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最終章『妖精世界』
Act.05:妖精世界と魔力①
しおりを挟む「ふう」
魔法省を後にし、一息つく。
ホワイトリリーとブルーサファイアとの会話は、まあまあ楽しかった。と言っても、何か二人共ブラックリリーに対して興味津々と言うか、何か対抗心を燃やしているような感じだった。
「妖精世界ね」
空を見ながらこの前のブラックリリーの事をまた思い返す。
妖精世界という世界があるのは、ラビからも聞いてる。既に教えてもらってるからね。魔法実験の失敗というか……一応失敗って事かな? その影響で世界自体はまだ残ってるけど、草木も生えることのない世界になってしまった。
そしてブラックリリーはそんな妖精世界を戻したいという意思によって行動をしていた。彼女の目的はララの故郷をせめて、戻してあげたいという純粋なもので、全然野望とか陰謀とかはなかった。
あったらあったで、ちょっと困ったかも知れないが、それでもブラックリリーに悪意がないというのは分かった。以前からないとは思ってたけど、あくまでそれはわたし視点での話。
ブラックリリーが嘘をついているという可能性も捨てきれないが、少なくともあの目と覚悟は本物だと思った。何なら気圧されたからね、その強い意志に。
でも、実際問題わたしが何もしないと言うだけじゃ意味がないよね。いつかは……魔法省に行く必要はあると思う。そうしないと、永遠に解決しないままだから。
多分、本当の事を言えば魔法省も大目に見るとは思う。何せ、茨城地域の支部長はあの茜だから。お咎めなしという訳には行かないだろうけど、酷い事にはならないと思いたい。
仮にブラックリリーが魔法省に全て話すのであれば……その時はわたしも一緒に行ってあげられたら良いなと思ってる。まあ、わたしも野良の魔法少女なので、わたしが何か言った所で変わらないかも知れないけど。
閑話休題。
ブラックリリーの目的は分かった。その本気度も。
ただここで疑問になるのが、妖精世界に行く方法があるのか? という所だ。あの時は聞きそびれたけど、魔力を集めたりしても行けなければ意味がない。
それとも、この世界から間接的に目的を達成できるのだろうか? いや流石にそれはないか。
今日の夜に会う約束があるし、その時に聞いてみるか。
「ラビはどう思う?」
「ブラックリリーとララの事よね」
「ん」
この場所なら人目もないのでラビが出てきても大丈夫かな。帽子の中に隠れていたラビが姿を表し、わたしの肩に座る。見回りとかする時に良く来る場所だからね、ここ。
「あの時の予想の二つ目が的中したわね」
「だね」
ブラックリリーの目的については、前にラビが幾つか予想を出していた。その時の一つが的中したという事になる。
そう、妖精世界の復活という物だ。
まあ、悪い事をしようと考えている訳ではなかった事については正直、安堵してる。彼女とは今回、共闘したりとか助けてもらったりとか、色々あったから。
「可能なの?」
「不可能、とは言えないわ。私たちの世界は前にも言ったと思うけど、魔法と魔力と共存していたわ。植物や生き物も魔力とともにあった。常に世界中に魔力が流れていたから、妖精世界は維持されていた」
「地球で言う空気がそっちでは魔力って事?」
「その通りよ。魔力があるからこそ、植物も生き物も私たちも暮らせていた。魔力がないことなんて考えられないくらいね」
地球で言う空気とかと同じような役割を担っていたのが魔力。だからこそ、妖精世界に住む人たちは魔力を持ち、そして魔法という力を巧みに操っていた。これによって文明が発達していった。
「そしてあの事件が起きたわ。反動で世界にあった魔力が外へと流れ出してしまった。世界が滅びた原因は、妖精世界にはなくてはならない物だった魔力が消えてしまったこと。あの時は言ってなかったわね」
「ん。実験に失敗して世界を呼び出して、反動で滅んだってだけだね」
「地球でも空気とかがなくなれば、大変な事になるでしょう?」
「ん」
地球上から空気が消えればどうなるか。
地球上で呼吸をして生きている人間を含む、全ての動植物は生きていけなくなるだろう。更に言えば、オゾン層も消え、有害な紫外線が直接地表へと降り注ぐ。
まあ、率直に言えば空気がなくなってしまえば地球は滅ぶ。それだけだ。
「だから魔力を戻せば、確かに元に戻せるかも知れない。どれだけ必要になるかは皆目見当もつかないけれどね」
「なるほど」
「ただ妖精世界については分かったけれど、どうやって行くつもりなのかしらね」
「それ、わたしも疑問に思ってる」
魔力が妖精世界の再生に重要だというのは分かった。
では、さっきも言ったけどどうやってその妖精世界へ行くのか? という所に戻る。こればっかりは、ブラックリリーとララに聞かないと分からない。
もしかすると、行く方法については考えてない可能性もある。でも、ブラックリリーは空間操作が出来るから、もしかしたらテレポートであっさり行けるのかも知れない。
でも、彼女は魔力量が少ないと言ってたし、戦っているところを実際見た感じでは、本当の事だと思ってる。あの魔力枯渇の状態が演技だったら凄いけど、そうは見えないし。
「まあ、どうせ夜会う予定なんだからその時に聞けば良いじゃない」
「ん」
そのつもりである。
「さ、家に戻りましょ」
「うん」
妖精世界……あまり想像がつかないけど、どんな世界だったんだろう? ふと、ラビを見る。見た目は兎のぬいぐるみだから、性別が分からないな、そう言えば。
喋り方とか、声からして女性っぽいけど……そもそも妖精に性別があるのかが分からないけど。ララは何か中性的な喋り方と声だから余計分からない。
まあ、今考える事じゃないか。
「妖精世界ってどんな場所だったの?」
「そうねえ……」
ビルから移動し、家に向かいながらわたしはラビに訪ねてみる。そう言えば、妖精世界についての説明は聞いたけど、どんな世界でどんな場所とかがあったのか、そういうのは聞いてなかったなと思い出す。
「違いはあるけど、生活自体は特に地球とあまり変わらないわ。お店があって、物を売る人が居て、物を買う人も居て……一応王様も居たわね」
「王様……」
「簡単に言えばファンタジーな世界ね。地球にはライトノベルと言うものがあるでしょ? あれに出てくるような感じね」
「なるほど。物凄く分かりやすい例えをありがとう」
わたしもそこまでたくさん読む訳ではないけど、ライトノベルを読んだ事は何度かある。ファンタジー系がかなり多いよね。人気のある物だとアニメにもなってるし。
そして必ず出てくるのが魔法とか剣。作者の趣味全開な魔法名とか詠唱も結構好きである。魔法なんて、夢のような物だと昔は思われてたけど、今だとこの世界にも存在している。
魔法少女という特殊な人限定だけど。
「幾つかの国もあるわ。一部の国同士は結構戦争というか争っていたけど」
「確かに良くあるファンタジーな世界……」
「ええ。それにしても地球のライトノベルは凄いわね。良くあれだけの発想が出てくるわ。妖精世界にも言えるようなのもあったし……むしろ、妖精世界のことを書いたのかと思えるようなのもあったし」
「ファンタジーが多いから」
勿論、普通に現実世界の恋愛とかラブコメのラノベもあるけど、やっぱりファンタジー系はかなり多いし、読む人も多い。だからまあ、今でも新作がどんどん出ているんだろうね。
「まあ、わたしはあまり外には出られなかったけれど」
「え?」
「あ、何でもないわよ。妖精世界がどんな場所なのか、言葉では説明しきれないわね。でも地球と同じで、国があったり海があったり森があったり、生き物が居たりしてたわよ」
「へえ」
ちょっと見てみたいかも知れない。
もし……妖精世界が元に戻ったら。その時は、ラビと一緒に見て回りたいなと思うのだった。
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