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第四章『星月の選択』

Act.31:反転世界の戦い①

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「これは……」

 ラビの感知を頼りに、その場所へ来てみるとそこには複数の魔法少女の姿が見えた。ただ、その光景は普通ではなく……そう魔法少女たちは何かに巻き付かれて拘束されている状態だった。

 いや、何かじゃないな。あれはクラゲの魔物の触手だろう。一部、まだ触手に捕まってない魔法少女も居るけど、あれも時間の問題だと思う。危ないギリギリなところだったか……早く助けないとな。

「あの触手……」
「ん?」
「あの触手、魔法少女の魔力を吸収しているわ。性格が悪いのかじわじわと言った感じにね」
「魔力を……?」
「ええ」

 もう少し良く見てみると、確かに何かを吸っているように見えた。ここからでは感じ取れないが、ラビが言っているのが正しければあのクラゲもどきは魔力を吸収しているって事か。

「ちっ」

 魔物のくせに、小癪な真似をする……魔物と今戦っているのは数名のみ。だがこのまま行けば、間違いなく魔法少女が負ける。何故魔力を吸収しているのかはわからない。されている魔法少女もこのままでは魔力がなくなり、変身状態を維持できなくなるだろう。

「危ない!」

 一人の魔法少女が飛ばされるのを見て、俺は咄嗟に猛スピードで向かう。しかし、間に合わず、その魔法少女は木にぶつかりそのまま後方へ何本かの木を巻き込み飛んでいく。

「大丈夫?」
「ぐぅ……え? リュネール・エトワール……?」

 ん? 俺はその声に聞き覚えがあり、目を向けるとそこに居たのはブルーサファイアだった。良かった! 無事だったか。いや、結構傷ついてるし、相当痛いはず……無事ではないよな。

「ブルーサファイア?」
「来てくれたんですね……すみません、こんな有様です」

 自分のぼろぼろになった姿を見て、彼女はそう言ってくる。何言ってんだよ、お前が謝る必要はないだろ。命あっての物種だ。生きていて良かったよ。

「!」
「良かった。ブルーサファイアが謝ることなんて何処にもない」

 ブルーサファイアの頭を優しく撫でながら、俺はそう言う。そうだ、ブルーサファイアが悪い事なんて何もない。全てはクラゲもどきが悪いんだからな。

「身体は大丈夫そうだけど、念の為。――ヒール」

 魔力装甲があるからそんな簡単に怪我はしないだろうけど、念の為だ。
 
「ありがとうございます……」
「ん。気にしないで」

 もう少し早く来れれば良かったのだが、まさかクラゲもどきが反転世界に行く術を持っているとは思わなかった。それ以外にも、見えない壁……多分空間関係の魔法だろうと思うが、それも使ってたしな。

「状況は……ん。何となく分かる」
「はい、恐らく想像通りです。結構ピンチですね……。触手に捕まった人を助けようとしてもクラゲの魔物が容赦なく攻撃してきますし、助けられてないのが現状です。何とかホワイトリリーやAクラスの方が相手してくれてますが」

 クラゲの魔物は、その無駄に多く持っている触手を満遍なく使ってる。しかも、捕まえた魔法少女から魔力を奪っている……何とか今はホワイトリリーが前に立って戦っているそうだが、何処まで持つかわからない。
 彼女まで捕まってしまえば、Aクラスの魔法少女も捕まって全滅だろう。ただ、殺すとかそういうのはせず魔力だけを奪ってるようだ。しかも、ラビの話によればじわじわと。

「分かった。ここで休んでて」
「そうします……結構消耗してて辛いのが本音です。……またあなたに助けられてしまいましたね」
「気にしないで」
「ありがとうございます……」

 弱々しそうにするブルーサファイアを見て、俺ははっとなる。
 無事で居てくれて心から良かったと思っている……ホワイトリリーも戦っているとは言え無事で居るという事にも安心できた。俺は彼女たちの負担が減れば良いなと思って色々とやっていた。

 だけど、それは今になって変わって来ているのが分かる。
 負担を減らすではなく……守るため。そう、いつからこう思い始めたのか……何となく分かってる。彼女たちと交流していく内に、そうなっていたのだ。

 良く考えてみれば、男の時よりもリュネール・エトワールとしての守るべき存在が増えてしまった。むしろ、男の時に守るものなんてあったか? ニートをしていたのだ俺は。

 リュネール・エトワールとなってから人との関わりも増えている……主に魔法少女関係ではあるが、増えているのは事実。そして元の俺はそれと比べてどうだった?

 宝くじを当ててから仕事を辞め、ニート暮らしをしていた。俺はずっとその暮らしで良いと思っていたはずだ。でも今は……魔法少女リュネール・エトワールとなってからはどうだった?

「あ、そっか」

 ここに来てようやく俺は自分自身を自覚する。
 リュネール・エトワールとして活動していく内に、わたしは確かにこう思っていたんだ。この関係は壊れるのは嫌だ、と。だけど、本来の姿は28歳にもなる男である俺。

 そもそも、魔法省に行かないというのもその姿がばれるのが嫌だったから。もし、バレてしまえば周りからどう言われてしまうのか……男が魔法少女。今までの関係もそれで全てが壊れてしまうのではないか?

 あーあ。
 なーんだ……確かにこれは俺が望んだものだろう。今の関係を壊したくない……そう思うのは元が俺だから。それなら元すら変われればどうだ? リアルでも魔法少女としても関係を壊さずにやっていけるだろう。

 バレるのが怖い、周りから冷たい目で見られるのが嫌、関係を壊したくない等全ての願いが叶う。それが今のこの姿だ。

「それじゃ、行ってくる」
「はい。気を付けて下さい……野良である貴女に頼るしかないのは何とも情けない話しですが」
「だから、気にしないで」
「はい」

 少しブルーサファイアを見た後、俺はクラゲもどきの魔物が居るところへ向かった。






「きゃ!?」
「ブラックパール! 大丈夫ですか?」
「何とか!」

 クラゲの攻撃にを受け、飛ばされたブラックパールを見て私は声を上げます。
 既に何人もの魔法少女たちが、あの触手に捕まってしまっています。何とか助け出したいのですが、しようとするとクラゲもどきは容赦なくそれを邪魔してきます。

 そんな戦いが続いて気付けば、既に戦える魔法少女は私とブラックパール、それからAクラスの魔法少女数名となってしまいました。厄介なのが、あのクラゲもどきは攻撃を当てたとしても何かで阻んでいるのです。

 バリアみたいなものだとは思いますが、私の攻撃を何回放ってもその、バリアらしきものに防がれてしまうんですよね。突破口も見当たりませんし、こちらは魔力も大分使ってしまってます。

「リリーショット!!」

 白百合の花弁を飛ばしますが、やっぱり何度やっても同じで何かに阻まれてしまいます。せめて、攻撃が届けば良いのですが……あれが何なのかを分からないと通らないでしょうね。

「エメラルド・レイ!」

 近くに居たAクラスの魔法少女、エメラルドグリーンもまた攻撃魔法を放ってくれてますが、結局あの謎の壁に阻まれてしまいます。

「全然駄目! 何なの、あの壁……」
「バリアみたいなものだと思うけど……」

 バリアのようなものなのは間違いないんですけど、それにしても硬すぎませんか? これが脅威度Sの魔物なのでしょうか……Sクラスに及ばないとは言え、Aクラスの魔法少女たちの攻撃をあんなに食らっているのに……。

「! 何か来ます!」

 そんな事を考えていると、エネルギーのようなものがクラゲもどきへ集まっているのが見えます。

「退避……って、間に合わない!? 皆さん、出来る限り強力なバリアを!」

 一度退避しようと思いましたが、あっという間に何かのチャージが終わったようで、そんな暇すら与えてもらえず、無慈悲にクラゲもどきのレーザー? のような攻撃が放たれてしまいました。

 防ぎ切れるかは分かりません。それでも、使わないよりはマシなはずです……この場にいる全員が自分の使えるバリア系の魔法を発動させます。

 そして来るであろう衝撃に備えます。

「っ」

 正直、怖いです。
 バリアが破られて、この身に攻撃を受けたらどうなるでしょうか。魔力装甲があるとは言え、ただでは済まないでしょう。そして何より、他に皆がそんな風になるのも怖いです。

 魔力装甲に攻撃を受けたらその威力にもよりますが、衝撃のようなものが来ます。それが割と痛かったりするんですよね。ただ痛いだけなら良いですが、今回は脅威度Sの強力な攻撃……。

 いえ……そんな弱気になってはいけません。弱気になっては魔法も弱くなってしまう気がします。いかなる時も諦めない……絶対防いでみせます。



 しかし、そんな事を思っているものの大分時間が経過しているはずなのに未だに衝撃が来ません。私はその違和感に、閉じていた目を開けました。

「え?」

 そこに居たのは……私たちの代わりに攻撃を防いでくれている、見覚えのある魔法少女。

「リュネール・エトワール……?」

 そして私の初恋の相手でもある、そんな彼女が居たのでした。


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