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第四章『星月の選択』
Act.39:エピローグ①
しおりを挟む「あら、もう元気になった?」
私が魔法省内を歩いていると、茜さんに声をかけられます。
クラゲの魔物との戦いで私たちは疲弊していたので、魔法省にすぐに送られました。といっても、魔力枯渇が殆どの原因なのですけどね。
「茜さん。はい、魔力も回復しましたし身体も元気になりました」
元気いっぱいとまでは言えないですが、少なくとも普通に動けますし問題は無いです。ゆっくり休んだのも良かったのでしょう。
「それなら良かったわ」
そう言いながら茜さんは私の方に向かって近づいてきました。目の前まで来たところで、頭に手を乗せられそのまま撫でられます。
「茜さん?」
「無事で良かったわ、本当に……」
「茜さん……」
司さんもとい、リュネール・エトワールに撫でられた時は違いますが、それでもほんのり温かい気持ちになります。
「私たちが無事だったのはリュネール・エトワールのお陰です」
「そうね。また彼女に助けられてしまったわね」
リュネール・エトワール。
星月の魔法少女と呼ばれる、野良の魔法少女です。以前に私も彼女に助けられたことがあって、いつの間にか好きになっていた子でもあります。
実際リアルの姿でも会ってました。ただこれについては、茜さんにも内緒にしていますが。彼女もリアルの姿が知られるのは望んでいないでしょうし。
リアルでのリュネール・エトワールは、司さんという私と同じくらいの女の子でした。身長は私よりも少し高く、年齢も15歳と1歳上という近さでした。
髪の色や瞳の色は違っていて、最初印象が違いましたが、実際話してみると殆ど変わりません。優しいというところも変わってませんでした。
そんな彼女に私たちはまた助けられました。
本当に感謝してもしきれませんね……一度会ってお礼を直接言いたかったのですが、残念ながら当日はここに送られてしまったので会うことは叶いませんでした。
ただ、ホワイトパールと茜さんはリュネール・エトワールと話したと言ってましたね。ちょっとずるいです。
失礼しました。
ずるいのは確かですが、私も大分疲弊していたので仕方がありません。でも、今は回復しましたし、会いたいですね……。
CONNECTで連絡とるべきでしょうか。
でも、司さんも忙しいかも知れません。そう思うと中々連絡が取れないっていうのが、私の駄目なところですね。
大体魔物が出現した時とかは、良く会えたりします。勿論、会えない時もありますが。後は、彼女は定期的に見回りをしているらしいので、もしかすると偶然ぱったり会える場合もあるかもしれませんね。
でも、偶然にばかり頼るのはやっぱり駄目ですよね。
私は司さんが好きなのですから。蒼ちゃんも好意を持っていますし、こっちからアプローチをしないと先手を取られてしまいますよね。
でも最終的に決めるのは司さんです。
もしかしたら、司さんはどちらも選ばないかもしれません。その時はその時ですが、やっぱりいっそのこと当たって砕けろで、突っ込んだ方が良いのでしょうか。
……。
自分の胸に手を当てます。やっぱり、司さんの事を思い浮かべると、鼓動が早くなりますね。本当に好き、なのですね。
「何か悩み事かしら? ふーん、見た感じだとリュネール・エトワールの事ね」
「! やっぱり分かりますか……」
「ええ。伊達にあなたたちと顔を合わせている訳じゃないわよ。というか、分かりやすいわよ」
「そ、そうなのですか?」
「顔に出ているもの」
「うぅ……」
茜さんには知られてるとはいえ、実際こう言われると恥ずかしいですね。
「そんな雪菜に朗報よ。1月4日以降の何処かで彼女が来るわ」
「え?」
「今回もそうだけれど、あの子には何度も助けられているわ。だからこそ、魔法省茨城地域支部長としてお礼をしたいのよ。今回ばっかりはちゃんと言ってみたわ。そしたら若干渋々ではあるけれど、魔法省に来てくれるそうよ」
「!」
リュネール・エトワール……司さんが来る?
話によれば1月の4日以降に来てくれるという約束をしてくれたらしいです。司さんが約束を破るという事はしないはずですし、来てくれるのでしょう。
……。
「彼女と会ってどうするかは、あなた次第ね。私はあくまでお礼をするだけだからその後は、自由にしなさい」
「茜さん……」
どの姿で来るのでしょうか?
いえ、魔法少女の姿に決まってますよね。わざわざリアルの姿で来るとは考えられませんしね。
でも来てくれるのであれば……司さんと話をしたいです。それにさっきも言ったように、直接お礼も言いたいですし……いつ来るのでしょうか。
1月4日以降と言うことは、少なくとも1月5日が最速ですよね。もしかしたら4日に来るかも知れませんが……どっちにしろ、司さんと会えるのは嬉しいです。
魔法少女の姿で来るはずでしょうから、呼び方はリュネール・エトワールにしておかないとですね。間違えて司さんって呼んでしまったら大変ですし。
「まあ、頑張りなさい」
「ありがとうございます、茜さん」
「良いのよ。あなたたちは私の家族のようなものなんだから」
茜さんは、この茨城支部の支部長というこの地域では一番偉い地位の方ですが、所属している魔法少女たちにとても優しくしてくれます。地位なんて関係ないとも言っていましたね。それもあって、皆さんは支部長とは呼ばずに茜さんとかで呼ぶ方が多いです。
というのも、茜さん自体が支部長っていう堅苦しい呼び方はしないで良いと言っていたからなのですけどね。他の地域は分かりませんが、茜さんは多分少数な部類なのでしょう。
何はともあれ、茜さんが支部長で良かったと思います。
□□□□□□□□□□
「……」
ベッドの上で起き上がった状態で、窓の外をじっと見る。
クラゲもどきに謎の空間に連れて行かれ、そこで25人の茨城地域の魔法少女で魔物を相手していたけど、長期戦になり次第にこちらが追い詰められてしまったことを思い返す。
攻撃を食らって後方にふっ飛ばされたことも。思ったより、あれは結構痛かった。魔力装甲が守ってくれているから生身の身体の方は無事ではあるものの、それでもやっぱり攻撃を受ければ衝撃が襲ってくる。
「リュネール・エトワール……」
また、助けられてしまった。あの時、撫でられた事を思い返す。
今回ばかりは私たちでやるしか無いと思っていた不安の中、彼女は現れた。ちょっとだけ様子が変ではあったけど、それでもボロボロになった私の事を助けてくれた。
正確には回復魔法をかけてくれたんだけどね。
あんな姿を見せてしまって、咄嗟に謝ってしまったけどリュネール・エトワール……いや司は優しく宥めてくれた。そして私が無事であるという事を自分の事のように喜んでくれていた。
それが嬉しかったなー。
自分の頭に手を乗せれば、まだあの時のぬくもりが残っているような気さえした。
うん、私結構重症かもしれないな。こんなに司の事が好きだったなんてね……思えば、襲撃された時だって優しくしてくれたし、あの時も撫でられたな。
いつから好きになったなんて言うのはもう分かっているから良い。
同じ女の子とは言え、私は好きになってしまった。もっと話をしたいし、一緒に遊びたい。でも彼女は野良の魔法少女だから、普通では会えない。
CONNECTで連絡先交換しているのだから、それで連絡取れば良いと思うかも知れないけど司だって、何かをしているはず。忙しそうにしているかも知れない。それを考えると中々自分から連絡が出来ない。
だって迷惑はかけなくないし。
こういう所が駄目なんだなとは思ってる。
こっちから積極的にアプローチを仕掛けなければ、司は私のこの想いとかには気づいてくれないのも分かってる。いっそのこと、もう突撃しようかという思いもあったけど、結局は何も出来ないでいる。
それに、リュネール・エトワールこと司を好きな人は他にも居て、ホワイトリリーもとい白百合先輩というライバルも居る。結局、選ぶのは司だから私たちにできるのは交流を繰り返して、向こうにもこちらを好きになってもらうように頑張ることくらい。
でも、さっきも言った通り彼女は野良の魔法少女で普通に会うのは結構難しい。何せ、リュネール・エトワールの目撃されている地域は茨城県全体である。鹿行、県央、県北、県西、県南……全ての地域だから。
県西とか県北とかの地域の中に、更に町や市がある訳で……選択肢が多すぎて、真面目な話、会うには運が必要。
だから一番確実なのはCONNECTでの連絡。折角、連絡先があるんだから使うべきなんだろうけど……。
「はあ」
毎回、彼女のことを思う度に心臓がバクバクいってる。そこまで好きだというのはもう認めざるを得ない。まあ、既にこうやって自覚しているから認めるも何もないんだけどね。
「いっそのこと、魔法省に所属してくれれば良いのに」
なんてね。
彼女にだって事情はある。だから魔法省ではなく、野良で行動しているんだっていうのはもう分かってる。私自身ももう少し、頑張らないと。
そんな事を思う私に、茜さんからリュネール・エトワールが来るという知らせが届いた時、ドキッとしたのはまた別の話。
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