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第二章『魔法少女を襲撃する者』
Act.01:不穏な噂①
しおりを挟む「大分、気温が下がってきたわね」
「だな。そろそろ本格的に冬に入るしな」
現在は11月。本格的に冬が始まる月だ。外に出ればもう、一瞬で分かるほど気温が低くなっていた。
年末というものも近付いてくるこの季節。
相変わらず、魔物はあっちこっちで出現しては世間を騒がせている。ただ幸いなのが、増加傾向だった魔物の数が停滞状態になった事だろう。
このまま増えていくのかと思いきや、停滞状態となった。地域によっては少し数が減ったと言う所もあるらしい。
「魔物も微妙に落ち着いてるよな……」
「そうねえ……9月が異常だったのよ」
俺が魔法少女となってから約二ヶ月。リュネール・エトワールとしても、かなり慣れてきたと思ってる。
ハーフモードも慣れた物で、普通に出かけるくらいは出来る。ただ無口設定で有るため、人とはあまり会話してない。する相手も居ないしな……おいそこ、ボッチじゃないぞ。
「魔物にも冬眠があったりしてな」
「冬眠ね……一部の魔物はそうかも知れないわね」
「え、そうなのか?」
「魔物って、姿形は動物に近いから、それに似た習性があっても可笑しくはないわ」
「ほー……」
そう言えば最近、ホワイトリリーと出会う事が増えた。出会う事自体はもう慣れたから良いのだが、時々彼女から熱い視線を感じる事があるんだよな……。
何か顔が赤い時もあって、調子が悪いのかね? 魔法少女とは言え、変身しなければ普通の少女なのだ。そっちの身体で不調が出てしまえば、変身後にも影響が出してしまうだろうし、無理しないで欲しいな。
「そう言えばさ、最近魔法少女が襲われるっていう事件が結構あるみたいなんだが、何か分かるか?」
「魔法少女を襲う? 力の差があるのに?」
「詳しくは分からん。最近、ホワイトリリーから聞いた事なんだけどな」
小耳に挟んだだけなのだが、最近魔法少女が襲撃されるという事件が何件か立て続けに起きているみたいなのだ。
変身前なら分かるが、変身後の姿の少女を襲うというのはちょっと考えられない。魔力という装甲があるのに、無謀すぎる気がする。
「何か一般人に成りすまして、近付いてきた魔法少女を刺すそうだ」
「刺されるって……」
「何か良く分からないが、黒い短剣のようなものでこう、サクッと。で、刺された魔法少女はその場で力なく倒れるんだってよ。ただ命に別条はないみたい」
実際刺された魔法少女も、次の日には回復していて普通に活動できているみたいなのだ。
「そんな倒れた魔法少女に犯人は特に何もせず、そのままその場から消えるみたい」
「なにそれ」
「さあ? でもホワイトリリーが言ってたから実際に起きてるみたいなんだよな」
「目的が分からないわね」
「本当にな」
黒い短剣という物が謎すぎる。
刺されると力を失って倒れる? 何か特殊な力がその短剣にはあるという事くらいしか予想できないな。
「でも何かしらね。その黒い短剣……嫌な予感がするわ」
「嫌な予感は当たりやすいんだよなあ……俺も見回りをちょっと強化するか」
「それが良いわね。でも、良いの? 魔法少女たちと会う確率が今まで以上に上がるわよ」
「そこは承知の上だ」
魔物ではない、魔法少女を襲う存在。何が目的なんだか知らないが……女の子たちを傷つけて良い理由なんて無いしな。
幸い、命に別条はないとは言え、力を失って倒れてしまうというのは凄い気になる。俺が刺された場合も同じ事が起きる可能性もあるしな。
少し気を引き締めるとするか。
「と言っても、今すぐ何が出来るというわけじゃないがな」
俺は魔法省には所属してないし、実際のところは不明。かと言って、ホワイトリリーが嘘付いてるようにも見えないから、起きたという事にしておく。
「実際その場を目撃しないと、何も分からないしね」
ラビの言葉に同意する。
しかし……やはりその黒い短剣は危険な臭いがプンプンするぞ。そしてそれを使ってた一般人に装ってた男もな。
「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」
『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』
ふわっと白い光に包まれ、意識は俺からわたしへと変わる。あくまで、表と言うか建前上だけど。
『SYSTEM CALL "CHANGE" SUCCESS!!――GO!』
「いきなり変身なんかしてどうしたのよ」
「ん。これから少し回る」
「またいきなりねー、良いわ、行きましょ」
そう言ってラビは俺の肩に乗ってくる。この家に魔法少女が住んでると思われるのも面倒なので、姿を消してから窓から飛び出す。
その後はすぐに解除する。何て言えば良いか、こうサァっと消えてスゥっと出現する感じ。
実はこの姿を消す魔法、消してる間は魔力を消費するんだよな。あまり長時間は使ってられないのだ。
なので、使い所は結構少なかったりする。まあ、咄嗟に姿を消せるから便利と言えば便利。魔力が無いと当然発動しないけどな。
□□□□□□□□□□
「確かここだったかな」
「何が?」
「襲撃があった場所」
魔法少女が襲われたという場所。この一か所しか聞いてないが、他の場所もあるのかもしれない。
人気がある場所から少し離れた川原。この近くで魔物が発生し、数名の魔法少女が駆け付けたが、一人が件の男を発見。
一人の魔法少女が逃げ遅れたのだと思い、近づいたところで刺されたと言う事だ。その後、男は逃走、魔法少女が追いかけるが見失う。
「魔法少女の速さを撒けるとは思えないわよね」
魔法少女は超人並みに強化された身体能力がある。勿論、それは走る速さも含まれるはずだ。それを撒けるとは、確かに思えない。
「転移、とか?」
「転移魔法……確かにそれなら見逃すのは納得だけど、でもそれだと男は魔法が使えるって事になるわよ」
「確かに」
俺が実例ではあるが、その男は別に変身とかしてないようだ。なのに魔法が使える……と言うのは確かにちょっと考えにくいな。
「でも、魔法が使える存在がバックに居る可能性もあるわね。無いと思いたいけど」
「魔法少女が、敵?」
「分からないわよ。でもその可能性もあるって事」
男が魔法を使うのがおかしいと思うなら、その男の後ろに魔法少女が居たらどうか。予め計画を立てて、その見失った場所に来たら魔法少女が転移させる。
何度も言うが、魔法少女の力は強力だ。
そして魔法省に所属する義務がない。所属しないなら基本は普通の日常に戻るが、中には悪意に使う魔法少女もいる、と言うか過去に少ないながら実例がある。
「ラビなら魔法少女の場所特定、出来ない?」
「無理ね。私の場合は自分から一定の範囲内に居る魔物や魔法少女が分かるってだけで、実際見ないとそれがどの魔法少女かまでは分からないわ。それに魔法少女の場合は変身して無いと感知できないし。まあ、近付けば何となくは分かるけどね」
「そっか」
ラビレーダー(勝手に命名)では、一定範囲内の魔法少女がどの場所に居るかという事は分かるが、その魔法少女が誰なのかまでは分からないらしい。そして変身もしてないと感知も出来ない。
魔物は常に魔力や瘴気を放出してるから感知しやすいそうだ。
この地域には魔法少女が少なくとも30人は居る。しかしこの30と言う人数は魔法省に所属している魔法少女の人数となる。
野良などを含めばもっと居るはずだ。そして今はあちこちで魔法少女は活動してるため、ラビレーダーでバックに居る魔法少女を感知するのはちょっと厳しいだろう。
……それに、まだ後ろに魔法少女が居るという事が確定してる訳じゃないしな。
「そんな私からお知らせよ。こっちに近づいてくる魔法少女が居るわよ」
「え?」
「もうすぐ視認できる範囲になるわね。どうする?」
「ん。逃げる……」
「あ、リュネール・エトワール!」
「……」
時すでに遅し。
声のした方を向けば、そこには魔法少女ホワイトリリーが笑顔でこちらに近付いて来ていたのだった。
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