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第五十四章 最後の取材

タクトが選んだ答え

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 俺の告白を見て「勇気が出た」と叫ぶブラコンの少年だが。
 もう、居ても立っても居られないそうで。

「今すぐお兄ちゃんへ、この熱い想いを伝えにいってくる!」

 と博多駅の中へ走り去ってしまう。
 マジで良かったのか、これは……。

 そんなことをしている間に、ミハイルの準備が終わったようで。
 自称、美容系のお姉さんが俺に声をかける。

「ちょっと! そこの男子、もう出来上がったわよ。可愛くね」

 振り返ると、ハンサムショートの美少年が立っていた。
 でも、髪型が男ぽいだけで、他はアンナのまま。
 ガーリーなファッションだし、メイクもお姉さん達によって、より可愛くなってしまった。
 まつ毛が上げられているので、大きな緑の瞳はより強調されて見える。
 そして彼の小さな唇には、ピンク色の口紅が塗ってあり、早くキスしてと誘われている気が……。
 改めて、ミハイルの顔に見惚れていた。

「さ、私たちは退場するから、続きを始めて」
「え?」
「告白の続き、あるんでしょ? どうぞ」
「はぁ……」

 なんだ、このお姉さんも色々と俺に説教したり、ミハイルのことを奇麗にしてくれたけど。
 結局、野次馬の一人なんだな。

 お姉さんと部下たちが、ギャラリーの中に戻ったところで。
 俺は恥ずかしさを紛らわすため、咳払いをする。

「ごほんっ! その……ミハイル」
「う、うん。なぁに?」

 彼も俺の言葉を待っているようで、ぐっと距離を詰める。
 上目遣いで、俺を見つめるから、理性を保つので精一杯だ。

「俺はノンケだ。意味は分かるか?」
「え? のんけってなに?」
「まあ、同性を好きにならないってことだ」
 そう答えると、なぜかしゅんと落ち込むミハイル。
「そうなんだ……」
「だが、同時に俺は面食いでもある。顔にうるさい、かなり厳しい人間だ」
「それがどうしたの?」

 首を傾げるミハイルを見て、俺は確信した。
 やはり、こいつしかいない。
 なんてカワイイんだ。
 早く抱きしめたい。

「その俺が一番カワイイと思ったのは、ミハイル。お前だけだ」
「え? オレが?」
「ああ……この世の誰より、世界で一番カワイイ! この想いは一目見た時から変わらない! だから、これを受け取ってくれないか?」

 俺はその場で片膝をつき、事前に用意していた小さなケースを、ジーパンのポケットから取り出す。
 そして、パカッと音を立てて開くと。
 中には小さな指輪が輝いていた。

「え、これって……」
 驚くミハイルを無視して、俺は自分の想いをぶつける。

「ミハイル。好きだ、愛している」
「た、タクト……」
 突然のプロポーズに動揺していたが、嫌がる素振りはない。

「俺と結婚してくれっ!」
「なっ!? け、結婚って、オレとするの!?」
「当たり前だ。お前と一生を共に生きたい! だから、この婚約指輪を受け取ってくれないか?」
「そんな……オレとタクトは男同士じゃん。結婚なんて出来ないんじゃないの?」
「別に法的な意味で、結婚しなくてもいい。俺とミハイルの間で誓約を立てれば良いんだ。同性愛とか、未だに俺もよく分からない。でも、俺はお前を独占したいんだ! そう考えたら、こういう答えになっていた……」

 俺が全てを吐きだすと、ミハイルは黙ってしまう。
 しかし反応としては、悪くないように感じる。

 これが俺の考えた計画。
 ミハイルとの結婚だ。

  ※

 数分間、経っただろうか?
 沈黙が続く。

 俺は片膝をついたまま、リングケースを開いている状態だ。
 ミハイルは地面と睨めっこ。

「で、でも……もし結婚するにしても、オレたちまだ高校生だよ?」
「すまん。その辺は説明不足だった。結婚を前提に付き合って欲しい、と言うことだ。まずは高校を卒業しないと。だから、早くても二年後。そのためにもミハイルと一緒に高校へ通って欲しい。戻って欲しいんだ!」
「そっか……そういうことか。オレも、またタクトと高校へ行きたいな」
 その言葉に俺は、思わず身を乗り出す。
「な、なら!」

 微かな声だが、確かにミハイルは答えてくれた。

「うん☆」

 ニッコリと微笑んで、俺を見つめる。
 これはどう考えてもYESだろう!

「じゃあ、良いんだな? 薬指に指輪を入れても……」
「お願い☆」

 俺の給料三ヶ月分で購入した、ネッキーの婚約指輪。
 リングケースから取り出すと。
 既にミハイルが、左手を差し出していた。

 彼の細い指にゆっくりと指輪をはめる。
 しっかり、お店で店員のお姉さんと話し合って購入したのに。
 ミハイルの指が細すぎて、サイズはガバガバだ。

 ゆるゆるで格好の悪いプロポーズとなってしまった。
 それでも、ミハイルは嬉しそうに手を掲げている。

「うわぁっ! ネッキーのやつだ。ありがとう、タクト!」
「……」

 喜んでいる彼には悪いが、もう俺の方が限界だった。
 ようやく想いを伝えられて、そしてミハイルが二人の未来を受け入れてくれた。

 気がつけば、俺はミハイルの身体に飛びついていた。
 華奢な身体を両手で強く抱きしめる。

「ずっと怖かった。寂しくて潰れそうだった……会いたかったよ」

 今まで格好をつけていたくせに、緊張の糸が切れてしまったようで。
 弱音を吐いてしまう。
 そんな俺でも、ミハイルは優しく包み込んでくれる。

「……ごめんね。寂しかったよね、これからはずっと一緒だから、安心してね。タクト☆」
「約束だからな」
「うん、約束☆」

 やっと渇いた心が満たされていく気がした。
 胸に空いた大きな穴も、ミハイルという愛で塞がれていく。

 去年の誕生日に、そうやってお互い抱きしめた仲だ。
 彼も分かった上で、俺の腰に手を回す。
 お互いの気持ちが繋がっている……そんな気がする。

「早くこうしかった……」
「今度からタクトが苦しい時、オレが抱きしめてあげるよ☆」
「ミハイル……」

 一旦、彼から身体を離して、じっと瞳を見つめる。
 相変わらず、エメラルドグリーンがキラキラと輝いてまぶしい。

「好きだ、ミハイル」
「オレもタクトのことが、大好きだよ☆」
「じゃあ……キスしてもいいか?」

 直球の質問に、ミハイルは一瞬固まってしまう。
 でも、俺の気持ちに合わせようと必死だ。

「う、うん。いいよ、だってオレたち。け、結婚するんだもん。キスぐらいなんてこと……」
 と言いかけている際中だが。
 俺は強制的にミハイルの話を止めさせた。
 
 彼の唇を奪ったのだ。

「んんっ!?」

 驚く彼を無視して、ミハイルのぬくもりを味わう。
 一度だけ、唇を重ねるつもりだったが……。
 試しにキスすると、その気持ち良さに病みつきになってしまう。

 色んな角度から、何度も繰り返し、ミハイルの唇を楽しむ。
 最初は戸惑っていたミハイルだったが、今では静かに瞼を閉じて、俺の動きに合わせてくれる。

 自分でも驚いていた。
 初めてのキスが男だし、大勢の人間が見守る中、熱い口づけを繰り返す。

 何度もくっついては、離れる……を繰り返しているうちに、とあるミスを起こしてしまう。
 一瞬だったが、俺の舌先がミハイルの唇に入り込んでしまった。

「ん!?」

 これには、さすがのミハイルも怒ると思ったが……。
 特に嫌がる素振りはない。

 ならばと俺は舌先を、彼の口の中へ突入させる。
 奥には小さなミハイルの舌が、待っていて。
 優しく俺を受け入れてくれた。
 それを良いことに、俺はディープキスを楽しむことにした。

 ~10分後~
 
「も、もお~! いい加減にしてよっ! 長すぎるし、こんなところでしなくても良いじゃんか!」
 顔を真っ赤にさせて、俺から離れるミハイル。
「悪い……あまりにも美味かったら。嫌だったか?」
「嫌とかじゃなくて、場所を考えてよっ!」

 そう言うと、ミハイルは周囲で盛り上がっていた野次馬たちを指さす。

「ほぉ~ 最高な二人!」
「すごく尊いわっ!」
「もっとお願いしますっ!」


「あ……」
「べ、別にガッつかなくても、これからは一緒だし」
「ミハイル」
「とりあえず、もうここから離れよっ!」

 ミハイルは俺の手を掴むと、野次馬たちを搔き分け、その場から逃げる。
 大きな交差点を渡り、はかた駅前通りへ入ると。
 顔を真っ赤にしたミハイルが、俺にこう言った。

「ホントにいいの?」
「え?」
「アンナのこと、忘れられる? もう女装はいらないの?」
「それは……」

 男のミハイルが良い、と宣言しておきながら俺は……。
 でも、もう嘘はつかないと決めていた。

「悪い。たまにでいいから、女装してくれるとありがたい」
 俺の答えにミハイルは怒ると思ったが、クスッと笑ってこう言う。
「もう、タクトはエッチだからな。いいよ、してあげる☆」
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