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20.悪い夢とあたたかい体温と……
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夢を見ていた。
小さな頃の夢だ、ひとりぼっちで離宮の部屋から庭園を眺めている。その目には幸せそうに笑う3人家族がいる。いつも彼等を眺めながら胸の中がツンと痛くなるような感触と、自分にはないものを持っている弟をうらやむ気持ちで睨むように彼らを眺めていた。
そして、フッと一瞬、父親である国王陛下と目が合う瞬間があった。
あったのだ。
夢を見るまで僕は彼等と全く目が合わないと思っていた。けれど、確かにあの人と僕は目が合ったことがあった。その時のあの顔を何故僕は忘れていたのだろうか。
あの目は、まるで化け物でも見ているようなそんな眼差しだった。
(どうして、このことをずっと僕は忘れていたのだろう……)
分かっていたはずだ、そんな目で僕を見ている人が、例え僕に良く似ていても僕のことを愛してくれるはずなどないことを。
(それでも、僕は……)
急に意識が浮上する感覚と共に目を開けば僕は泣いていた。
昔から悪い夢を見がちで涙を流していること自体は珍しいことではない。けれど今回見た夢は酷く僕の心を波立たせていた。
父への淡い期待など、母の愛を知った時に捨てたと思っていた。いくら一方的に慕う気持つが募っても返ってくることがないそれをもう完全に振り切ったつもりでいた。
けれど、物心ついた頃から抱いていた憐憫は簡単には振り払えないらしい。心の中に昏い気持ちを抱きながらその背にあたたかい感覚がすることに気付いた。
(レフか……)
昨日の夜、どの段階で眠ってしまったのかは覚えていないが浴室での出来事に疲れて割とあっさり眠ってしまったようだった。
そして、この客室のベッドはキングサイズがひとっきりであることを考えれば間違いなく僕はレフに背中から抱きしめられて眠っていたことになる。
なんだか恥ずかしい気持ちだったが、まだ、レフは眠っているはずだから少し彼の寝顔を見てみたいという、悪戯心が芽生えてこっそり首だけ後ろに向けた。
そこには、いつも熱の篭った目でこちらを見てくるレフの意外に幼い寝顔があった。
(こう見ると少し可愛いかもしれない)
至近距離で見つめてみるが穏やかな寝息を立てている。目を開いている時は大半が、ギラギラした表情のためその穏やかな顔はとても新鮮で、少し近づいて見ようとした時、突然いままでゆうやかに抱き込まれていたレフの腕の力が強くなり、そのまま体を反転させられてレフの上に乗っている状態にされた。
(寝ぼけているのか??)
少し、非難したい気持ちもありまだ穏やかな寝顔であるはずのレフと目が合う。そう、いつもの熱の篭ったあの目と完全に目が合っていた。
「殿下、どうせ悪戯するなら唇にキスをしてください」
そう言って、抑え込んでいる僕の頭を抱えてそのまま強引に唇を奪われた。
「んっ……やっ……ん」
まだぼんやりしているというのに、舌を甘く吸われてなんどもリップ音を立てられる度に痺れる感覚が体を襲う。しばらくそれを堪能したレフが離した時には、夢で流したのとは違う生理的な涙がこぼれていた。
「可哀そうに涙がながれてしまいましたね」
全く反省していない声色で言われて思わず睨むと、いつものように太い指がその涙を掬い上げる。
「殿下を泣かせて良いのは俺だけです。夢であっても貴方を泣かせたものは俺が必ず壊してあげますから」
「……父上でもか??」
思わず夢を思い出して口にした言葉に、レフは驚くこともなく答えた。
「もちろん」
その答えに思わず笑ってしまった。さっきまでは思い出した悲しい記憶に寂しさを感じていたけれど今は少なくともレフが居る。
今だにレフを愛せているかは分からない。けれど、レフは僕のために沢山のことをしてくれる、それが今はとても嬉しい。
「レフ、約束してほしい。僕がもし……」
レフにあることを告げようとした時、今までの静寂が破られるようなけたたましい音が部屋に響いた。誰かが激しくノックしているのだ。
「いいところで邪魔するとは……確認してきます」
とても不機嫌な顔をしてレフは扉を開いた。
小さな頃の夢だ、ひとりぼっちで離宮の部屋から庭園を眺めている。その目には幸せそうに笑う3人家族がいる。いつも彼等を眺めながら胸の中がツンと痛くなるような感触と、自分にはないものを持っている弟をうらやむ気持ちで睨むように彼らを眺めていた。
そして、フッと一瞬、父親である国王陛下と目が合う瞬間があった。
あったのだ。
夢を見るまで僕は彼等と全く目が合わないと思っていた。けれど、確かにあの人と僕は目が合ったことがあった。その時のあの顔を何故僕は忘れていたのだろうか。
あの目は、まるで化け物でも見ているようなそんな眼差しだった。
(どうして、このことをずっと僕は忘れていたのだろう……)
分かっていたはずだ、そんな目で僕を見ている人が、例え僕に良く似ていても僕のことを愛してくれるはずなどないことを。
(それでも、僕は……)
急に意識が浮上する感覚と共に目を開けば僕は泣いていた。
昔から悪い夢を見がちで涙を流していること自体は珍しいことではない。けれど今回見た夢は酷く僕の心を波立たせていた。
父への淡い期待など、母の愛を知った時に捨てたと思っていた。いくら一方的に慕う気持つが募っても返ってくることがないそれをもう完全に振り切ったつもりでいた。
けれど、物心ついた頃から抱いていた憐憫は簡単には振り払えないらしい。心の中に昏い気持ちを抱きながらその背にあたたかい感覚がすることに気付いた。
(レフか……)
昨日の夜、どの段階で眠ってしまったのかは覚えていないが浴室での出来事に疲れて割とあっさり眠ってしまったようだった。
そして、この客室のベッドはキングサイズがひとっきりであることを考えれば間違いなく僕はレフに背中から抱きしめられて眠っていたことになる。
なんだか恥ずかしい気持ちだったが、まだ、レフは眠っているはずだから少し彼の寝顔を見てみたいという、悪戯心が芽生えてこっそり首だけ後ろに向けた。
そこには、いつも熱の篭った目でこちらを見てくるレフの意外に幼い寝顔があった。
(こう見ると少し可愛いかもしれない)
至近距離で見つめてみるが穏やかな寝息を立てている。目を開いている時は大半が、ギラギラした表情のためその穏やかな顔はとても新鮮で、少し近づいて見ようとした時、突然いままでゆうやかに抱き込まれていたレフの腕の力が強くなり、そのまま体を反転させられてレフの上に乗っている状態にされた。
(寝ぼけているのか??)
少し、非難したい気持ちもありまだ穏やかな寝顔であるはずのレフと目が合う。そう、いつもの熱の篭ったあの目と完全に目が合っていた。
「殿下、どうせ悪戯するなら唇にキスをしてください」
そう言って、抑え込んでいる僕の頭を抱えてそのまま強引に唇を奪われた。
「んっ……やっ……ん」
まだぼんやりしているというのに、舌を甘く吸われてなんどもリップ音を立てられる度に痺れる感覚が体を襲う。しばらくそれを堪能したレフが離した時には、夢で流したのとは違う生理的な涙がこぼれていた。
「可哀そうに涙がながれてしまいましたね」
全く反省していない声色で言われて思わず睨むと、いつものように太い指がその涙を掬い上げる。
「殿下を泣かせて良いのは俺だけです。夢であっても貴方を泣かせたものは俺が必ず壊してあげますから」
「……父上でもか??」
思わず夢を思い出して口にした言葉に、レフは驚くこともなく答えた。
「もちろん」
その答えに思わず笑ってしまった。さっきまでは思い出した悲しい記憶に寂しさを感じていたけれど今は少なくともレフが居る。
今だにレフを愛せているかは分からない。けれど、レフは僕のために沢山のことをしてくれる、それが今はとても嬉しい。
「レフ、約束してほしい。僕がもし……」
レフにあることを告げようとした時、今までの静寂が破られるようなけたたましい音が部屋に響いた。誰かが激しくノックしているのだ。
「いいところで邪魔するとは……確認してきます」
とても不機嫌な顔をしてレフは扉を開いた。
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