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最終章『妖精世界』

Act.35:精霊王①

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「起きなさいって」

 声が聞こえ、徐々に意識が浮上してくる。目を開けた所に居たのは、黒い衣装を身に纏う魔法少女……ブラックリリーだった。

「ん……」
「はあ、やっと起きたわね」
「……ブラックリリー?」
「そうよ。何があったのかと聞きたい所だけど、あっちも起こさないとね」

 そう言って目を向けた先に居るのは、人型の姿で気を失っているラビと、人型ではないがすぐ近くで気を失っているララだった。
 あれ、わたしは何を……あ、そうだ。ラビが見つけた石碑を調べてる時に突然石碑が光って、そのまま気を失ったんだ。

 ブラックリリーとララが居ると言う事は、あの光は二人にまで影響を及ぼしたと言う事だろうか。というか、何で急に石碑が光ったんだって話だが。

「ラビ、起きて」

 ラビの肩を持って、軽く揺らしてみるも、目を覚ます気配はない。ブラックリリーの方も、ララを揺らしたりなんやかんやしているものの、起きる気配はないようだった。

「ん。そのうち起きるかな?」

 これより強くするのは、ラビがかわいそうなので取り合えず揺らして起こすのはやめる。再び立ち上がり、周りを見渡してみる。

「何処ここ……」

 大地を覆いつくす、真っ白な花に、所々に生えている立派な木。
 森……とは言えないが、花畑って言うのかな? まあ、白い花の方が圧倒的に数が多いし、何よりも地面にはその白い花しか生えてない。

「綺麗だけど……」

 綺麗なのは認める。
 でも、わたしたちはさっきまで森の中に居たはずで、こんな花畑に来た覚えはないし、こんな場所はなかったはず。
 自然が一部の範囲だけ残り、魔力とかも普通にあったあの森とは程遠い景色だ。木は生えているけど、さっきも言ったようにお世辞でも森とは言えないほどの数の木だしね。

 空を見上げると、雲一つない快晴。そして暖かな日差しがわたしたちを照らし、気持ちの良い風が吹き抜けていく。

「どうだった?」
「駄目ね。全然起きないわ」
「そっちも? ラビも起きないんだ」
「そうなのね……」
「……何処だろうここ」

 もう一度見回しても、見えるのは先ほどと変わらない一面真っ白な花に染まっている大地と、所々に生えている木だけ。

「私が知りたいわよ。と言うか、何かしたのかしら?」
「んー……」

 心当たりはある。むしろ、あれしか考えられない。
 あの大きな石碑をラビと調べていたのだが、その時に突然光りだしたのである。何がトリガーになったかは分からないが、ラビと手がぶつかった時に光ったような気がする。

「なるほど、その石碑とやらが怪しいわね」
「ん。でも良く分からない」
「そうねえ……二人は目を覚まさないし、周りを見ても花の地平線しか見えない。何なのかしらここ」

 石碑を触れた瞬間、別の世界に飛ばされたとか? なんてくだらない事を考える。でも、こんな場所地球ですらないし、妖精世界でもないだろうし……。

「ねえ、あそこ」
「ん?」

 そんな中、ブラックリリーがわたしの事を軽く突っついてくる。何か見つけたのかな? と思い、ブラックリリーが向いている方向にわたしも目を向ける。

「……建物?」
「建物と言うか何か鳥籠みたいな。でもあんなのさっきあったかしら」
「なかったと思う」
「そうよね」

 うん。確かに何て言うの? 鳥籠みたいな形をしているこう、お嬢様とかのお金持ちとかの家の庭にあるような休憩場所? みたいなあれに見える。

「行ってみる?」
「そうね、誰か居るかもしれないし」

 ぱっと見ここからでは見えないけど、もしかしたら誰か居るかもしれない。ただそれが人なのか魔物なのか、妖精なのかは分からないけど。念の為、何時でも戦えるようにはしておいた方が良いかな。

 ラビとララを置いていくのもあれなので、わたしは人型のラビを背中に乗せ、謎の建物に向かう。ブラックリリーはララを運んでいる。まあ、向こうは人型じゃないから軽そうだよね。
 いや、ラビが重いと言っている訳でない。むしろ、人間としては軽いくらいだと思う。魔法少女の力の補正が入っていたとしても、軽い気がするよ。

 それはさておき。
 気を失ったままのラビとララをブラックリリーと一緒に連れ、その謎の建築物の場所まででやってきた。しかし、確かにそこにはイスとテーブルは置いてあるが、誰も居ないしテーブルにも何も置かれてない。
 ただの移動損だったかな? 特に手掛かりのような物はない。ちょっと困った……確かにここは綺麗だけど、何時までも居る訳にもいかないし、どうにか外と言うか妖精世界に戻れないだろうか?

「ようこそ、別世界の方々」
「「!?」」

 ここから出るにはどうすれば良いか等、考えていると聞き慣れない、けれど、何処か神秘的な? 女性の声が響き、わたしたちは驚く。
 さっきまで、誰も居なかったイスに誰かが座っている事にも気が付く。

「いつの間に……」

 全く気配を感じなかった。何時、イスに座ったんだろうか? というか、何か半分透明になっていないか? なるほど、幽霊って事だろうか。

「失礼ですね、私は幽霊なんかじゃありませんよ。諸事情によってこのような姿になっているだけです」
「心読める?」

 それとも口に出していただろうか。

「いえ、口には出してませんよ」
「……心読んでるね」
「ふふ。取り合えず、お二人とも座ったらどうです?」

 そう言って丁度空いている二つのイスを指し、わたしたちに座るよう促す。一応、警戒しつつも敵意は感じないので、お言葉に甘えて座らせてもらう。

「失礼するわね」

 わたしが座るのを見ると、ブラックリリーも座る。そしてわたしたちは、謎の半透明の女性と対面する形となる。
 さて、目の前のこの女性は何者なのだろうか? 敵意とかは感じないが……でも、普通の人ではないのは確かだ。何より、彼女からあふれ出ているこの異様な魔力……。
 少しだけ警戒度を上げて女性を見る。

「そう警戒しないでください。あなた達に危害を加えるつもりはありませんよ……と言っても、初対面でしかも普通ではないような私に話しかけられたらそうなりますか」

 あ、自覚あるんだ。だって身体が半透明って言う時点で既に普通からはかけ離れているし、仕方がない。

「ん……あなたは何者?」
「そうですね、まずは自己紹介から始めましょうか。……私の名前と言っても、これと言った呼び方はないのですが、かつてはこう呼ばれていました――ティターニア、と」
「ティターニア……?」

 ティターニア。
 一般的には妖精女王とかそんな感じの意味や名前に使われるが……妖精って言うのはラビとかララの事だし、それに妖精世界には複数の国もあったと言ってた。
 妖精世界に住んでいたラビたちは妖精と呼ばれている訳だし、妖精の誰かが国王になれば妖精王とか、妖精女王って呼んでも可笑しくないよね。

 ……まあ、そもそも一般的と言ったのは地球での話なので妖精世界と言う別世界でそれが通用するかは分からない。なので、これはあくまで地球感覚でのわたしの偏見というか考えである。

「うーん、ティターニアだけでは伝わりにくいですか。あ、因みに私の事はティタでもニアでもお好きに呼んで大丈夫ですよ」
「ん。それでティターニアは何者?」
「釣れないですね。うーん……あ、こういえば伝わるでしょうか? ――精霊王」
「!!」

 つい最近聞いたばかりの言葉だ。
 ブラックリリーは何が何だか分からないと言う感じで、頭にはてなマークを浮かべているように見える。そっか、ブラックリリーは聞いてないもんね。

 ラビとわたしで地上を調査していた時の話だし。

「どうやら、あなたは察したようですね」
「……エステリア王国の初代国王と王妃が出会ったと言う精霊王?」
「エステリア王国……ふふ、懐かしいですね」
「えっと、どういう事? 話について行けないんだけれど」
「ん」

 何も分からないままじゃブラックリリーも嫌だろうし、ラビと話していた時の内容を簡単に伝える。少し驚いていたようだけど、納得と言った顔をする。

「なるほどね。精霊の森に精霊王……エステリア王国」
「そちらの方にも伝わったようで何よりです」
「でも、何で精霊王たるあなたが?」
「話すと少し長くなってしまうのですけど……」

 そう前置きし、ティターニアは何が起きたのかを話し始めるのだった。

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