15 / 73
15.湯浴みに挑戦したはずが……
しおりを挟む
「……」
ホテルの中でレフに連れて行かれた部屋を見た僕は驚きのあまり何も言えなくなる。
その部屋は、僕が今までいた離宮の部屋よりずっと広く、そしてなぜかひどく懐かしいそんな部屋だった。
「ルティア殿下、この部屋は気に入りましたか」
僕の返事が分かっているだろうにわざとそう聞いてきたようなレフの表情に、それでも僕のためにここまでしてくれたことを考えたら嬉しくなる。
「……うん」
素直に答える。
張り詰めていた糸が途切れて安心したからか、自分が汗をたくさんかいてしまったことに気づいた。
「レフ、湯浴みがしたいのだが……」
「分かりました、俺が殿下の全てを……」
「一度ひとりで入ってみたい。だから風呂の場所だけ教えてほしい」
今まではいくら嫌われ王子でも従者が湯浴みを手伝っていたし、ひとりになることはなかった。
けれど、今ならひとりで湯浴みを試してみたいと思った。
明らかにその言葉にレフがシュンとした気がした。あまり悲しませたくはないし心配ばかりさせてしまっているので申し訳ない気もしたがどうしてもやってみたくて、それが我儘をだと分かっていたけれど言った。
「お願い」
「……分かりました。あなたが願うなら。ただ、外にいますので何が有れば必ず教えてください」
「わかった」
レフと広い部屋から出ると、部屋に来る時に通過した豪奢な扉の前まで僕を連れて行ってくれた。
ライオンのレリーフがあるそれが浴室とは知らなかった。
「知っていますか??俺の名前はライオンを意味するのです」
「ライオン……」
さり気なく言われた言葉に目を見開く。申し訳ないがレフはライオンよりイヌ科っぽい気がした。
昔、離宮の裏で使用人がこっそり育てていた黒い子犬がいた。
ワイマラナーという犬種らしいのだが、瞳の色もグレーでなんとなくレフに似ていたことを思い出す。
「レフはライオンより犬っぽい」
「えっ??」
驚いたように聞き返したレフをそのままに僕は浴室に入った。
入ってすぐは脱衣場でそこで服を脱いだ。そして奥の扉を開くとライオンの口から湯気のたつお湯がコンコンと溢れている。
(まずは体を洗うのだったな)
湯浴みの手順を思い出しながら準備されているタオルで体を擦る。
しかし、いつもなら立つはずの泡が立たない。
「あれ?泡は……」
「泡を立てるのには石鹸がいります」
「わっ!!レフ??」
いないと思った人物が背後にいたので思わず叫んでしまった。
「これをお使いください」
そう言ってニコニコと微笑みながら白い塊を手渡された。
「水に触れたらとけますので、タオルで包んで擦ってみてください」
そう言いながら背後からいきなり抱きしめるように僕の手の中のタオルはそのままに手を重ねる。
「……レフ……」
「さぁ、ゆっくり優しく」
耳元で囁かれると考えたくなくても閨が浮かんでしまう。
僕の手を勝手に動かしながらレフは石鹸を擦り泡を作る。清潔なはずの光景なのにやましい気持ちが湧いてしまう自分自身が恥ずかしい。
「レフ、恥ずかしいから……」
そう言って振り返り、その瞳と目が合ったことで後悔した。間違いなくそこには情欲に塗れた瞳をした男が獲物を見るようにこちらを見つめていたのだから……。
ホテルの中でレフに連れて行かれた部屋を見た僕は驚きのあまり何も言えなくなる。
その部屋は、僕が今までいた離宮の部屋よりずっと広く、そしてなぜかひどく懐かしいそんな部屋だった。
「ルティア殿下、この部屋は気に入りましたか」
僕の返事が分かっているだろうにわざとそう聞いてきたようなレフの表情に、それでも僕のためにここまでしてくれたことを考えたら嬉しくなる。
「……うん」
素直に答える。
張り詰めていた糸が途切れて安心したからか、自分が汗をたくさんかいてしまったことに気づいた。
「レフ、湯浴みがしたいのだが……」
「分かりました、俺が殿下の全てを……」
「一度ひとりで入ってみたい。だから風呂の場所だけ教えてほしい」
今まではいくら嫌われ王子でも従者が湯浴みを手伝っていたし、ひとりになることはなかった。
けれど、今ならひとりで湯浴みを試してみたいと思った。
明らかにその言葉にレフがシュンとした気がした。あまり悲しませたくはないし心配ばかりさせてしまっているので申し訳ない気もしたがどうしてもやってみたくて、それが我儘をだと分かっていたけれど言った。
「お願い」
「……分かりました。あなたが願うなら。ただ、外にいますので何が有れば必ず教えてください」
「わかった」
レフと広い部屋から出ると、部屋に来る時に通過した豪奢な扉の前まで僕を連れて行ってくれた。
ライオンのレリーフがあるそれが浴室とは知らなかった。
「知っていますか??俺の名前はライオンを意味するのです」
「ライオン……」
さり気なく言われた言葉に目を見開く。申し訳ないがレフはライオンよりイヌ科っぽい気がした。
昔、離宮の裏で使用人がこっそり育てていた黒い子犬がいた。
ワイマラナーという犬種らしいのだが、瞳の色もグレーでなんとなくレフに似ていたことを思い出す。
「レフはライオンより犬っぽい」
「えっ??」
驚いたように聞き返したレフをそのままに僕は浴室に入った。
入ってすぐは脱衣場でそこで服を脱いだ。そして奥の扉を開くとライオンの口から湯気のたつお湯がコンコンと溢れている。
(まずは体を洗うのだったな)
湯浴みの手順を思い出しながら準備されているタオルで体を擦る。
しかし、いつもなら立つはずの泡が立たない。
「あれ?泡は……」
「泡を立てるのには石鹸がいります」
「わっ!!レフ??」
いないと思った人物が背後にいたので思わず叫んでしまった。
「これをお使いください」
そう言ってニコニコと微笑みながら白い塊を手渡された。
「水に触れたらとけますので、タオルで包んで擦ってみてください」
そう言いながら背後からいきなり抱きしめるように僕の手の中のタオルはそのままに手を重ねる。
「……レフ……」
「さぁ、ゆっくり優しく」
耳元で囁かれると考えたくなくても閨が浮かんでしまう。
僕の手を勝手に動かしながらレフは石鹸を擦り泡を作る。清潔なはずの光景なのにやましい気持ちが湧いてしまう自分自身が恥ずかしい。
「レフ、恥ずかしいから……」
そう言って振り返り、その瞳と目が合ったことで後悔した。間違いなくそこには情欲に塗れた瞳をした男が獲物を見るようにこちらを見つめていたのだから……。
16
お気に入りに追加
890
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
頭の上に現れた数字が平凡な俺で抜いた数って冗談ですよね?
いぶぷろふぇ
BL
ある日突然頭の上に謎の数字が見えるようになったごくごく普通の高校生、佐藤栄司。何やら規則性があるらしい数字だが、その意味は分からないまま。
ところが、数字が頭上にある事にも慣れたある日、クラス替えによって隣の席になった学年一のイケメン白田慶は数字に何やら心当たりがあるようで……?
頭上の数字を発端に、普通のはずの高校生がヤンデレ達の愛に巻き込まれていく!?
「白田君!? っていうか、和真も!? 慎吾まで!? ちょ、やめて! そんな目で見つめてこないで!」
美形ヤンデレ攻め×平凡受け
※この作品は以前ぷらいべったーに載せた作品を改題・改稿したものです
※物語は高校生から始まりますが、主人公が成人する後半まで性描写はありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる