上 下
460 / 490
第五十三章 ヘタレ主人公改造計画

愛さえあれば、性別とか関係ないよね!

しおりを挟む

「た、タクト……入るからね?」
「おう」

 緊張から生唾を飲み込む。
 このドアが開いたら、ミハイルが立っている。
 彼と別れて、何十年も経ったような感覚だ。
 それだけ、ミハイルがいない時は辛く、耐えられないものだった。

「久しぶり。タクト☆」
「み、ミハイル……」

 金色の長い髪は、首元で結い、纏まらなかった前髪を左右に垂らしている。
 肩だしのロンTを着ていて、中には黄色のタンクトップが見える。
 ボトムスは、デニムのショートパンツ。
 そして、細く長い脚……と表現したかったが、ここまでだ。

 なぜかと言うと、肌の色が美しくない!
 ミハイルの……透明感のある白い肌ではなく。ちょっと肌が焼けている。
 太ももには青あざが目立つ。

 足元も、若者らしい真っ白なスニーカーを履いているが。
 違和感が半端ない。

「タクト☆ 事故だって聞いたから、心配で来たんだよ!」
「あ、そう……」
「どうしたんだよ~ オレが来たのに、嬉しくないの?」

 俺のベッドに近寄るとしゃがみ込み、上目遣いで話す。
 人工的に作られた、エメラルドグリーンの瞳を輝かせて。

「嬉しいですよ。すごく」
「なんで、けーごを使うんだよぉ~! オレたちマブダチだろぉ~!」

 ポカポカと俺の胸を殴ってみせるアラサー女史。

 そうだ。こいつはミハイルとは、程遠い生き物だ。
 よく見れば、金髪の長い髪はヅラだ。
 そりゃそうだろ。今のミハイルは、ショートカットだし。
 ファッションも彼に寄せてはいるが……デカすぎる胸で、パツパツだ。

 あ~、マジで女じゃなかったら、ボコボコに殴ってたわ。
 人の純情を弄びやがって。


「宗像先生……これは一体なんの授業ですか?」
「え? 何を言っているの、タクト。オレは心配だから、病院に来たんだよ☆」
 このクソ教師、まだ続ける気か。
「もうそのお芝居は不要です。バレてますから」
「チッ……なんだ。もうバレたのか」

 そう言うと先生は、被っていた金髪のヅラを脱ぎ、簡易ベッドに腰を下ろす。
 目につけていたカラコンを外すと、身体を横にして休む。

「はぁ~ せっかく新宮が元気になるよう、わざわざコスプレしたのにな」
「色々と無理がありましたよ。ミハイルはもっと可愛いですっ!」
 これだけは、語気を強めてしまう。

「あっ? 私が可愛くないってか?」
「いや……そう言う意味じゃなくて」
「フンッ! でも、これで少し分かったんじゃないのか?」
「え? 何がですか?」
「新宮、お前の気持ちだよ」
「俺の……?」

  ※

 ヅラとカラコンを外したから、顔だけは宗像先生に戻っている。
 だがファッションは、ミハイルのままだ。
 正直、服のサイズが全て小さいから、パツパツ。
 ショーパンからは、紫のレースがはみパンしている……。
 しんどっ。

 しかし先生は、そんなことは気にせず、真面目な顔つきで俺に語りかける。

「なあ、新宮。お前と古賀がこういう関係になった原因は何だ?」
「え、原因って……」
「問題が起きたとしてだ。必ず何らかの原因があるはずだ。告白は古賀からしたんだろ?」
「そうです。でも、女じゃないから付き合えない……と断りました」
「ふむ……そこじゃないか? お前たちが歪み始めたのは?」
「へ?」

 何か思いついたようで、急に簡易ベッドから立ち上がる先生。
 そして、病室の窓に近づき、オレンジ色に染まった夕陽を見つめる。

「女だったら付き合える……という、新宮の答えがまず有り得ない」

 なんて、格好をつけているが、デニムから尻がはみ出ているので辛い。
 でも真面目に考えているから、とりあえず黙って話を聞こう。

「新宮が古賀のことを『カワイイと思ったから』と言ったことから、始まったんだよな……。まず同性に対して、こんな感情を抱くことがおかしくないか?」

 そう疑問を抱くと、先生は急に振り返る。
 何かに気がついたようだ。

「あ、あれは……」
 
 言葉に詰まる。
 だが先生の言う通りかもしれない。
 でも、このままでは俺がノン気じゃないみたいだ。
 否定しておこう。

「あ、あの時はミハイルが……まだ女だと思い込んでいたから、そう感じたし。本人にも言ってしまいました。でも同性と分かったからには……」
「分かったから、古賀の告白を断ったのか?」
「はい……」
 
 なんだか俺が責められているようで、胸が痛む。

「しかし、女に生まれ変わったら付き合える。とも言ったな」
「そうです……」
「新宮。そんなことを他の男たちに言えるか? クラスメイトの千鳥や日田兄弟でも良い。想像してみろ。私が同級生の日葵ひまりやヴィクトリアに告白されたら、嘔吐している可能性が高い」

 先生に言われて、頭の中で想像してみる。

『なあ、タクオ! ほのかちゃんにまた振られたんだ……だから、一晩だけでいいから、なっ!』
『そ、そんなこと……やめっ、ダメだってば』

 リキなら、別府温泉で処女を捧げたから、一晩ぐらい許してもいいような。
 って、ダメダメ!
 俺はノンケだ。


「あ、有り得ないです……ミハイルはカワイイから、女装も受け入れられたと思います」
「そうか。となると、もうあまり考えなくて良いんじゃないのか? 新宮、お前は間違いなく、入学式で古賀 ミハイルを見て、カワイイと思った。これに間違いはないな?」
「間違いありません……」
「ならば、それが真実なのだろう。きっとアンナという女が生まれたのは、新宮の照れだな」
「て、照れですか?」
「そうだ。お前は男の古賀に告白された時、自分をノンケだと信じたいから、照れ隠しをしたのだろう。初めての経験だから、仕方ないと言えばそうなるが……」

 何故か、宗像先生の言うことに反論できない。
 もちろん、納得はしていないが。
 だが、当たっていると思ってしまった。

「新宮。別に、誰が誰を好きになっても良いじゃないか。もっと自分の気持ちに、素直になったらどうだ? お前は自分にも古賀にも嘘をつき、傷ついた。ならもう、どうでも良くないか?」
「何がですか?」
「ま、世に言う。ゲイだの、バイセクシャルだの……ってやつだ」

 実質、俺がノンケじゃないと宣言されたようなものだ。
 確かにずっと認めたくなかった。
 初めて好きになった相手が、男だなんて。

「じゃあ俺は……」
「そこで自分を否定するな。私が言いたいのは、新宮が誰を好きかって話だ」
「俺が好きな相手?」
「うむ。お前がこの世で一番、カワイイと思った相手だ。ここが重要なポイントじゃないか」
「カワイイ……」

 そう言われると、一番最初にカワイイと思ったのは。
 俺が決断する前に、先生は俺の肩を掴み、優しく微笑む。

「新宮。大事なのは愛だ。この世は全て、愛で形成されている」
 何をいきなりスケールのデカい話にすり替えているんだ?
「愛?」
「そうだ。愛さえあれば、お互いの相性さえ合えば……全てを乗り越えられるのだ!」
「つまり……先生が言いたいのは、性別の壁も」
「うむ、玉と竿。あと尻さえ揃えば……とりあえず十分だろっ!」
 と親指を立てるクソ教師。

 せっかく何かを掴みそうだったのに……台無しになってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝込みを襲われて、快楽堕ち♡

すももゆず
BL
R18短編です。 とある夜に目を覚ましたら、寝込みを襲われていた。 2022.10.2 追記 完結の予定でしたが、続きができたので公開しました。たくさん読んでいただいてありがとうございます。 更新頻度は遅めですが、もう少し続けられそうなので連載中のままにさせていただきます。 ※pixiv、ムーンライトノベルズ(1話のみ)でも公開中。

魔王(♂)に転生したので魔王(♀)に性転換したら何故か部下に押し倒された

クリーム
恋愛
女学生がファンタジー世界の魔王(♂)に転生(憑依)してしまったので、魔法で性転換したら、部下(♀)まで男体化してついでに唇まで奪われてしまったという話。 ツンデレ一途悪魔(女→男)×天然無表情魔王(女→男→女) 初っぱなで性転換してるのでほぼ普通の男女恋愛ものです。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

ゴスロリ男子はシンデレラ

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。m(__)m まったり楽しんでください。

完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。 そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。 それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。 さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

王妃の鑑

ごろごろみかん。
恋愛
王妃ネアモネは婚姻した夜に夫からお前のことは愛していないと告げられ、失意のうちに命を失った。そして気づけば時間は巻きもどる。 これはネアモネが幸せをつかもうと必死に生きる話

処理中です...