上 下
98 / 137
最終章『妖精世界』

Act.12:ラビリア・ド・アルシーヴ・フェリーク③

しおりを挟む
「エステリア王国第一王女で、記録者スクレテールで、全権管理者アドミニストレータで、妖精で……何か凄いね」
「あはは……改めて見てみると、確かにこれはあれですね」

 休憩を終え、再び隣に座るラビと話し始める。
 何というか、肩書が多いなと思いつつ……ティアラを付けていたのは、王女だったからなんだね。というか、王女って事はわたしのこのラビという呼び方はまずいのでは?

「妖精世界はもうありませんし、誰も気にしませんよ。記録者スクレテールについても、その記録する世界がありませんし……今の私にあるのは妖精アルシーヴ書庫・フェリーク全権管理者アドミニストレータだけです」

 記録する対象がなくなってしまえば、確かに記録者スクレテールとして記録する事が出来ない。王女についても、その国があった世界自体がなくなってしまってる。
 そうなると、もう記録する事が出来ないのではないだろうか? ……いや、正確には滅んだという記録を残す事は出来るか。

「もう記録者スクレテールとしての活動はできない?」
「そうですね……対象となる世界が滅んでしまってますから。ですが今回、妖精世界が元に戻ればまた記録はできます」

 それもそうか。
 もとに戻せるかどうかは分からないが、戻す事が出来たのなら……確かに記録は続けられる。だけど、記録は続けられるとしても世界には誰も居ない訳だが……。

「例え何があっても記録する。それが記録者スクレテールの役割です」
「ん……」

 ラビのその強い意思を感じれる。
 これはもう彼女が決めた事だって言うのは分かったので、わたしが口出すつもりはない。仮にわたしが口出した所で、何も変わらないだろうしね。
 それならわたしは、ラビ自体をサポートできれば良いと思う。

「滅んだっていうのも記録したの?」
「はい。魔法実験の事、失敗して世界が三つ隣り合わせになった事等、起きた事は記録してますよ」
「まあ、そうだよね」

 記録者スクレテールとはそういう仕事なのだし。

「ん。大体は理解できた」
「そうですか?」
「ん。あ、そうだ。魔石って言う名前が広がったのは。それもやっぱり?」
「魔石はそうですね。こちらは魔力と同じで、私が魔石の事を話したので、それが原初の魔法少女を通して広がったのだと思います」

 魔法関係については、大体は原初の魔法少女から広まってるみたいだし、まあ予想通りではあった。それに、魔石については妖精世界にあった訳だから。

「魔石って、魔物から出るよね? なんで?」

 疑問に思うのは、魔石というのが魔物から落ちるという事。
 妖精世界に魔物がいて、その魔物が落とすならまだ分かるが、妖精世界には魔物は居ないみたいだし、奴らは別世界の生命体。何故そんな別世界の生命体が、妖精世界にあった魔石を落とすのだろうか。

 まあ、魔物については謎が多いしラビですら分かってないのが多いから聞いても意味がないと分かってるけど……。

「以前にも言った通り、魔物については謎が多いのです。何せ妖精世界にも地球にも存在しない生命体ですから、調べようがありません。なので、どうしてそんな魔物が妖精世界にあるはずの魔石を落とすのかは、分かってません」
「だよね。分かってた」

 でもやっぱり気になるよな、魔物という生命体。魔力を狙っているというのは分かってるが、魔物の根本的な所は分かってない事が殆どだ。宇宙のように……宇宙だってまだ1%すら解明されてないみたいだし。
 ただ、今、対魔物以外にも、魔力の使い道とかが考えられているようなので、もしかすると宇宙の理解に一歩進むかもしれないというのもある。
 魔石という物を車とか、飛行機とかに仮に使えるとなれば劇的に環境は変わるだろうし……と言っても、魔石の管理は魔法少女たちと同じで、魔法省に一任されているが。

 そして当然だが、魔法少女や魔物優先である。魔石は、魔法少女の魔力を回復させたり魔物相手に有効打を与えられるかもしれないとされてるので、優先順位は圧倒的にそっちの方が高くなる。

「ただ考えられるのは、前にも少し言ったかもしれないですが、魔物も妖精世界の魔力を取り込んだからかと思ってます」
「そう言えばそんな事を前に言ってた」
「これは仮説ですけどね。大半の魔力は地球に流れ込んで来てますが、少しはもしかしたら魔物の世界にも流れたのかもしれません」
「なるほど」

 それなら、妖精世界の魔力を取り込んだ魔物が何らかの変化を起こして魔石を落とすようになったと考えられる。

「魔物についてはいくら考えても分かりません」
「まあね」

 取り敢えず、一通り理解できたかなと思う。
 中々、複雑だったり細かったりとかしたが、大きな謎が少し解けたと思う。魔法少女の誕生や、原初の魔法少女。ラビの正体もそうだ。後はララもそうかな? ララは研究員だったみたいだし。

 一先ず、これで一旦全てを整理する事にしたのだった。



□□□□□□□□□□



「今何処で何をしてるのかなぁ」

 ぼんやりと、スクリーンを見ながらふとそんな事を呟く。

「日本に居そうな気がしたんだけど」

 まあ、あくまでそんな気がしただけだけど。
 今の私はかつての私ではない。魔法省の一人の技術者……と言っても、最近はこの地域での魔物が確認できてないので暇なのも確かだったりする。暇だからこそ、魔導砲の研究が進められるという利点もあるけど。

 魔導砲。
 魔石をエネルギーとして放つ大砲と言えば良いか。人類が魔物に対抗できるかもしれない一つの希望である。試作型のテストが以前、東京地域にて行われその有効性が認められた。
 魔法少女と比べれば些細な物になってしまうが、それでも今まで手も足も出せなかった私たちが、魔物に対してダメージを与えられたのだ。

 威力はまだ要研究だけど、それでも対抗手段が生まれるかもしれない。それだけでも、私たちとしては大きな一歩だ。依然と魔法少女たちに頼りきりではあるけど、いつかは私たちも共に戦えるようになるかもしれない。

「まあ、私は技術者だから前線には立てないかも知れないけど……」

 技術者というのは、何処の国でも貴重な存在だ。
 今や普通に走っている車や、空を飛ぶ飛行機や船……それらの便利な物があるのも技術者が居たからこそである。更なる発展を目指す事も出来るしね。

 そんな技術者が戦いの場に出るのは、失うリスクが高いだろうし、何より技術は財産だから。

「少しでも彼女たちの負担が減れば良いな」

 戦いには出られないだろうけど、技術で魔法少女たちを支える事は出来る。
 魔導砲の試作型も出来上がっているので、後はテストなのだが……色々とあってまだ運転できてないのが現状。つい最近、Cの魔物が出たのでその時に魔法少女と共に一度だけ試運転が出来たくらいだ。

 ここ最近、この地域の魔物は劇的に減少している。全く出現しない日も続いていたし……大晦日とか、以前のあの時の魔物の数は一体何だったのかという話だ。
 でもまあ、前はこの地域では0体というのも普通にあったので、その時に戻ったという事でもあるけど。大晦日に出現した脅威度Sの魔物二体が影響しているのだろうか。

 まあ、当然油断は出来ないので、引き続き警戒はしているけども。

 因みに魔導砲の効果はそれなりにあったようで、脅威度Cの魔物には結構な打撃を与えられた。と言っても、データが一個しかないので何とも言えないけど。

 同じ魔物でも特性が違ったり、耐性があったりとかある事が分かってるのでより多くの実験データが必要である。他の地域では減少傾向ではあるものの、普通に魔物が出現しているのでこの地域もまた後で出現し始める可能性は十分ある。

「備えあれば憂いなしってね」

 油断できない状況。
 時間がある今だからこそ、より良いものを作れるように頑張らねばならないだろう。

「ん? ……リュネール・エトワール、か」

 偶々開いていたデータベースにその名前があり、操作を止める。
 星月の魔法少女……隕石を降らせたり、熱線を放ったり、大爆発を起こしたりとてつもなく異常な強さを誇る野良の魔法少女。と言っても、聞いた情報でしか分かってないからあれではあるけど。

「あの子にそっくりだなー」

 一人の魔法少女を思い浮かべる。
 そう言えば彼女も、隕石振らせたりしてたな……他にも色々とやってた気がする。今も元気にやってるみたいだけど、何処かで暴れてないか心配。

 大丈夫だと思いたいけど。

「アリス居るー?」
「居ますよ」

 この地域の支部長の声が聞こえたので、私はそちらに向かうのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら

東山統星
ファンタジー
18歳から10歳へ、金髪から銀髪へ、おれから私へ、少年から幼女へ──。 世界征服を企み、ヨーロッパからアジアの裏社会に君臨するルーシ・スターリングという少年がいた。 やがて薬物の過剰摂取でルーシは死に至り、天使を名乗る露出狂女の手引きで異世界へ転移した。 そして、新たな世界に訪れたルーシは、なんと銀髪碧眼の幼女に生まれ変わっていたのだった。 これは、愛らしい幼女になってしまった最強の無法者が表・裏社会問わず気に食わない連中をぶちのめす物語である。 ※表紙は生成AIでつくりました ※他サイト様でも掲載しております

達也の女体化事件

愛莉
ファンタジー
21歳実家暮らしのf蘭大学生達也は、朝起きると、股間だけが女性化していて、、!子宮まで形成されていた!?

新しい自分(女体化しても生きていく)

雪城朝香
ファンタジー
明日から大学生となる節目に突如女性になってしまった少年の話です♪♪ 男では絶対にありえない痛みから始まり、最後には・・・。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

カジュアルセックスチェンジ

フロイライン
恋愛
一流企業に勤める吉岡智は、ふとした事からニューハーフとして生きることとなり、順風満帆だった人生が大幅に狂い出す。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

処理中です...