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第四章 女装とお泊り

おかしな友達

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「おっさん。じゃあキッチンから掃除を始めるね」
「ああ、頼む……」

 せっかくセーラー服に着替えてもらったのに、なぜか家の掃除や片づけを頼んでしまった。
 航太自身も、ノリで着替えたは良いが。
 中身は14歳の男子だから、女の真似など出来ない。
 恥ずかしさから、その場で固まっていたので、俺が提案したのだ。

「その格好のまま、ちょっと掃除でもしてくれないか?」と。

 頬を赤くして、黙々とキッチンを綺麗に磨く航太。
 
「んしょっと……」

 洗ったボウルを上の戸棚に直そうとした、その時だった。
 身長が低いため、背伸びをしている……。
 
 こんな時、俺が彼氏だったら代わってあげるか?
 それとも彼の腰を両手で掴み、持ち上げるか。

「もうちょい……」

 背伸びをしたので自ずと、セーラー服が上にあがる。
 小麦色の肌が垣間見えるかと思ったが、ちゃんと中に下着を着ている。
 白いインナー。

 それが邪魔で、彼の素肌は見えないのだが。
 このシチュエーション……なんだかドキッとしてしまう。

 航太はまだ中学生。
 そんな幼い彼が一生懸命、俺のために家事を頑張っている。

「イケる」

 つい、本音を漏らしてしまう。
 確信したのだ。
 担当編集の高砂さんから提案された、ロリもの。
 
 航太にセーラー服を着せたことで、ようやくモデルが定まってきた。
 要は彼を、女の子に変えてしまえばいい。
 あくまでも作品のなかで。

  ※

 その後も航太は家中を掃除したり、片づけてくれた。
 俺は黙って、彼の後ろ姿を目で追う。
 たまに「ここだ」と思ったところは、航太にお願いして念入りに何度も掃除してもらう。

 布巾でちゃぶ台を拭いている彼を見て、使えると確信した。
 なぜなら、その後ろ姿がたまらないと思ったから。
 スカートの丈は長いが、中腰でこちらに尻を突き出している。
 見えるか見えないか……ぐらいのチラリズム。
 もちろん彼は男だから、女物の下着などは着ていない。
 
 デニムのショートパンツが少し見えるぐらい。
 しかし、これは作品に使えそうだ。

 ある日、うちの隣りに引っ越してきた、シングルマザーとその子供。
 綾さんをお父さんにして、航太を娘に変えてみよう。
 そして友人の少ない女子中学生が、主人公と仲良くなり……。
 いやいや、エロマンガなので。そこまで詳細に描く必要はないか。

 だが、航太のおかげで、どうにか形になりそうだ。
 ひとりで頷いていると、不審に思った航太が眉間に皺を寄せる。

「おっさん……なんかニヤついて、キモい」
「わ、悪い悪い。その辺でもう良いよ、おつかれさま」
「こんなんで本当に良かったの? マンガにできそう?」

 セーラー服姿のまま、首を傾げてみせる航太。
 上目遣いで距離を詰められるから、なんか変な気持ちになりそう。

「ああ、参考になったよ。現役の女子中学生になんて頼めないからな」
「そうだろ? 困ってるなら、オレに頼めばいいんだよ。友達だし」
「と、友達……か」

 普通、男友達にこんなことを頼むか?

  ※

 そろそろ、セーラー服を脱いだらどうだ? と彼に言おうとした瞬間だった。
 玄関からチャイムの音が鳴り響く。

 その音を聞いて、俺と航太は驚き、身体をビクッと震わせる。

『あの~ すみませぇ~ん、黒崎さん?』

 甲高い女の声……航太の母親、綾さんだ。
 これはまずいぞ。
 今、玄関の鍵は、開けたままだ。
 綾さんがドアノブを回せば、女装した航太の姿を目にしてしまう。

 そんなところを見られたら、警察に連れられていきそうだ……。
 どうしよう?
 慌てる俺はその場で、固まってしまう。

 その時、航太がヒソヒソ声でこう言った。

「おっさん。オレが着替えてる間に、母ちゃんの相手をしてよ」
「え? でも、玄関を開けたらお前も見られるぞ?」
「開けないまま、扉越しに話したらいいじゃん。オレはここで着替えるから」
「わかった」

 母親の綾さんになんて、ウソをつこう。
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