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閑話:崩れ落ちた日常06(ヴィンター視点)
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頭の中が真っ白になり、そのまま僕は館を飛び出していた。今まで信じていた全てが崩れ去るような恐ろしい感覚が信じたくなくって、逃げ出したくて外へ飛び出した時、その光景が目に入った。
先ほどバレット子爵と挨拶した新館に叔父上とレフが入っていく姿だった。
その瞬間、脳内で恐ろしいささやきが聞こえた。
(叔父上が父上の息子なんて嘘だ。仮にそうだとしても父上に愛されているのは僕の方で……)
「何をしている??」
突然、声を掛けられて驚いたがそこにはガタイの良いひとりの男が立っていた。茶色みがかった金髪に、澄んだ空色の瞳をした彼はレフ以上の大男だったのでびっくりして、思わず頭に浮かんでいた恐ろしい考えが霧散していた。
「……なんでもいいでしょう??」
「……ここはあぶない」
投げやりに僕が返した言葉に、いかつい顔を心配そうに歪めてそう答えた彼に思わずなんとも言い難い感情が湧くのが分かった。
「危ないとしても、あんたには関係ないだろう??僕がどうなろうと……」
「……けがをしたら痛い、小さきものが怪我をするのは辛い」
いつもなら、こんなわけのわからない大男なんて知らん顔いていたかもしれない。けれど、今の僕は藁にでも縋りたいほど弱っていた。
何より、しばらく時間が立ってもいつもなら追いかけてくれるイクリスが来なかったことも追い打ちをかけていた。
僕がもし、イクリスが言う『不貞の子』であるならば、今、僕と婚約者であり続けることにメリットがなくなったイクリスに捨てられても不思議じゃない。だとしたら、僕はどうすればよいのかわからなくなる。
「……悲しいなら、ないていい。でもここは寒いから……」
そう言って、大男は、僕の手を引いて館の外にある明らかにみすぼらしい小屋に連れていった。
外観はとても酷かったが、小屋の中の暖炉は綺麗に整い、とても大きな古いロッキングチェアには暖かそうなニットがかかっていた。
あたたかい空気に包まれたことで今まで感じていた絶望的な気分が少し楽になるのが分かった。
「ここ、あんたの家??」
「……どうぞ」
促されてフカフカの椅子に座る。暖炉の上には立派な牡鹿の顔の剥製がかかっていた。
「猟師なの??」
「昔は。今はちがう」
そう答えながら、何かを入れているのがわかった。もくもくと立つ湯気はそれがあたたかいものだと告げていた。その瞬間、グーッとお腹がなっていた。
恥ずかしくて、下を向いたけれど大男は気にした風でもなく、僕の目の前にそれを差し出した。
それは肉の入ったシチューでとても良い匂いがした。
「なんで……」
「はらがすくとよくないことをかんがえてしまう」
まるで僕の心をよんだように答えた大男に複雑な気持ちになりながらも、僕はそれをぼうばる。
(……おいしい!!)
そのシチューは今まで食べたどんな料理よりもおいしかった。特に肉があまりにも美味しくって大切に大切にゆっくり咀嚼した。
そうして、今までいつでも贅沢な料理を食べられた日々を思い出して涙が頬を伝っていった。大男はそんな僕に清潔に現れた布を渡した。
「……ありがとう」
その言葉に柔らかく微笑む顔に思わず余計に涙がこぼれていた。この状況になって気付いたのはきっと今まで僕は自分が誰よりも偉いし、それが当たり前だと思っていた。
けれど、それはあくまで僕が父上、この国の国王に愛されていたからなだけで、実際は僕が誰かに特別に想われていたわけではなかったのだ。
イクリスだって、未だに追ってこないのだからあくまで国王陛下に愛される王子だった僕を好きだっただけなのかもしれない。けれど、そんな何もなくなってしまったかもしれない僕にも優しくしてくれる人が今目の前にいる。
本当の優しさとはこういうものなのかもしれない。
僕はその優しさに浸りながらただただ、シチューを食べて泣いた。泣いて泣いて、いつの間にか瞼が重くなるのが分かった。
でも、その前に知りたかった。
「……その、貴方の名前は??」
「アルム」
その答えを聞いた瞬間、お腹がいっぱいになったことで安心してそのまま僕は眠ってしまった。
先ほどバレット子爵と挨拶した新館に叔父上とレフが入っていく姿だった。
その瞬間、脳内で恐ろしいささやきが聞こえた。
(叔父上が父上の息子なんて嘘だ。仮にそうだとしても父上に愛されているのは僕の方で……)
「何をしている??」
突然、声を掛けられて驚いたがそこにはガタイの良いひとりの男が立っていた。茶色みがかった金髪に、澄んだ空色の瞳をした彼はレフ以上の大男だったのでびっくりして、思わず頭に浮かんでいた恐ろしい考えが霧散していた。
「……なんでもいいでしょう??」
「……ここはあぶない」
投げやりに僕が返した言葉に、いかつい顔を心配そうに歪めてそう答えた彼に思わずなんとも言い難い感情が湧くのが分かった。
「危ないとしても、あんたには関係ないだろう??僕がどうなろうと……」
「……けがをしたら痛い、小さきものが怪我をするのは辛い」
いつもなら、こんなわけのわからない大男なんて知らん顔いていたかもしれない。けれど、今の僕は藁にでも縋りたいほど弱っていた。
何より、しばらく時間が立ってもいつもなら追いかけてくれるイクリスが来なかったことも追い打ちをかけていた。
僕がもし、イクリスが言う『不貞の子』であるならば、今、僕と婚約者であり続けることにメリットがなくなったイクリスに捨てられても不思議じゃない。だとしたら、僕はどうすればよいのかわからなくなる。
「……悲しいなら、ないていい。でもここは寒いから……」
そう言って、大男は、僕の手を引いて館の外にある明らかにみすぼらしい小屋に連れていった。
外観はとても酷かったが、小屋の中の暖炉は綺麗に整い、とても大きな古いロッキングチェアには暖かそうなニットがかかっていた。
あたたかい空気に包まれたことで今まで感じていた絶望的な気分が少し楽になるのが分かった。
「ここ、あんたの家??」
「……どうぞ」
促されてフカフカの椅子に座る。暖炉の上には立派な牡鹿の顔の剥製がかかっていた。
「猟師なの??」
「昔は。今はちがう」
そう答えながら、何かを入れているのがわかった。もくもくと立つ湯気はそれがあたたかいものだと告げていた。その瞬間、グーッとお腹がなっていた。
恥ずかしくて、下を向いたけれど大男は気にした風でもなく、僕の目の前にそれを差し出した。
それは肉の入ったシチューでとても良い匂いがした。
「なんで……」
「はらがすくとよくないことをかんがえてしまう」
まるで僕の心をよんだように答えた大男に複雑な気持ちになりながらも、僕はそれをぼうばる。
(……おいしい!!)
そのシチューは今まで食べたどんな料理よりもおいしかった。特に肉があまりにも美味しくって大切に大切にゆっくり咀嚼した。
そうして、今までいつでも贅沢な料理を食べられた日々を思い出して涙が頬を伝っていった。大男はそんな僕に清潔に現れた布を渡した。
「……ありがとう」
その言葉に柔らかく微笑む顔に思わず余計に涙がこぼれていた。この状況になって気付いたのはきっと今まで僕は自分が誰よりも偉いし、それが当たり前だと思っていた。
けれど、それはあくまで僕が父上、この国の国王に愛されていたからなだけで、実際は僕が誰かに特別に想われていたわけではなかったのだ。
イクリスだって、未だに追ってこないのだからあくまで国王陛下に愛される王子だった僕を好きだっただけなのかもしれない。けれど、そんな何もなくなってしまったかもしれない僕にも優しくしてくれる人が今目の前にいる。
本当の優しさとはこういうものなのかもしれない。
僕はその優しさに浸りながらただただ、シチューを食べて泣いた。泣いて泣いて、いつの間にか瞼が重くなるのが分かった。
でも、その前に知りたかった。
「……その、貴方の名前は??」
「アルム」
その答えを聞いた瞬間、お腹がいっぱいになったことで安心してそのまま僕は眠ってしまった。
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