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閑話:崩れ落ちた日常07(ヴィンター視点)
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夢を見た。
優しい両親がいつものように微笑んでくれる幸せな夢。それが夢だとわかっていても目覚めたくないと思うような幸せな夢。
けれど、その夢の最後に何故か真っ黒い雲が現れて全ては飲み込まれてしまった。
目が覚めた時、見覚えのない天井に一瞬驚いたけれどすぐに庭師の小屋で眠ってしまったことを思い出した。
粗末だと思った小屋は意外にもあたたかく、窓から見える重いどんよりとした雲の色、『竜鳴き』が近づいている季節でも快適に過ごすことができた。
ベッドから出ると、そこで異常に気付いた。僕の荷物が全てなぜか運び込まれていたのだ。
「これ、どういうこと??」
思わず叫んだけれど、アルムの姿はなく代わりに1枚の手紙が置かれていた。
そこには、彼が仕事のため既に家から出ていることと、これからはここで暮らすことになるということがとても簡素だが丸っこい女性のような文体でつづられていた。
そうして、僕は嫌でも悟ることになる。イクリスが僕を愛していたのはあくまで王位継承の可能性が高い王子だったからで、本来は少しも愛していないということに。
「……結局、イクリスは叔父上を追いかけたんだ……」
そう誰もいない室内で呟いたら、急に悲しい気持ちがこみ上げてきた。
たった数日で僕が全てだと思っていた世界は崩れて消えてしまった。
まとめられた荷物はおもったより少なくて、あの時はまだ元の日常にすぐ戻れると信じて疑っていなかったことを思い出したら急に、壊れたように僕は声を上げて泣いた。
「どうして、どうして……こんなことに」
泣いて泣いてずっと泣いて、フッとあることを思い出す。
『もしも、とても困ることがあったら、開きなさい』
そう言って母上から渡されていたお守りがあったのを思い出した。それを僕は胸の隠しポケットから取り出した。
色褪せた赤いその袋を開くと1枚の手紙が入っていて、そこにはこんなことが書かれていた。
『可愛いヴィンターへ
この手紙を貴方が読んでいるということは、私は既にこの世に居ないか、もしくは想像しているもっとも悪い事態が起きたということでしょう。
私は、罪を犯しました。
貴方は、国王陛下の息子ではありません。貴方の父親は辺境伯家の血縁にあたる子爵家の次男で私の護衛騎士です。
私には罪はありますが、貴方には罪はありません。だから、もし何かがあり困ったなら父方の親戚を頼りなさい。必ず貴方を迎え入れてくれるはずです。
誰よりも大切な貴方が幸せになれるますように……』
その内容に、イクリスの言葉が事実だったことを嫌でも理解せざる得なかった。そして、僕は、その場に崩れ落ちて床の上に突っ伏して咽び泣いた。
どんなに泣いても叫んでも誰も来ないから、ならばとひたすらに発散できない感情を全て吐露するように泣いて泣いてただただ泣いた。
どれくらい泣いたか分からないが、頭が痛すぎて、泣くのをやめて顔を上げた時だった。
「ぎゃぁああああ!!」
思わず悲鳴を上げていた。そこには、王城を出る時にみた影の男が立っていたのだ。
「すみません、殿下驚かせてしまいましたね」
黒髪、黒目のその男は不健康な土気色の顔に困ったような笑顔を張り付けていた。
「なんでお前がここに居るんだ??」
「側妃様からの手紙を読みましたね。実は、貴方のおじにあたるのです」
その言葉に、僕の父親が子爵家の次男だと書かれていたことを思い出して、彼を見つめた。つまり辺境伯家の血縁にある子爵家の者ということだ。
そういえば、何故か目立たないと思ったがこの国では辺境伯家の血縁者以外は持つことがない黒い髪を確かに男はしてた。
てっきり影は、名もなき者が務めていると思っていたが違うこともあるらしい。
「……そのおじ上が何か用があるの??」
「もちろんです、貴方を迎えに来ました」
優しい両親がいつものように微笑んでくれる幸せな夢。それが夢だとわかっていても目覚めたくないと思うような幸せな夢。
けれど、その夢の最後に何故か真っ黒い雲が現れて全ては飲み込まれてしまった。
目が覚めた時、見覚えのない天井に一瞬驚いたけれどすぐに庭師の小屋で眠ってしまったことを思い出した。
粗末だと思った小屋は意外にもあたたかく、窓から見える重いどんよりとした雲の色、『竜鳴き』が近づいている季節でも快適に過ごすことができた。
ベッドから出ると、そこで異常に気付いた。僕の荷物が全てなぜか運び込まれていたのだ。
「これ、どういうこと??」
思わず叫んだけれど、アルムの姿はなく代わりに1枚の手紙が置かれていた。
そこには、彼が仕事のため既に家から出ていることと、これからはここで暮らすことになるということがとても簡素だが丸っこい女性のような文体でつづられていた。
そうして、僕は嫌でも悟ることになる。イクリスが僕を愛していたのはあくまで王位継承の可能性が高い王子だったからで、本来は少しも愛していないということに。
「……結局、イクリスは叔父上を追いかけたんだ……」
そう誰もいない室内で呟いたら、急に悲しい気持ちがこみ上げてきた。
たった数日で僕が全てだと思っていた世界は崩れて消えてしまった。
まとめられた荷物はおもったより少なくて、あの時はまだ元の日常にすぐ戻れると信じて疑っていなかったことを思い出したら急に、壊れたように僕は声を上げて泣いた。
「どうして、どうして……こんなことに」
泣いて泣いてずっと泣いて、フッとあることを思い出す。
『もしも、とても困ることがあったら、開きなさい』
そう言って母上から渡されていたお守りがあったのを思い出した。それを僕は胸の隠しポケットから取り出した。
色褪せた赤いその袋を開くと1枚の手紙が入っていて、そこにはこんなことが書かれていた。
『可愛いヴィンターへ
この手紙を貴方が読んでいるということは、私は既にこの世に居ないか、もしくは想像しているもっとも悪い事態が起きたということでしょう。
私は、罪を犯しました。
貴方は、国王陛下の息子ではありません。貴方の父親は辺境伯家の血縁にあたる子爵家の次男で私の護衛騎士です。
私には罪はありますが、貴方には罪はありません。だから、もし何かがあり困ったなら父方の親戚を頼りなさい。必ず貴方を迎え入れてくれるはずです。
誰よりも大切な貴方が幸せになれるますように……』
その内容に、イクリスの言葉が事実だったことを嫌でも理解せざる得なかった。そして、僕は、その場に崩れ落ちて床の上に突っ伏して咽び泣いた。
どんなに泣いても叫んでも誰も来ないから、ならばとひたすらに発散できない感情を全て吐露するように泣いて泣いてただただ泣いた。
どれくらい泣いたか分からないが、頭が痛すぎて、泣くのをやめて顔を上げた時だった。
「ぎゃぁああああ!!」
思わず悲鳴を上げていた。そこには、王城を出る時にみた影の男が立っていたのだ。
「すみません、殿下驚かせてしまいましたね」
黒髪、黒目のその男は不健康な土気色の顔に困ったような笑顔を張り付けていた。
「なんでお前がここに居るんだ??」
「側妃様からの手紙を読みましたね。実は、貴方のおじにあたるのです」
その言葉に、僕の父親が子爵家の次男だと書かれていたことを思い出して、彼を見つめた。つまり辺境伯家の血縁にある子爵家の者ということだ。
そういえば、何故か目立たないと思ったがこの国では辺境伯家の血縁者以外は持つことがない黒い髪を確かに男はしてた。
てっきり影は、名もなき者が務めていると思っていたが違うこともあるらしい。
「……そのおじ上が何か用があるの??」
「もちろんです、貴方を迎えに来ました」
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