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閑話:崩れ落ちた日常08(ヴィンター視点)

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迎えに来たと言われた時、昨日までなら嬉しかったかもしれない。

けれど、今この瞬間は何故か素直に喜ぶことができなかった。それはきっと絶望している半面でなぜか優しく僕のために料理を差し出してくれたアルムの顔が浮かんでいたのだ。

僕が不貞で生まれた子であるならば、例え父上に再会できても以前のようには戻れない。そして、自分が王族ですらないと分かった以上は王族として以前のように振舞うことは精神的に難しいと思った。

だからと言って、母上からの手紙に従いこの男について行っても父が次男でしかも側妃に手を出していた大悪人だったのだとすれば……果たしてその実家が僕をあたたかく迎えてくれる気がしていなかった。

僕が躊躇している様子に気付いたらしいは、不健康な顔で優し気に微笑む。

「安心してください。我々の家は貴方をあたたかく迎える準備があります」

そう言って両手を拡げた姿に、何故か胸がざわめいている。どこもおかしなところはないのになぜか胸騒ぎがしていた。だから僕はどうするべきか悩んでしまう。

(けれど、どう考えても他人のアルムに迷惑を掛ける訳にもいかないし、ついて行くべきなんだけれど、何かがおかしい気がする)

そんなことを考えていた時、家のすぐ側で気配がした。アルムが帰ってきたのかもしれない。

「今晩迎えに来ます」

音を聞いて、おじ様はそう言い残すと現れた時のようにそのまま姿を消してしまった。

それと同時に扉が開いて、アルムが少し焦ったように入ってきた。

「アルム……??」

「けがはしていないか??」

今までよりもはっきりした口調でそう言って僕の様子を見ているアルムに首を傾げる。すると、アルムは食べ物が置いてある台所へ行って、鍋に火をくべ始めた。

「すまない……火のくべかたがわからなかっただろう??腹をすかせているのに……」

熊のような男なのに、シュンとしているその姿は大型犬のようで思わず吹き出す。

「うん、でもまだ食べてようとしてなかったから大丈夫」

「……よかった」

そう言って、目の前にあたたかいシチューとパンにサラダを準備してくれた。

「ありがとう」

そう答えながらそれらを口に入れようとした時、グーッと腹の虫が鳴いた。そんな僕の頭をアルムの大きな手が撫でた。

「……子ども扱いしないでよ」

「……すまない、そういえば……」

アルムが何かに気付いたようにあたりを見渡している。

僕は、パンを熱々のシチューに付けて口いっぱいに頬張る。まるで頬袋を膨らませたリスみたいな状態になりながらアルムを見つめる。

「……アルム??」

「なにか、怖いめにあわなかったか??」

心配するように言われてなぜかギクリと心臓がなる。おじ様が来ていたことをアルムは知らないはずだが何故かそれがわかったように聞かれたからだ。

「……別に」

「……くろいけはいがする。これは狂ったもののけはいだ」

そう言って、難しい顔をするアルム。『狂ったもの』とはなんだろう。真っ先に浮かぶのは叔父上が討伐しに向かっている『狂った竜王』だが、それとは違う気がする。

「『狂ったもの』ってなに??」

「……わからない、ただ……それはくろいけはいをのこす」

「わからないけどそいつは怖いものなの??」

その言葉にアルムは頷いてこう答えた。

「『狂ったもの』は、とにかくこわい。ふれたものすべてを狂わせてしまうから……」
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