、やめて! そんな目で見つめてこないで!」
美形ヤンデレ攻め×平凡受け
※この作品は以前ぷらいべったーに載せた作品を改題・改稿したものです
※物語は高校生から始まりますが、主人公が成人する後半まで性描写はありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる