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最終章『妖精世界』
Act.07:魔法の瓶(マギア・フラスコ)
しおりを挟む「お待たせ」
「来たわね」
待ち合わせ場所にわたしがたどり着くと、既にブラックリリーが待機していた。約束した時間よりも、10分以上早い。
「早いね」
「そっちもね」
お互いを見て軽く笑う。
早いと言ったら、わたしだって、この時間にここに来た訳だし。お互いに、少し早く合流したようだ。別に前倒しになる事自体は問題ないけど。
「早速本題?」
「ええ。早い方が良いでしょ。そっちもこっちもね」
ブラックリリーの目的は既に聞いている。
なので、今回こうやって会っている訳はその目的を達成するために何をしているのか、何をする必要があるのか、そういった話をするためでもある。
「まず、私の目的についてね。前にも言ったと思うけれど……」
「妖精世界を戻したい」
「ええ。その通り。そしてそれを達成するための工程として魔力を集めていたのが、今までの経緯ね」
そう。ブラックリリーは割と突然に、自分の目的についてをわたしとラビに聞かせた。わたしたちに聞かせた理由は、協力をお願いしたいからだった。
妖精世界を戻す。そのためには魔力を妖精世界に戻す必要がある。戻すというか、妖精世界にも地球と同じように魔力が世界中に広がるようにしたいという事だ。
地球でも起きたように、魔力が継続的に生まれていくような環境にする必要がある。ただ妖精世界の魔力ってどう生まれていたのか、分からないんだよなぁ。
妖精書庫には書かれているはずだけど、全部読める訳もなく。そっちについてはラビとララに聞いた方が早いか。
「魔力を集めてるのは、妖精世界にその集めた魔力を放出させるため?」
「いいえ、違うわ」
「え?」
予想外の返答にわたしは驚く。てっきり、その集めた魔力で妖精世界を戻そうとしているのかと思っていたのだが、違うっぽい?
「それもあるけど、集めている本当の理由は別よ」
「?」
「魔力を集めているのは、妖精世界を戻すためではなく、妖精世界に行くためよ」
「妖精世界に……行くため?」
「まあ、戻すための工程だから一応、前者も当てはまると思うけど、本来は後者」
妖精世界に行くために魔力を集めていた。妖精世界を戻すためではなく、その場所へ行くための魔力……行くために世界中の魔力があっても足りないという事だろうか。
「目的は確かに妖精世界を戻すことだけど、その前に移動するために魔力を集めていたのよ」
「世界中の魔力を一度集めても足りないって言ってなかった?」
「それは目的。到着地点。妖精世界の復活なんて、世界中から一回集めても足りないでしょうし」
「なるほど……あたかも行き方は知ってかのように言ってるけど、あるの?」
「ええ」
やっぱり行き方を知っているのか。
それはブラックリリーが知ってるのか、それともララか……どっちも知ってるか。情報共有はしているはずだし。情報元はララな気はするけどね。
「世界移動の魔法はぶっちゃけある。だけど、それを使うには尋常ではない魔力を消費する」
ブラックリリーの言葉に続けてララが説明しながら、話に入ってくる。
「あるの?」
「エクスパンションならもしかしたら行けるかも知れないと前言ったと思うけれど、後から妖精書庫を調べたら見つかったわ。ララの言う通りかなりの規模の魔法よ」
肩に乗ってるラビに聞くと、そんな答えが返ってくる。
あーそう言えば、前、ラビについて聞いた時にそんな話をしていた気がする。あの時は曖昧だったが……。
「世界を複製する魔法を作っていたのだから、複製した後、その世界に行く方法も用意しているさ」
「確かに」
「話を戻すけど、魔法の存在はある。だけど、それを発動させるにはブラックリリーの魔力では到底不足している。だからこそ、集めていたんだ」
ブラックリリーの魔力は少なく、ララもそこまで多くはない。だからこそ魔力を集めていた……移動するその魔法を使うために。なるほど……と納得する。
「そしてこれが、魔力を一定の量蓄積できる道具さ」
ララが何処からともなく、目の前に出したのはわたしの身長の半分よりちょっと高いくらいの、大きなフラスコだった。あの理科の実験とかでよく使われる、あの容器。
ただ、真ん中辺りにゲージのようなものがくっついてる。まだニ割程度しかゲージは伸びてないようだった。
「これは……魔法の瓶ね」
「魔法の瓶?」
名前にもそのままフラスコって付いてるのか……。
「魔力を溜めておくことが出来る魔道具で、妖精世界の道具よ。地球でそれを見れるとは思わなかったわね」
「無駄に大きいサイズだけどね、これは」
良く分からないけど、サイズがあるっていうのは何となく理解できた。で、これは大きいサイズだって言う事も。一番大きいサイズかどうかは不明だが。
「集めた魔力は全てこの中に入れてある。魔石の魔力も、一度ブラックリリーに使ってから入れてた」
わたしはその中を覗いてみる。
きらきら光っている不思議な液体? が中に入っているのが分かる。そして近付くと、そこから感じる馴染みのあるもの……間違いなく、これは魔力だな。
「どれだけ必要かは分からないけど、とにかくこのゲージを満タンにしてから試そうと思ってたんだ。この集めて魔力を使ってさっき言った魔法を使うつもりだった」
「私も毎回、魔力が回復したら少しだけ、この中に入れてるのだけど、見ての通り全然ゲージが上がらないのよね」
魔石も使って、魔力を入れ続けているけど、どうやら全然ゲージが進まないらしい。そして今までの結果が、この二割ということになる。これも結構大変だな……。
「そんな訳で貴女にも頼みたいのよ」
「なるほど」
わたしの魔力量は異常だからね。
ほいほいと、結構強力な魔法を撃っている姿を魔法少女たちに見られているので、魔法省内でも魔力量が異常に多いというのは話になってるみたいだし。
いやまあ、自分でも思ってるけどね。
「ん。今やっても良い?」
「え? 勿論、こちらからお願いしたいくらいよ」
「了解」
協力するというのは決めていたので、別に拒否することはない。
それにこれは、ラビにも関わりがあることだしね……ラビの事は相棒と思ってるので、そんな相棒の故郷が、そのままっていうのは確かに嫌かもしれない。
魔法の瓶に手を触れ、自身の魔力を感じ取る。
どのくらい入れるべきか……わたしの魔力が異常とはいえ、それでも上限値はあるのだ。この前のクラゲもどきと戦った時みたいに、使えば魔力枯渇はする。
今日は姿を消すためにハイドを使ったくらいしかないので、満タンに近い状態になってるはず。というか、もう時間も経過してるので自然回復もしてると思う。
「……よし」
五割くらい入れてみるとしようか。
かなり多いかも知れないけど、半分もあればある程度普通に戦えるし。それに、魔石もあるから問題はないはず。
「魔力を注ぐ……」
魔力を、この容器に入れるようにイメージをする。体中を駆け巡っている魔力の進行方向を変え、そのまま流し込む。魔力譲渡と同じ感じだな。
ごっそり減った感覚に襲われ、無事魔力を出せたことが分かる。
「す、すご」
「ん?」
流し終わったような感じがしたので、目を開く。ララもブラックリリーも驚いた顔を見せていて、ラビに関しては呆れたような顔をしていた。
気になり、魔法の瓶の方に目を向けるとゲージが二割だったのが五割近く辺りまで伸びていた。中身も、さっきと比べて大分増えているみたいだ。
「一気に三割近く……なるほど、これは規格外だ」
「ええ?」
「私がやっても一割も増えないし、何なら0.5割も増えなかったのに……」
「今まで集めてた魔力がこんなあっさりと抜かれるとは……どのくらい注ぎ込んだんだい?」
「五割くらいかな」
「数ヶ月間の魔力集めは……何だったのか」
ララがどれくらい入れたのかを聞いてきたので、取り敢えず五割くらいをイメージして入れたので素直に五割と答える。
「……」
「彼女は異常よ。良い意味でも悪い意味でも、気にしたら負けね」
「ラビ」
「本当の事じゃないの……」
ラビの台詞にわたしは頬をふくらませる。
いやまあ、確かに異常なのは認めるけど……そんな異常、異常と言われると流石に傷つくぞ。
「これは流石に予想外……これならもう、満タンにできそうだね」
「そうね。でも満タンにした状態で使っても、発動できるかはわからないんでしょ?」
「まあね……足りなかったらどうしようかな」
どうやら、仮にこの容器が満タンになっても足りるかは分からないようだった。
「それならリュネール・エトワールの魔力譲渡も合わせれば良いんじゃないかしら」
「わたし?」
でもそうか……魔力譲渡で送り続けていれば、わたしの魔力がなくなるまでは使えるよね。それでも足りなかったら意味ないけど……とは言え、取り敢えず、まずはこの魔法の瓶を満タンにするほうが先かな。
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