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37.庭園に呼び出したものは……

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目が覚めた時、まだ周りは暗いままで横を見るとめずらしくレフが寝息を立てていた。

その逞しい腕に頭を預けて眠っていたらしいことに気付いてなんともいえない気持ちになる。

(どうして、こんなに胸が痛いのだろう……)

レフに抱かれていると、多くのことを忘れられる。けれどそれはあくまで欲求の解消をしているからではないかとどこかで最近感じてしまっていた。

『俺は殿下のものです……そして殿下も俺だけのものだ!!』

叫んだレフの声を思い出す、そこに愛があるのか僕には分からない。レフは僕のために最期までついてきてくれると約束してくれた、それだけで僕は嬉しかったはずだ。

誰からも愛されなかった僕ははじめて愛に触れた、そう思っていたのに、レオンと話してから何かが違う気がしてしまっていた。

そして、自分の体が拓かれて快感を得る度に思うのだ。僕は果たしてレフを愛しているのか、性欲を持て余してレフに犯されることを望んでしまっているのか。

そう考えた時、何故か涙が頬を伝うのが分かった。そしてはっきりと浴室に置いてきてしまった羊皮紙のことを思い出した。

「行かないと……」

何故かそう思った僕はベッドから立ち上がった。ついこの間まではレフにあれだけ抱かれたら立つことも困難だったのに今では立ち上がってもあの日のような痛みはない。

倦怠感はもちろんあるが、重い体を引き摺りながら庭園へと向かう。

『話がある、もし聞いてくれるならば今夜館の庭園まで来てほしい』

どこかで見たことがあるのに誰が書いた字か思い出せない、そんな不思議な筆跡だった。フラフラとした足取りで妙に明るい廊下を抜ける。

主を失った館は元々使用人がいなかったのか人の姿はどこにも見えない。

そうして、しばらく歩いて庭園へ抜ける回廊を見つける。そこから覗き見た庭園に人影があることが分かる。それが誰か近付いたが、その人物を僕は知らない。

「貴方は……誰だ??」

後ろを向いているその人物に声を掛ける。フードを目深にかぶっていて性別すらもわからないその人物はこちらを振り返った。その瞬間、真っ赤に光る双眸と目が合った。

「赤い目??」

この王国では赤い目の人間など存在しない。しかし、母上の葬儀の際に見た国王陛下の目もこんな赤い色をしていた気がする。

番を殺した、または失った竜族は狂気に陥る。その証が真っ赤な瞳である。

『暗黒の森』の『狂った竜王』も赤い瞳をしていると童話では言われている。そこから目の前の人物は間違いなく竜族で、しかも狂気におかされているはずだ。

そこまで考えた時に、真っ先に国王陛下が浮かんだ。

(でも、だとしたら、何故ここに??)

そう思ったが、フードから見える髪の色が銀色ではない。その髪の色は夜の闇にも似た漆黒だった。

「ルティアが探しているものだ」

その言葉に思わず瞳を見開く。僕が探しているものということはつまり……。

「『狂った竜王』??」

その言葉に彼は頷いた。

不思議と恐怖心は湧かなかった。むしろ何故かとてもよく知っているような気が彼からはしたのだ。間近で見て気付いたが彼はその顔に仮面のような白いものを被っているようで素顔を見ることはできない。

「何故、貴方がここに??」

「ルティアに会いに来た」

とても穏やかな低い男性らしい声だった。あまり考えていなかったが『狂った竜王』は大柄だった。多分僕が知っている中で一番長身であるレフと同じ位あるだろう。

「なぜ……」

「ルティアを今度こそ幸せにしたい。だからこれから起こることを話しに来た」

「これから起こること??」

首を傾げた僕に竜王はゆったりと告げた。

「『暗黒の森』でルティアは実の父、国王と対峙することになるだろう。国王を殺せばお前の『成人の儀』は終わり、その先に続く未来がある」

『狂った竜王』の言葉の意味が理解できなかった。何故『暗黒の森』で国王陛下を父上を殺さないといけないのか。

「父上を殺しても『成人の儀』は終わらない。父は……」

そこで気付いてしまった。あくまで父上は『狂った竜王』を『暗黒の森』で討伐するということしか条件にしていない。

(番を失い、狂った。つまりいまや父上も『狂った竜王』)

その事実に気付いた瞬間背筋が凍るような気がした。そして同時に吐き気がせり上がる。

「いやだ……」

あの日、母の愛を知った時から僕はもう父上の愛を欲しないと誓った。けれど、だからと言って殺したいとは思っていない。むしろ、僕とは違うところで幸せでいて欲しいと願っていた。

それなのに……。

「だめだ、父上を殺したくない!!」

そう気付いたら叫んでいる僕を『狂った竜王』は悲し気に見つめている。

「ああ、ルティアはそう答える。ならば運命を変える覚悟はあるか??」
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