上 下
49 / 73

閑話:届かなかった手の先は……02(イクリス視点)

しおりを挟む
『暗黒の森』の中はまさにその名の通り真っ暗で、そして何より静かだった。

ヴィンター様が先ほどあれほどの大騒ぎをしながら森に入ったのだからその音がするかもしれないと思っていたがどうやらこの森の中は通常の常識とは異なるらしい。

光が一筋も差さない暗い森の中を私は歩く。ただただ歩いて歩く。

(ルティ……、君に会いたい。会ってもう一度話がしたい)

けれど、真っ暗な森の中では物音ひとつしない。

深い森の中、どこが正しい道か分からない。けれど歩く、歩くしかないのだ。どれくらい歩いているのか最早分からないほど歩いている。けれど、まるで時間が止まったように疲労はたまらず、空腹も飢えもない。

けれど……、次第にその絶望的な状況に気付いてしまう。

深く真っ暗な森に入って生きて出てきたものはいない。

入る前はこの森に入り、迷い死んでしまったのだと思った。けれどこの異常な森の中に入って気付いたのだ。

この森に入った者は今の私のように永遠に歩き続けているのではないかと、気の遠くなるほど長い時間を永遠に迷い歩き続けているのではないかと。

つまり、この森に入ったものは永遠に死ぬことも出来ずに迷い続けているのではないかと……。

そこまで考えた時、私は地面にしゃがみ込んでいた。

疲れたからではなく自身の状況を理解してしまい動けなくなったのだ。活動をやめた瞬間森の無音をより強く感じる。

目を閉じていても開けていても世界は真っ暗のままだ。それに気付いた時、私は思わず笑ってしまった。

「なるほど、これが断罪なのか??」

ルティに行った残酷な行為の代償。ルティ自身が与えなくても自ら地獄へと足を踏み入れたことに気付いてあまりにも愚かでお粗末な自身に笑いが止まらなくなる。

そもそも、ルティがこの森に入るように国王陛下が賜った時に知っていたはずだ。この『暗黒の森』の中に入れば命は無くなると。

いや、命は無くならなくても永遠に森から出ることはできないと知っていたはずだ。それなのに……。

「永遠にこの森を彷徨い続ける、永遠に……」

目を閉じてただ何もかも行動を止めた時、はじめて音を感じた。それは自身の呼吸と鼓動だった。

「ここで止まってはだめだ。ルティはこの森にいる、なら歩き続ければいつかルティに会えるはずだ……」

私は歩いた、歩いて歩いて歩いた。

どれほど気が遠くなるほど時間がたったかわからない。それくらいずっとずっと歩いて歩いて歩き続けた。

疲労も飢えも何もないなら、それが可能だ。寝ることもせずただただがむしゃらに歩いた。

その頭の中にはルティだけを浮かべて。

どれほど長い間歩いていたのか、目の前に明らかに今までと違う光景が見えた。それは暗闇の中で一筋だけ差す光だった。

その光に近付いた時、それが人の亡骸であると気付いた。

深々と胸に剣の刺さった銀髪碧眼のその人は、紛れもない国王陛下だった。

「陛下??」

淡く輝くその体に触れた時、確かに声が聞こえた。

『私の逆鱗を使え。そうして、あの者を解放してほしい……」

意味が分からないまま淡く輝いている鱗のようなものに触れた時、それは自然と剥がれて私の手の中に納まる。

「これは一体……」

事態を飲み込めていない私が呆然としていると背後から声が聞こえた。

「なるほど、神は俺を見離してはいなかったらしいな」

振り返ると、そこには漆黒の髪に真っ赤な目をした男が立っていた。その面差しは小辺境伯にそっくりだが纏う空気が違っていた。

「貴方は誰だ??」

「『狂った竜王』。お前たちからはそう呼ばれている」
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

処理中です...