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最終章『妖精世界』

Act.43:部分再生

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「あの辺を試しに再生してみますか」

 再び妖精世界にやって来たわたしたち。しかし、今日はブラックリリーも居ないし、ララも居ない。その理由と言うのが、ブラックリリー……香菜が体調を崩したからである。
 ララからの連絡が来たのは朝。どうも熱を出してしまったらしくて、今日は行けないとの事だった。そこまで重い訳ではないけど、ララは看病のために香菜に付き添うみたい。
 香菜のお母さんも、心配して仕事を休もうとしたのだが香菜がそれを止めたみたい。香菜としてはお母さんにあまり負担をかけたくないんだなと何となく分かる。

 そんな訳で、今回この妖精世界に来ているのはわたしとラビのみ。
 まずはお試しということで、精霊の森の近くの何処かを再生しようかと思い、わたしたちは今精霊の森の出口……結界が守っている範囲ギリギリの場所にやって来ている。

「やっぱり魔物が居ますね」
「だね」

 そこから先に広がる荒廃した大地……そこには、やはり彷徨っている影が複数確認できる。魔物だろうけど、地球の魔物よりは小さいようにわたしには見える。
 まあ、地球にも小さい魔物っていうのは存在するけど、そこまで多くない。脅威度が低くても図体だけはでかい魔物が多いし、小さい魔物の方が珍しいというレベルだ。

 なんで妖精世界の魔物は小さいのか?
 それは分からないが、わたしたちは一つだけ仮説がある。これはわたしやラビではなく、ララが言った事なんだけどね。

 妖精世界はこの精霊の森を除き、他の場所は魔力が薄かったりなかったりしている場所があるだろう、と思ってる。魔力がない場所では、魔物は魔力を取り込む事が出来ない。
 魔物の生態とかについては、解明出来ていない。それもそのはずで、魔物は倒すとそのまま魔石を残して消えてしまうから研究しようにも研究が出来ないという厄介な感じなのだ。
 そして個体によっても攻撃方法だとか、移動方法だとか色々と変わっているためこれと言い切れない。

 話を戻すが、そんな生態不明である魔物という生命体については分かってない方が多い。しかし、妖精世界のこの荒廃した土地の蔓延っているのを見た感じでは、魔力がなくても動けるというのは分かる。

 最初は大きかったかもしれない。しかしこの世界は滅んでしまっており、恐らく生命はティターニアを含む精霊を除き、何も居ないだろう。魔物は何を食べるのかは分からないが、餌なるものがなければ生き物と同様に死んでいくのではないか?

 まあ、何が言いたいのかと言えば簡単で、餌がないから魔物は小さくなってしまってのではないか、と言う事だ。

 後は魔力が薄いからかも知れないというのもある。魔力についても分からない事が多く、結局これと言った原因というのは不明。だがしかし、魔物の世界に魔力があったならばどうだろうか?
 妖精世界の魔力が流れずとも、最初からその世界に魔力があって、その魔力で生きていたら……当然魔物は魔力のないこの世界では魔力を蓄えることが出来ない。

 まあ、謎は多いけど……小さい理由というのは環境の違いっていう線が濃厚なのは確かだろう。

「ん。そう言えばこの状態で外行っても大丈夫なのか分からない」

 ここで一つ思い出す。
 いや忘れちゃダメな事ではあるが、うっかりしていた。今までわたしたちが居たのはこの精霊の森の内側だ。精霊の森の中なら問題なく過ごせていたが、外はどうなのか……これについてはまだ調べてなかった。

 ティターニアの話からして、外は非常に魔力が薄いという事は分かったが、わたしたちは別に魔力で生きている訳ではない。確かに魔力が混ざってはいるけど、大事なのは空気である。

 まあでも、精霊の森の中で普通に過ごせているので空気はあるのかもしれない。精霊の森にだけあるという可能性も否定できないけど。

「私たち精霊は魔力がないとあれですが、あなたは地球人ですし問題なさそうですが……実際、ここは精霊の森ではありますが、この場所では普通に過ごせています。それに一応同じ世界ですしね」

 それはそうなんだけどね。
 さて、どうするか……思い切って出てみるか? でもなあ……ちょっと怖いというのもある。魔力装甲が守ってくれるとは思うけど……。

「ん……」

 だがしかし。
 ここで止まるのもあれなので、まずはちょこっとだけ結界の外に手を出してみる。数秒ほど伸ばしてみたが、特に何も感じない。同じように足も出してみるが、特に何もなし。

「……よし」

 ちょっと怖いというのもあるが、何かあったらすぐに結界内に引っ張ってもらえるように、ラビとティターニアと手を繋いだ状態で、徐々に外へ出てみる。

「っ」

 反射的に目を瞑ったりしてしまうが特に何もなかった。
 ただ強いて言うなら結界内よりも、何だか身体が重いようなそんな感じだ。しかし、自分を守ってくれている魔力装甲が削られているような感じはしない。

「大丈夫……かな?」
「そのようですね……それにしても、結構勇気がいると思うのですが」
「ん。怖かったのは事実」
「ふふ、司でも怖い事はあるんですね」
「それは勿論……」

 怖いものがない人なんてむしろ居るのかな? 居るのかもしれないけど、大体は一つか二つは持ってそうだが。

「ラビも大丈夫?」
「一応大丈夫ですね。ただあまり長居は出来ないかもしれませんけどね」
「ん」

 まあ、ラビは妖精だからね。
 精霊と似ていて、魔力がない場所は妖精にとってもそこまで良い場所とは言えないのだ。確か体内の魔力で、どんな場所でも行けるんだったっけ? 流石に火の中とかそういう場所は無理かもしれないが。

「早速再生してみますか……と言いたい所ですが、ここは結界の外ですから」
「ん。そうだね。……というかティターニアは大丈夫なの?」
「精霊たちにはきついでしょうけど、私はこれでも精霊王なので」
「そっか」

 精霊王だから……何回その言葉言ってるんだろうか。まあ、本人が大丈夫と言うなら大丈夫なんだろうけどね。

「来ましたね」
「ん」

 そう忘れていけないのが、ここは結界の外だという事だ。
 さて、魔力に惹かれる魔物たちが、魔力を多く持っているわたしたちが結界の外に出たらどうするか? 誰でも分かる通り、魔物はこちらに向かってくる訳だ。

「丁度良いですね」
「え?」

 応戦しようと思ったのだが、ティターニアが前に出てくる。その行動に、わたしとラビはきょとんとする。

「私の力を見てもらいましょう」

 いや、あなたの力は既に精霊の森の再生で見ているから、どれだけ強いかは察してるけども。……とは言え、やめるつもりはないみたいで、ティターニアが戦闘態勢に入ってしまった。
 仕方がないので、他の魔物が来ないか周りを警戒することにした。

「雷鳴よ鳴り響け。――アークサンダー」

 刹那。
 天空より一筋の光が大地に向けて落ちる。迸る雷光……光は物凄い轟音と共に地面に到達。そして辺り一面を眩い光が照らし、白く染め上げる。

 しばらくして、光も消え、眩しく瞑っていた目を開くと、さっきまでこちらに向かってきていたはずの魔物は見当たらず、その場所には魔石が複数落ちているだけだった。

「少しやりすぎましたかね?」
「……」

 うん。
 さっきの轟音と言うか雷を放ったのはティターニアなのは間違いないだろう。そしてその威力……魔物が小さいので何とも言えないのだが、決して弱くはない威力だろう。

「再生以外にも私は戦えるというのは分かってもらえたでしょうか」
「ん。……既に森を再生させている時点でとてつもないというのは分かってたけど」

 ちょっと呆れた感じにわたしは言う。
 そもそも、精霊を統べている精霊王が戦えないなんて誰が思うだろうか? 中には居るかも知れないけどね……ティターニアの姿はぶっちゃけ人間の一人の女の子にしか見えないし。

 まず見ない目の色の組み合わせでもあるし。

「取り敢えず、周囲に居た魔物は一掃したので、再生させてみますね」
「ん」

 もう何も言うまい。

 そんな訳でティターニアは精霊の森を再生させていた時のように、詠唱を始める。空と大地に大きな魔法陣が姿を表し、光を放つ。後は精霊の森を再生した時と同じように超常現象が起き、再生を果たすのだった。

 ……うん。やっぱりとんでもないね、流石は精霊王。
 彼女に協力したのは、正解だったかもしれない……でもまあ、それでも妖精世界の再生というのはとてつもなく長いだろう。わたしたちが生きているうちに終わるかは分からないが……協力すると決めたのはわたしなのでこのまま頑張ってみるつもりだ。

 ……ホワイトリリーやブルーサファイアにも協力してもらうべきだろうか? いや、彼女たちに手伝ってもらっても何も変わらなさそうだし、保留かなぁ?
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