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最終章『妖精世界』
Act.02:魔法省茨城地域支部②
しおりを挟むざわざわ……。
わたしが魔法省の中に足を踏み入れると、周りがなんか騒がしくなる。一般人っぽい人は居ないけど、職員と思われる人はあっちこっちに居るみたいだ。職員が居るのは当たり前だけど。
「こ、こんにちは。ご用件をお伺い致します」
明らかになんか顔を引きつらせてる事務員であろう女性。いや、受付なんだからしっかりしようぜ。
「ん。リュネール・エトワールって言えば良いって聞いた」
「! 少々お待ち下さい!」
お、ちゃんと話は通ってるっぽい? 受付の女性は奥に向かっていった。恐らく通話というか通信するんだ思うが……通ってなかったとかじゃなくて良かった。
しかし、さっきから視線を感じる……周りを横目で見やると、案の定視線がわたしの方に向いているのが分かる。そんなに珍しいんだろうか? そもそも、わたしの事知ってるのかな。
いや、魔法省内でもリュネール・エトワールの話は良く出るってホワイトリリーやブルーサファイアが言ってた気がするので、知ってるのだろう。この様子だと、容姿とかも広がってるのかな?
改めて魔法省内を見ると、まあ何処にでもあるような会社の受付のような場所だなって思う。テーブルとか椅子も置いてあるし、観葉植物も置いてある。
「(結構視線向けられてるわね)」
「(ん。そんなに見て、何がしたいんだろう?)」
「(単純に好奇心とか、珍しいって感じじゃないかしら? あなたの事は魔法省内で噂になってるんでしょう?)」
「(ん。ホワイトリリーとかブルーサファイアはそう言ってた)」
「(結構目立つ容姿だから、一発で分かるわね)」
「(うん)」
周りに聞こえない程度の声で、帽子の中に隠れているラビをそんな事を話す。
二人の話だと、リュネール・エトワールっていう魔法少女については結構話題に上がっているそう。それは、単純に強いとかそういうのもあるが、その力の強さ故に不安に思う人、魔法省に所属しないのかなと疑問に思う人等々。
確かにこの力についてはわたしも、異常だと思っているから納得だが……魔法省に所属しないかっていうのに関しては、NGという事で。リアルの姿がああなっているとは言え、所属するのはちょっとね。
やっぱり、野良で気の赴くままに行動するのがわたしには合ってる。それに、リアルバレしても大丈夫なようにはなっているものの、まだ魔法少女たちの中に紛れ込むのはちょっと無理。
「お待たせしたわね」
「ん?」
そんな事を考えていると、聞き覚えのある女性の声が聞こえる。そちらに目を向ければ、この茨城地域の支部長である北条茜その人が立っていた。
支部長が直々に来るのか……でも周りを見た感じだと、そこまで驚いているような人は見当たらない。という事は、茜は割と頻繁に魔法省内を歩いているのかね?
何も知らなければ、見たことのない魔法少女に支部長が話をかけているという光景に驚くはず。
全体に伝わっていたのかも知れないな……まあそれは置いておき。
「別に大丈夫」
「そう言ってくれると助かるわ。それじゃ、案内するわね」
「ん」
そんな訳でわたしは、茜の後を追いかけるように歩き始める。
「あ、そうだ」
歩き出すかと思ったら、足を止める茜。そのまま受付の方に行って、さっき対応してくれた女性と何か話しているみたいだ。ここからでは良く聞き取れないが。
一分くらい? 経った所で茜は女性から首から下げるタイプのカードホルダー? みたいな物を受け取ってる。受け取った後、こちらに戻ってくる。
「はい、これ。一応付けておいてね」
さっき受け取っていたカードホルダーをわたしに渡してくる。ホルダーの中に入っているカードには、来客者と漢字で三文字書かれていた。あーなるほど。会社とかに外部から人がやってきた時のあれか。
素直にそれを受け取り、首からぶら下げる。魔法少女の衣装の上からこれをぶら下げてるって、結構シュールなのではないだろうか。まあ、それは良いか。
「それじゃあ、今度こそ行きましょ」
「ん」
茜の後に付いていき、エレベーター前にたどり着く。茜がボタンを押すと、下方向の矢印が光りだしエレベーターが動き出す音が聞こえてくる。
「ふふ。ここに来るのは初めてよね。まあ、そもそも普通では来ない場所だものね」
「ん。何かさっきから視線を感じる」
「それは仕方ないわよ。貴女、結構有名だから。後は野良の魔法少女と私が一緒に居るのも珍しいのかもね。一応、魔法省内には伝達したはずだけどその時に居なかった人も居る訳だし」
「そんなに?」
「ええ。一部、貴女の存在を危険視している人も居るわね」
「それは理解してる」
魔法省側から見れば、野良でしかも強力な魔法を使うわたしの存在は、目に余る存在だろうしね。とは言え、茜が言うには、そういった人も居るけど、実際の数は少ないっぽい。
それはつまり、大体の人が特に危険視なんてしてないという事だ。それはそれで、どうかと思うけど……。
「別に貴女は何もしてないし、むしろ助けてくれてるのが殆どだからね。そもそも、人手不足だっていうのは皆が承知の上よ。野良にも頼りたくなるって所ね……魔法省としてそれはどうなのかっていうのは置いておくとして」
だろうね。
現状、普通に見ても茨城支部は人手不足だ。特に魔法少女は30人しか居らず、Sクラスの魔法少女もたった一人しか居ないし、Aクラスの魔法少女も九人しか居ない。
明らかに対応できる数に限界がある。
でも、ここ最近はパタリと止んだように茨城地域には魔物が観測されてない。元旦の日も観測されてなかったけど、その時はその日だけだろうと思っていた。
だけど、その日から今日に至るまでの期間も魔物の出現がなかった。出現しないのは良い事なのではあるが、また何時爆発するかわからないっていうのも怖い。ただ、今の所嫌な予感とかは感じてないんだけどね。
降りてきたエレベーターに茜に続いて乗り込む。中は何処にでもあるような普通のエレベーターの内装である。ただ後ろに鏡が設置されている。
ふと、出入り口の隣に付いているボタンを見てみる。この建物は何階建てなのか、気になったからだけど……えっと、一番上が四階で、一番下が地下三階、合計で七階あるってところか。
と言うか、地下あったんだ。
「やっぱり魔法少女の状態で来たのね」
「ん。それで良いと、言った」
「まあそうなんだけどねー」
リアルの姿で来るのはちょっと今は無理だ。
今じゃなくても、これから先その姿で来ることはないだろうけど……ただホワイトリリーやブルーサファイアとは実際リアルの姿で会ってるので、彼女たちと何かする時はそれで行っても良いかも。
ただ、問題なのがわたしの容姿だ。
彼女たちと会った時は、黒髪黒目のハーフモードの状態だった訳で……それならハーフモードで会えば良いだろうって? それはそうなのだが、でもやっぱりこの道を選んだ手前、偽りの姿で会うのはどうかと思ってる。
今と前では状況も違ってるし。
都合よく、二人の記憶も銀髪碧眼であるって事に変わっているなら良いんだけど、真白……いや真白姉は男の司を覚えているようだったし、どうなんだろうかって感じだ。
あれ? そうなると、司と茜の関係性はどうなってるんだろうか。年齢が変わっているって事は、茜と同級生ではなくなったという事だ。うーん?
気にはなるけど、わたしが聞くのは何かおかしいだろうし、変に思われるのも嫌なので置いておくとする。
ピンポーン。
そんな事を考えていると、”4”と書かれた所が点灯しドアが開く。目的の場所は四階だったみたいだ。
「こっちよ」
「ん」
エレベーターから降り、そのまま後を付いていくと一つの部屋に案内される。ドアを開いて、わたしが先に入るように促す。一応関係としてはお客と店員みたいな感じなので、そうなるよね。
部屋に入ると、茜も入ってきて椅子を引いてくれる。何かこの扱いは慣れないな……というか、支部長が普通するものか? 一番偉い人でしょ。
茜の性格からして仕方がないのかも知れない。
そんな訳でわたしは、その引かれた椅子に座り、茜と対面するのだった。
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