41 / 73
41.追いかけるモノ06(イクリス視点)
しおりを挟む
(この扉の先にルティが……)
トントン
心臓の鼓動が驚くほど速くなる。しかし、ルティの返事は……。
「レフか??」
(ああ、そうだ、当たり前だ)
明るい声で、小辺境伯の名を呼んだルティに胸が痛むのが分かる。しかし、誰よりもその胸の痛みの原因が自業自得であるとも理解している。
ヴィンター様とふたりきりになって気付いていた。ルティは確かに気難しい部分はあったかもしれないけれど傲慢でもわがままでもなかったということを……。
むしろ、いつも誰かを信じることもできない場所で必死に私だけは信じていた。その信頼を踏みにじったのだ。それなのにその手を、信頼を失ってから大切さに気付くなんて我ながら酷い男だと自嘲する。
(自分が、ルティを傷つけてその信頼も愛も捨ててヴィンター様を選んだじゃないか。それなのに……。いや、それでもどうしても……)
もう一度、あの美しい蒼い瞳を真正面から見つめられたい、話がしたいと、自身の過ちを打ち明けたいと思った。だから、いつも持ち歩いていた羊皮紙の破り急いでメッセージを書いた。
『話がある、もし聞いてくれるならば今夜館の庭園まで来てほしい』
そう書いた1枚の手紙を、扉に差し込む。
(この手紙をみたら、ルティは私だと気付いてくれるだろうか……)
そんな都合の良い妄想をしてすぐに気付いてしまった。ルティに手紙の1枚も最近は自分で書いていなかった。
徒従に代筆させて内容すら確認していなかった。だからもしこの手紙を読んでもルティは私が書いたとは気づかない。
あまりに自業自得な顛末。けれど逆にルティは来てくれるかもしれない。そう考えたが、警戒心の強いルティは差出人が分からない手紙などはそのまま何も反応されないかもしれない。
そんなことを考えていた時、廊下の向こうから慌ただしい足音がすることに気付く、小辺境伯が戻ってきたのかもしれない。
私は後ろ髪を引かれる気持ちを押さえながらその場を後にして部屋に戻った。
部屋に戻ると、ヴィンター様は出て行った時のまま、ベッドで寝息を立てていた。馬車以外で眠ることができたのが久しぶりだったのでとても疲れていたのだろう。
しかし、私はその安らかな寝顔を眺めるよりもずっと、ルティのことばかり考えてしまった。
手紙は出したが、ルティがその手紙を読んでも差出人も分からない手紙に来てくれないかもしれない。そんなことを考えているうちに時間が経ち、外は暗くなり始めてきた。
黒に染まっていく空を眺めていた時、突然扉を控え目にノックする音がした。
「誰だ??」
扉の外に問いかけるが、反応がない。
それはまるで先ほど、私がルティにしたことのようで少しだけ笑いそうになる。けれど、もしかしたらこの先にいるのは領主や、その刺客かもしれない。
私は扉を開かずにそれに耳を当てて物音を確認する。そこまで厚いとは言い難い扉なので誰かがそこに居れば何か聞こえるかもしれないと考えたが、物音ひとつしない。
(なるほど、ここまで気配を殺すことができるのは暗殺者の可能性が高いか??)
その場合、眠っているヴィンター様を起こしたいが扉から離れるのも危険だと判断してしばらく扉を隔てた膠着状態が続いたが……。
なんと、先ほどルティにしたように扉の隙間から羊皮紙の紙が差し込まれたのだ。
それはパラパラと待って地面に文字側を上にして落ちた。そこには血のような赤いインクと無骨な文字でひとこと書かれていた。
『ルティアに会うな。もし、会うならばお前らを殺す』
その瞬間、血が冷めるような恐怖と頭が沸騰するような怒りを両方感じた。間違いない。この手紙は小辺境伯が我々に警告するために入れたのだ。
彼が温情をかけてやるうちに立ち去れと言うことだろう。
「ははははは」
思わず力のない笑いが漏れていた。それは決して愉快だったからの笑いではない。自分の無力さへのやるせなさから漏れたものだった。
何がなんでもルティに会いたい。しかし、そうすることでヴィンター様も危険に晒すことになる。
つまり、私は選択を迫られているのだ。
(ここで静かに立ち去るかこのままこの部屋から出なければ、ふたりの命は保証されるだろう。その代わりもしルティに接触を図ろうとすれば……)
ベッドで今だに眠っているヴィンター様を見つめながら、私はある決断をした。
トントン
心臓の鼓動が驚くほど速くなる。しかし、ルティの返事は……。
「レフか??」
(ああ、そうだ、当たり前だ)
明るい声で、小辺境伯の名を呼んだルティに胸が痛むのが分かる。しかし、誰よりもその胸の痛みの原因が自業自得であるとも理解している。
ヴィンター様とふたりきりになって気付いていた。ルティは確かに気難しい部分はあったかもしれないけれど傲慢でもわがままでもなかったということを……。
むしろ、いつも誰かを信じることもできない場所で必死に私だけは信じていた。その信頼を踏みにじったのだ。それなのにその手を、信頼を失ってから大切さに気付くなんて我ながら酷い男だと自嘲する。
(自分が、ルティを傷つけてその信頼も愛も捨ててヴィンター様を選んだじゃないか。それなのに……。いや、それでもどうしても……)
もう一度、あの美しい蒼い瞳を真正面から見つめられたい、話がしたいと、自身の過ちを打ち明けたいと思った。だから、いつも持ち歩いていた羊皮紙の破り急いでメッセージを書いた。
『話がある、もし聞いてくれるならば今夜館の庭園まで来てほしい』
そう書いた1枚の手紙を、扉に差し込む。
(この手紙をみたら、ルティは私だと気付いてくれるだろうか……)
そんな都合の良い妄想をしてすぐに気付いてしまった。ルティに手紙の1枚も最近は自分で書いていなかった。
徒従に代筆させて内容すら確認していなかった。だからもしこの手紙を読んでもルティは私が書いたとは気づかない。
あまりに自業自得な顛末。けれど逆にルティは来てくれるかもしれない。そう考えたが、警戒心の強いルティは差出人が分からない手紙などはそのまま何も反応されないかもしれない。
そんなことを考えていた時、廊下の向こうから慌ただしい足音がすることに気付く、小辺境伯が戻ってきたのかもしれない。
私は後ろ髪を引かれる気持ちを押さえながらその場を後にして部屋に戻った。
部屋に戻ると、ヴィンター様は出て行った時のまま、ベッドで寝息を立てていた。馬車以外で眠ることができたのが久しぶりだったのでとても疲れていたのだろう。
しかし、私はその安らかな寝顔を眺めるよりもずっと、ルティのことばかり考えてしまった。
手紙は出したが、ルティがその手紙を読んでも差出人も分からない手紙に来てくれないかもしれない。そんなことを考えているうちに時間が経ち、外は暗くなり始めてきた。
黒に染まっていく空を眺めていた時、突然扉を控え目にノックする音がした。
「誰だ??」
扉の外に問いかけるが、反応がない。
それはまるで先ほど、私がルティにしたことのようで少しだけ笑いそうになる。けれど、もしかしたらこの先にいるのは領主や、その刺客かもしれない。
私は扉を開かずにそれに耳を当てて物音を確認する。そこまで厚いとは言い難い扉なので誰かがそこに居れば何か聞こえるかもしれないと考えたが、物音ひとつしない。
(なるほど、ここまで気配を殺すことができるのは暗殺者の可能性が高いか??)
その場合、眠っているヴィンター様を起こしたいが扉から離れるのも危険だと判断してしばらく扉を隔てた膠着状態が続いたが……。
なんと、先ほどルティにしたように扉の隙間から羊皮紙の紙が差し込まれたのだ。
それはパラパラと待って地面に文字側を上にして落ちた。そこには血のような赤いインクと無骨な文字でひとこと書かれていた。
『ルティアに会うな。もし、会うならばお前らを殺す』
その瞬間、血が冷めるような恐怖と頭が沸騰するような怒りを両方感じた。間違いない。この手紙は小辺境伯が我々に警告するために入れたのだ。
彼が温情をかけてやるうちに立ち去れと言うことだろう。
「ははははは」
思わず力のない笑いが漏れていた。それは決して愉快だったからの笑いではない。自分の無力さへのやるせなさから漏れたものだった。
何がなんでもルティに会いたい。しかし、そうすることでヴィンター様も危険に晒すことになる。
つまり、私は選択を迫られているのだ。
(ここで静かに立ち去るかこのままこの部屋から出なければ、ふたりの命は保証されるだろう。その代わりもしルティに接触を図ろうとすれば……)
ベッドで今だに眠っているヴィンター様を見つめながら、私はある決断をした。
3
お気に入りに追加
890
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
頭の上に現れた数字が平凡な俺で抜いた数って冗談ですよね?
いぶぷろふぇ
BL
ある日突然頭の上に謎の数字が見えるようになったごくごく普通の高校生、佐藤栄司。何やら規則性があるらしい数字だが、その意味は分からないまま。
ところが、数字が頭上にある事にも慣れたある日、クラス替えによって隣の席になった学年一のイケメン白田慶は数字に何やら心当たりがあるようで……?
頭上の数字を発端に、普通のはずの高校生がヤンデレ達の愛に巻き込まれていく!?
「白田君!? っていうか、和真も!? 慎吾まで!? ちょ、やめて! そんな目で見つめてこないで!」
美形ヤンデレ攻め×平凡受け
※この作品は以前ぷらいべったーに載せた作品を改題・改稿したものです
※物語は高校生から始まりますが、主人公が成人する後半まで性描写はありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる