上 下
452 / 490
第五十二章 怒涛の2年生編

食欲=性欲(♂)

しおりを挟む

「でもな、新宮。冗談じゃないが……シンデレラってのはさ。午前零時で魔法がとけちまう、お姫様だよな?」
「はぁ……」
「結局のところ、お前が作り上げた幻想だろ? 古賀 アンナっていう女は」
「そ、それは……」

 言葉につまる俺に対し、宗像先生はそっと肩に触れる。

「私は心配なんだ。急に痩せちまう新宮と、自分を女だと言い張る古賀がな」
 先生の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「宗像先生……」
「お前がかけた魔法だろ? なら王子様の新宮が、古賀を解き放ってやれ」
「解き放つって……どうやってするんですか?」
「そんなものは簡単だ! スカートをめくって男だということを、クラスのみんなに教えてやれ。そして、そのままお前が襲えばいいだろ♪」
「……」

 できるわけないだろ、そんなこと。
 聞いた俺が、バカだった。

  ※

 とりあえず宗像先生から事情を聞いて、ホッとしたいうか。
 ミハイルの考えを、理解できた気がする。
 要は、女であるアンナだけを見て欲しいってことだろう。

 事務所を出て、廊下を歩いていると。
 二年生の教室が何やら騒がしい。
 窓から中を覗くと、たくさんの男子生徒がアンナを囲んでいる。
 みんな別人だと思い込んでいるようだ。

「アンナちゃん。この前はマジでサンキューな! おかげでほのかちゃんとイブを過ごせたよ。でも一ツ橋高校へ来るなんて、奇遇だね」
 と話しかけるのは、スキンヘッドの千鳥 力だ。
 幼なじみだと気がついてない。
「ううん☆ ほのかちゃんと仲良くなれて、アンナも嬉しいよ。取材の効果が出たみたいだね☆」
「おお! 取材もバリバリやってるぜ! この前なんか、ネコ好きおじさんと出会いのバーに行ってきてさ……」

 ちょっと、リキ先輩たら。どんどん界隈の深いところまで、取材しているじゃない。
 とりあえず放っておこう。

 教室の扉を開こうとした瞬間。
 ガラっと中から、開けられてしまう。
 目の前に立つのは、ギャルのここあ。
 腕を組んで、俺を睨んでいる。

「あんさぁ……ちょっと、廊下で話そうよ」
「お、おう」

 きっとアンナのことだろう。
 とりあえず、教室に入るのは諦めて、彼女の話を聞くことに。

「ねぇ、どうして。ミーシャじゃなくて、女装したアンナが学校へ来たの?」
「いや……この前も話したが、俺が抱きしめたり……色々とあって。女装した姿を見てほしいみたいだ。ミハイルは」
「は? 言っている意味が分かんないんだけど?」
「まあ、そうだろな……」

 俺は宗像先生が話してくれた内容を、ここあにも説明した。
 すると、ここあは難しい顔で考えこむ。

「え? マジで頭が混乱するんだけど……女役だから、カワイイ自分を見てってこと?」
「そんなところだ」
「ふぅ~ん。でもさ、それって元はと言えば、オタッキーのせいじゃん!」
 と俺の胸に人差し指を突き刺す。
「うっ……」
 何も言い返せない。

「オタッキーさ。わがままだよ! ミーシャも欲しがって、女役まで欲しいなんて! ミーシャがかわいそう!」
 気がつくと、ここあの瞳は涙でいっぱいだった。
 一日に二人も女を泣かすなんて……最低だ。

「わ、悪い……」
 とここあをなだめようとした瞬間。
 廊下の奥から、誰かがこちらへ近づいてきた。

「え? ケンカ?」

 眼鏡女子の北神 ほのかだ。
 えらく怯えた顔をしている。

「あ、ほのか。違うぞ! こ、これは……」
 上手く言い訳できない俺を見かねて、ここあが代弁してくれた。
「違うんよ。ほのかちゃん……オタッキーにミーシャの相談をしてたの。急に引っ越したていうじゃん? だから寂しくてさ」
 アホなここあにしては、ナイスなフォローだ。
 これで女装の話やアンナの正体を隠せる。

「ミーシャって……ミハイルくんのことでしょ? 引っ越してなんか、してないでしょ」

 これには、俺とここあも驚きを隠せない。

「「え?」」

「今も教室の中で、リキくんと仲良く話しているじゃん。なんかアンナとかいう、謎の設定で先生に紹介された時は、ビックリしたけど……」
 まさか……バレているの?

「な、なにを言っているんだ、ほのか。あの子はミハイルのいとこだぞ。紛れもない女の子だ」
 ここあも俺の話に合わせる。
「そうそう! 双子ってぐらい似ているけど、全然違うって!」

 俺たちの話を聞いて、ほのかは真顔で答える。

「いや、どう考えてもミハイルくんでしょ? 女装しているけど……」

「「……」」

 よりにもよって、腐女子のほのかにバレてしまった。
 担当編集の白金にこれ以上、関係者を増やすなと言われていたのに……。

  ※
 
 もうバレてしまったことは、仕方ないので。
 ほのかにも、ミハイルが女装をする理由を簡単に説明した。
 そのうえで協力してほしいと、ここあと頭を下げる。

「そっかぁ。なるほどねぇ……そんな趣味があったんだぁ~ うーん、琢人くんって受けだと思ってたのに、バリバリ攻めだったとは」
 そう言うと、眼鏡を怪しく光らせる。
「あ、あの……ほのか? なんか勘違いしていないか?」
「私のことなら大丈夫よっ! ミハイルくんの女装も黙っておくわ。二人で好きにヤッちゃっていいわ! 校内でも無理やりするんでしょ!?」
「……」

 やっぱり言わなければ、良かった。
 腐女子のネタにされちゃう。

「いやぁ~ 琢人くんが弱みを握って、女装させる鬼畜プレイが好きとか……盲点だったわ! 忘れないうちにペンタブで漫画にしよっと♪」
 もう勝手にしてくれ……。

 とりあえず、三人の中で話はついたので。
 教室へ戻ることに。

 相変わらず、たくさんの男子生徒がアンナを囲んでいた。
 女装した途端、ミハイルを見る目が違う。
 なんというか……いやらしい目つきに感じる。

 俺は強い憤りを感じていた。

「あ、タッくん~☆ 戻ってきたんだ☆」
 アンナの声がなかったら、こいつらをぶっ飛ばしているところだ。
「ああ……待たせたな」
 自分の席に座り、次の授業。数学の準備をしようとした瞬間。
 思い出す。なにも教科書を持って来ていないことに。

「タッくん、どうしたの?」
「その……今日の教科書を、全部忘れて……」
「なら、アンナと一緒に読もうよ☆」

 そう言うと彼女は、机をピッタリとくっつけて、教科書を広げる。

「これで一日、一緒にいられるね☆」
「あ、ああ……」

 無意識にやっていると思うが、肘と肘がくっつく距離感。
 間接的とはいえ、久しぶりにアンナの肌に触れられて、嬉しかった。
 その証拠に……最近、無反応だった股間が、ギンギンに盛り上がってしまう。

 これで一日を過ごすのか……本当に持つかな?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝込みを襲われて、快楽堕ち♡

すももゆず
BL
R18短編です。 とある夜に目を覚ましたら、寝込みを襲われていた。 2022.10.2 追記 完結の予定でしたが、続きができたので公開しました。たくさん読んでいただいてありがとうございます。 更新頻度は遅めですが、もう少し続けられそうなので連載中のままにさせていただきます。 ※pixiv、ムーンライトノベルズ(1話のみ)でも公開中。

魔王(♂)に転生したので魔王(♀)に性転換したら何故か部下に押し倒された

クリーム
恋愛
女学生がファンタジー世界の魔王(♂)に転生(憑依)してしまったので、魔法で性転換したら、部下(♀)まで男体化してついでに唇まで奪われてしまったという話。 ツンデレ一途悪魔(女→男)×天然無表情魔王(女→男→女) 初っぱなで性転換してるのでほぼ普通の男女恋愛ものです。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

ゴスロリ男子はシンデレラ

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。m(__)m まったり楽しんでください。

完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。 そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。 それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。 さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

王妃の鑑

ごろごろみかん。
恋愛
王妃ネアモネは婚姻した夜に夫からお前のことは愛していないと告げられ、失意のうちに命を失った。そして気づけば時間は巻きもどる。 これはネアモネが幸せをつかもうと必死に生きる話

処理中です...