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第五十六章 全サブヒロインの解散

再発する男の娘の日

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 今年に入って色々あったから、あまりスクリーングに行けてなかったが……。
 俺の身体も回復したし、ミハイルも戻ってくれた。

 だからまた俺たち二人で、スクリーングへ通うことにした。
 以前のように、同じ時間の列車で待ち合わせて。
 もう二人は付き合っているし、婚約状態だ。

 古賀 アンナという、L●NEアカウントは消滅したが。
 代わりに、ミハイルという名前が追加された。
 告白して以来、頻繁にメッセージのやり取りしている。

 地元の真島まじま駅のホームに立ち、今から電車に乗ると彼に伝える。
 すると数秒も経たないうちに返信が届く。

『わかった☆ 隣りの席を空けといてよ☆』

 その愛らしい文章を見て、思わずニヤけてしまう。

 電車へ乗り込むとしばらく窓の風景を眺める。
 ここまで来るのに、本当に長かった……。
 辛かったけど、ちゃんと今がある。

 真島駅から二駅離れた場所。
 彼の住む、席内むしろうち駅に列車が到着した。

 プシューという音と共に、自動ドアが開いた瞬間。
 甲高い声が聞こえてくる。

「おっはよ~! タクト☆」

 嬉しそうに微笑む一人の少年。
 白のタンクトップに、デニムのショートパンツ。
 足元は動きやすそうなスニーカー。

 金色の美しい髪は、もう短くなってしまったが……。
 それでも、彼の美貌は健在だ。
 小顔だからハンサムショートも似合うし、持ち前の大きなエメラルドグリーンが眩しい。

 俺を見つけると、すぐに隣りへと座り込む。
 太ももをビッタリとくっつけて。
 そして、上目遣いで話しかけるのだ。

「タクト☆ 久しぶりだね☆ あ、でも……オレ毎日、動画を見ていたから。あんまり時間を感じないかな☆」
 と照れてしまうミハイル。
 自身の小さな唇に手を当てて、思い出しているようだ。

 ヤベっ! 俺まで思い出してしまう。
 こんな目の前に、未来の嫁が座っているのに……何もしないだと!?
 何とか彼に言い聞かせて、キスできないだろうか。

 じっとミハイルの唇を、上から眺めていると。
 彼に不審がられる。

「あれ? タクト、どうしたの? なんか今日は静かだね?」
 首を傾げる姿すら、小動物みたいで可愛い。
「す、すまん……久しぶりにミハイルと会えて、嬉しくてな」
「ホント? オレも嬉しいよ☆ タクトに早く会いたかったもん☆」
 今の一言で、俺に火がついてしまった。
 ミハイルの肩を強く掴み、動けないようにする。

 一瞬、ビクッと肩を震わせていたが……なんとなく、俺が考えていることを察知したようだ。

「タクト……」

 ピンク色の唇が輝いている。

 日曜日の朝だし、小倉行きだから。乗客は少ないほうだが……。
 それでも何人か若者が、同じ列車に座っている。

 しかし、俺は博多駅で大勢の人々に見られながら、キッスをした男だ。
 これぐらい、もうなんてことないぜ。

 ミハイルの背中に手をやり身体を俺に寄せる。
 嫌がる素振りも見せず、従順に動きを合わせてくれた。
 そっと瞼を閉じて、待ってくれている……。

 もう一度、あの時を再現しようとしたその時だった。
 ミハイルがそっと俺から離れてしまう。

「ごめん、タクト……今のオレには、しない方がいいよ……」
「え?」
「あの日。博多駅で告白してくれた時、すごく嬉しかった。今でも胸がドキドキする……」

 頬を赤くして、地面に視線を落としてしまう。
 なんだ? 恥ずかしいだけなのか。

「それがどうしたんだ?」
「と、止まらないんだよ……」
「何が?」
「“あの日”が止まらないの!」
「……」

 忘れていた。
 ミハイルの性知識は、お子ちゃまレベルだったことを。

 その後、彼から詳しい説明を聞いたが。
 どうやら、俺が原因のようだ。
 博多駅で告白した後、抱きしめてキッスを交わす……それもディープキスを10分間も。

 それ以来、毎日夢に出て来るらしい。
 お花畑の中を、俺と仲良く手を繋いで歩いていると、いきなり迫られてしまい……濃厚キスが始まる。
 というシーンが、脳内で延々と繰り返されるそうだ。

 そんな夢ばかり見るから“あの日”が増えてしまう。
 月に1回レベルの“男の子の日“が、週に2回も起きるとか?
 
 だから「今のオレは汚れている……」と落ち込んでいた。
 いや、むしろピュアすぎでしょっ!?
 
「もうオレにキッスしない方がいいよっ!」
 と涙ぐむミハイルくん。
 ヤバい、そんな顔をされたら、尚のこと襲いたくなる……。

「ごほんっ! ミハイル、落ち着け。今、お前に起きている現象は、男なら自然なことだ」
 正直16歳の男子高校生なら、異常だと思うが……。
「ホントにっ!?」
「ああ……」
「そっかぁ~☆ なら悪いことしてなかったんだぁ~ 良かったぁ☆」
 ちょっと、そんなことで善悪の区別をつけていたら、俺なんか極悪人だよ。

「別に悪いことじゃないさ……むしろ男なら、成長したことを喜ぶべきだと思うぞ?」
「そうなの? でも、あんまり回数が多いと困るよぉ……あ! そう言えば、前にタクトへ相談した時、言ってたよね?」
「へ?」
「ほら、『制御できる方法がある』って☆」
 緑の瞳を輝かせて、俺の答えを待つミハイル。
 上目遣いだから、どうしても誘われているような錯覚を覚える。

 制御できる方法だと?
 そんなの教えなくても、自然と覚えるもんだろう。
 だが、無垢なミハイルなら仕方ないか……。

 しかし、どうやって教える?
 そうなるとお互いが、裸にならないと。
 
 はっ!? そう言えば、一ツ橋高校の近くにボロいラブホテルがあったな。
 一時間ほど、ご休憩と称して、彼に恋の課外授業を始めるべきか?
 手取り足取り使って……そのままベッドイン。

 いかん、妄想するだけで股間が爆発寸前だ。
 結婚する前に、ミハイルの全てを知り尽くしてしまいそう。
 それは俺の紳士道に反する行為。

 仕方なく彼には、その場しのぎの嘘をついておくことにした。

「いいか、ミハイル。俺は今18歳だ」
「うん☆ 知ってるよ☆」
「だが、お前はまだ16歳だな?」
「そうだけど?」
「ならば、まだ教えることは出来ない。制御する方法はな、18歳を越えてからじゃないとダメなんだ! よく18歳未満禁止という、赤いのれんを見るだろう? あれはそういうことだ。法律で決められているのだ!」
 ごめん……ミハイル。
 俺は小学生で覚えたけど。

 取ってつけたようなウソだが、知識のない彼は驚いていた。
「えぇ!? そうなの!? じゃや18歳まで、このままなの!?」
「うむ……対処法としては、俺とのキスを思い出さないこと、動画も見ないこと。あとはお前の好きな、ネッキーやスタジオデブリのアニメを見まくることだ」
「そんなぁ~ タクトとのキス動画は好きだから、何度も見ちゃうよぉ」
 と口を尖がらせる。

「仕方あるまい。今できることはそれぐらいだ」
 悪い、ミハイル。
 結婚の準備ができたら、とことん身体に教えてやるからな。
 いや毎日、俺が絞り出してやろう……。

  ※

「ところで、ミハイル。さっき言っていた動画の件だが……かなりバズっているらしいな。現段階で500万回再生されていると聞いた。それで姉のヴィッキーちゃんも見たのかな?」
 一番、危惧していることだ。
 なんせ可愛い弟を女装させて、密会していたことをずっと黙っていたからな。
 疑われる度に、どうにかごまかしていたが……。

「あ、それなら大丈夫だと思うよ☆」
「どうしてだ?」
「ねーちゃんって、ネットとか見ないタイプなんだ☆ お酒しか興味ないし。でもたまにテレビぐらいなら見るかな? あの動画はテレビで放送されないでしょ?」
「そういうことか……」

 ヴィッキーちゃんが、アナログ人間で安心はしたが。
 しかし、例の動画は異常なほどに再生回数が伸びている。
 テレビ局の人が、使わないことを祈ろう……。
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