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閑話:届かなかった手の先は……02(イクリス視点)
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『暗黒の森』の中はまさにその名の通り真っ暗で、そして何より静かだった。
ヴィンター様が先ほどあれほどの大騒ぎをしながら森に入ったのだからその音がするかもしれないと思っていたがどうやらこの森の中は通常の常識とは異なるらしい。
光が一筋も差さない暗い森の中を私は歩く。ただただ歩いて歩く。
(ルティ……、君に会いたい。会ってもう一度話がしたい)
けれど、真っ暗な森の中では物音ひとつしない。
深い森の中、どこが正しい道か分からない。けれど歩く、歩くしかないのだ。どれくらい歩いているのか最早分からないほど歩いている。けれど、まるで時間が止まったように疲労はたまらず、空腹も飢えもない。
けれど……、次第にその絶望的な状況に気付いてしまう。
深く真っ暗な森に入って生きて出てきたものはいない。
入る前はこの森に入り、迷い死んでしまったのだと思った。けれどこの異常な森の中に入って気付いたのだ。
この森に入った者は今の私のように永遠に歩き続けているのではないかと、気の遠くなるほど長い時間を永遠に迷い歩き続けているのではないかと。
つまり、この森に入ったものは永遠に死ぬことも出来ずに迷い続けているのではないかと……。
そこまで考えた時、私は地面にしゃがみ込んでいた。
疲れたからではなく自身の状況を理解してしまい動けなくなったのだ。活動をやめた瞬間森の無音をより強く感じる。
目を閉じていても開けていても世界は真っ暗のままだ。それに気付いた時、私は思わず笑ってしまった。
「なるほど、これが断罪なのか??」
ルティに行った残酷な行為の代償。ルティ自身が与えなくても自ら地獄へと足を踏み入れたことに気付いてあまりにも愚かでお粗末な自身に笑いが止まらなくなる。
そもそも、ルティがこの森に入るように国王陛下が賜った時に知っていたはずだ。この『暗黒の森』の中に入れば命は無くなると。
いや、命は無くならなくても永遠に森から出ることはできないと知っていたはずだ。それなのに……。
「永遠にこの森を彷徨い続ける、永遠に……」
目を閉じてただ何もかも行動を止めた時、はじめて音を感じた。それは自身の呼吸と鼓動だった。
「ここで止まってはだめだ。ルティはこの森にいる、なら歩き続ければいつかルティに会えるはずだ……」
私は歩いた、歩いて歩いて歩いた。
どれほど気が遠くなるほど時間がたったかわからない。それくらいずっとずっと歩いて歩いて歩き続けた。
疲労も飢えも何もないなら、それが可能だ。寝ることもせずただただがむしゃらに歩いた。
その頭の中にはルティだけを浮かべて。
どれほど長い間歩いていたのか、目の前に明らかに今までと違う光景が見えた。それは暗闇の中で一筋だけ差す光だった。
その光に近付いた時、それが人の亡骸であると気付いた。
深々と胸に剣の刺さった銀髪碧眼のその人は、紛れもない国王陛下だった。
「陛下??」
淡く輝くその体に触れた時、確かに声が聞こえた。
『私の逆鱗を使え。そうして、あの者を解放してほしい……」
意味が分からないまま淡く輝いている鱗のようなものに触れた時、それは自然と剥がれて私の手の中に納まる。
「これは一体……」
事態を飲み込めていない私が呆然としていると背後から声が聞こえた。
「なるほど、神は俺を見離してはいなかったらしいな」
振り返ると、そこには漆黒の髪に真っ赤な目をした男が立っていた。その面差しは小辺境伯にそっくりだが纏う空気が違っていた。
「貴方は誰だ??」
「『狂った竜王』。お前たちからはそう呼ばれている」
ヴィンター様が先ほどあれほどの大騒ぎをしながら森に入ったのだからその音がするかもしれないと思っていたがどうやらこの森の中は通常の常識とは異なるらしい。
光が一筋も差さない暗い森の中を私は歩く。ただただ歩いて歩く。
(ルティ……、君に会いたい。会ってもう一度話がしたい)
けれど、真っ暗な森の中では物音ひとつしない。
深い森の中、どこが正しい道か分からない。けれど歩く、歩くしかないのだ。どれくらい歩いているのか最早分からないほど歩いている。けれど、まるで時間が止まったように疲労はたまらず、空腹も飢えもない。
けれど……、次第にその絶望的な状況に気付いてしまう。
深く真っ暗な森に入って生きて出てきたものはいない。
入る前はこの森に入り、迷い死んでしまったのだと思った。けれどこの異常な森の中に入って気付いたのだ。
この森に入った者は今の私のように永遠に歩き続けているのではないかと、気の遠くなるほど長い時間を永遠に迷い歩き続けているのではないかと。
つまり、この森に入ったものは永遠に死ぬことも出来ずに迷い続けているのではないかと……。
そこまで考えた時、私は地面にしゃがみ込んでいた。
疲れたからではなく自身の状況を理解してしまい動けなくなったのだ。活動をやめた瞬間森の無音をより強く感じる。
目を閉じていても開けていても世界は真っ暗のままだ。それに気付いた時、私は思わず笑ってしまった。
「なるほど、これが断罪なのか??」
ルティに行った残酷な行為の代償。ルティ自身が与えなくても自ら地獄へと足を踏み入れたことに気付いてあまりにも愚かでお粗末な自身に笑いが止まらなくなる。
そもそも、ルティがこの森に入るように国王陛下が賜った時に知っていたはずだ。この『暗黒の森』の中に入れば命は無くなると。
いや、命は無くならなくても永遠に森から出ることはできないと知っていたはずだ。それなのに……。
「永遠にこの森を彷徨い続ける、永遠に……」
目を閉じてただ何もかも行動を止めた時、はじめて音を感じた。それは自身の呼吸と鼓動だった。
「ここで止まってはだめだ。ルティはこの森にいる、なら歩き続ければいつかルティに会えるはずだ……」
私は歩いた、歩いて歩いて歩いた。
どれほど気が遠くなるほど時間がたったかわからない。それくらいずっとずっと歩いて歩いて歩き続けた。
疲労も飢えも何もないなら、それが可能だ。寝ることもせずただただがむしゃらに歩いた。
その頭の中にはルティだけを浮かべて。
どれほど長い間歩いていたのか、目の前に明らかに今までと違う光景が見えた。それは暗闇の中で一筋だけ差す光だった。
その光に近付いた時、それが人の亡骸であると気付いた。
深々と胸に剣の刺さった銀髪碧眼のその人は、紛れもない国王陛下だった。
「陛下??」
淡く輝くその体に触れた時、確かに声が聞こえた。
『私の逆鱗を使え。そうして、あの者を解放してほしい……」
意味が分からないまま淡く輝いている鱗のようなものに触れた時、それは自然と剥がれて私の手の中に納まる。
「これは一体……」
事態を飲み込めていない私が呆然としていると背後から声が聞こえた。
「なるほど、神は俺を見離してはいなかったらしいな」
振り返ると、そこには漆黒の髪に真っ赤な目をした男が立っていた。その面差しは小辺境伯にそっくりだが纏う空気が違っていた。
「貴方は誰だ??」
「『狂った竜王』。お前たちからはそう呼ばれている」
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