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第五十一章 暗黒時代

折れた剣

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 ここあに言われて、ツボッターのアカウントをその場で作成。
 アイコンやヘッダーは、トマトさんが描いてくれたアンナのイラストにしておいた。
 まあモデルが目の前にいるギャルのここあだから、巨乳のハーフギャルになっているが……。
 小説の宣伝も兼ねているので、仕方あるまい。

 初めての投稿は、俺とここあのツーショット写真。
 だが何を書いて良いか、分からない。

「なあ、写真はともかく、何を書けばいいんだ?」
「ん? 別になんでもよくね? 呟くところじゃん」
「ま、まあ……そうだが……」

 とりあえず『期末試験、2回目に来た』とだけ呟いておく。
 今のところ、反応はなし。

「でもさ~ ツボッターだけじゃ、楽しさが少なくない?」
「え?」
「インスタもやろうよ♪ 今日スクリーングだから、色んな生徒に声をかけて、写真を撮りまくるっしょ♪」
「……」

 本当に効果があるのだろうか?
 今、投稿した写真も、ここあはいい顔をしているが、俺は青白くて、やつれている。
 楽しそうというより不幸な写真……。

  ※

 チャイムが鳴ったので、一旦3階の教室から出て、2階へ降りる。
 ホームルームを受けた後、すぐに尿意を感じた。
 きっとコーヒーばかり、飲んでいるからだろう。
 教室を出て、廊下を歩いていると。

 全日制コースである、三ツ橋高校の制服を着た女子高生たちと、すれ違う。
 一人は、ボーイッシュなショートカット。
 もう一人は、ピンク色の髪でお団子頭。

「あ、新宮センパイ!」

 声を掛けられなかったら、気がつかなかっただろう。
 まともな食事を取っていないので、意識がもうろうとしている。

「え?」
「私ですよ! ひなたです!」
「ああ……」

 彼女の名前を聞いて、なぜか落ちこんでしまう。
 ミハイルじゃないのか……って。

「なんですか!? その反応! まさかアンナちゃんが良かったんですか!?」
「い、いや……そのひなた。悪いけど、あまり大きな声で話すのはやめてくれ。頭に響く」
 頭を抱え、廊下の壁にもたれかかる。
 これにはひなたも、驚きを隠せない。
「大丈夫ですか!? センパイ!」
「ああ……空腹によるものだから、心配するな……」
「空腹って、一体どうしたんですか?」

 俺はひなたに、この二週間食事を食べられないことを説明した。
 食べても味がしない。何を口に入れても、不味く感じる。
 一体、なぜこんなことが起きているのか……自分にも分からない。
 それを聞いたひなたが、プッと吹き出す。

「何が可笑しい?」
「新宮センパイ。それって、恋わずらいじゃないですか?」
「は? ウソだろ?」
 相手は男だ。
「あるあるじゃないですか~♪ 相手のことを思うだけで、胸がドキドキ。食事も喉を通らない。一睡も眠れない日々が続く。めっちゃピュアですね♪」

 なんだかバカにされた気がして、イラってしてしまう。

「あ? そんなわけないだろ。だって、俺の場合は相手が……」
「相手がなんですか? もしかして、私ですか?」
 グイッと顔を寄せるひなた。
 ここで否定すると、怒られそうだから、曖昧に答えよう。
「俺の場合、恋愛じゃない。ただのケンカ。ダチとのな」
 言いながら、頬が熱くなるのを感じた。
 それを見逃さないひなた。
「あ~! 顔が赤くなってるぅ~! やっぱり恋わずらいだぁ~!」
「ち、違うと言っている!」
 クソがっ。

  ※

 とりあえず、俺に今起きている症状は置いといて。
 ひなたに協力を仰いでみる。
 級友のミハイルが休学しているため、SNSを使って呼び戻したいと頼んでみた。

「ふ~ん。あのミハイルくんが退学を考えるなんて、よっぽど酷いことをされたんですかね?」
「うっ……」
 傷口に塩をぬられている気分だ。
「まあ、いいですよ。私なんかで良かったら、写真ぐらい。全然です♪ むしろアカウントを共有しましょう♪」
「そうか、悪いな」
「いえいえ。そうだ、ついでだから、ピーチちゃんに撮影してもらいましょうよ!」

 ひなたと会話に夢中になっていたから、忘れていた。
 隣りのピンク頭を。
 俺の専属絵師、トマトさんの妹でもあり。コミカライズを担当している小ギャルのピーチだ。
 背が低いせいもあってか、影が薄い。

「ちょりっす、スケベ先生」
 胸元で小さくピースする。
「おお……ちょりっす……」
「マジで瘦せたっすね。あれっすか? ダイエットすか?」
「いや、ちょっと病気だ」
「それは大変っすね。病院で治してもらわないと、執筆活動に差し障りますよ」
「うん……」

 ピーチに指摘するまで、忘れていた。
 俺のもう一つの職業。
 小説家。

 アンナや他のヒロインたちのおかげで、“気にヤン”は人気だ。かなり売れている。
 今月に入り、マリアが主役として活躍する4巻も発売した。
 発売してまだ2週間ぐらいだが、売り切れが続出しているそうだ。

 編集部の白金から、早く次の原稿を書いて欲しいと頼まれている際中だ。
 だが、俺は小説を書くことができなくなっている。
 一行も埋めることができない。
 理由は分からないけど、ミハイルに振られてから、おかしくなった。
 
 この症状も早く治さないと、原稿の締め切りがあるからな。

 
「じゃあ、撮るっす。ひなたちゃん。スケベ先生ともっとくっついて下さいっす」
「うん♪ 可愛く撮ってね、ピーチちゃん!」
 俺が元気ないことを良いことに、勝手に話を進める二人。
 まあ正直、立っているのもやっとだから、ひなたに腕を組まれることは、楽ではある。

「ちょりーっす!」

 数枚撮ったあと、ひなたがスマホを確認し、SNSにあげる写真を選ぶ。
 俺のスマホなのに……勝手にいじりまわす。
 気がつくと、ツボッターのアプリを開いて、写真を投稿していた。

「じゃあ、送信っと♪ タグもつけておきましたよ。インスタも上げよっと♪」
「お、おい……」
 
 力が入らないので、ひなたの暴走を止められない。

「心配しなくても大丈夫ですよ。どっちのタグも、“恋人”とか”彼氏彼女”ぐらいしか、つけてませんから♪」
「なっ!?」

 もはや、楽しいところを見せるのではなく、完全に煽っているじゃないか!?

「あ、早速リプが届きましたよ♪ ……って、なんなのコイツ!?」
 
 顔を真っ赤にして、興奮するひなたを無視し、スマホを確認してみる。

『この人、知ってます。梶木かじき浜でパパ活しているJKです』
『動物をたくさん飼って、虐待する悪女です』
『ていうか、男みたいな顔で草』

 投稿主の名前は、”ネッキーのピアス大事”。

「クソリプってレベルじゃないですよ! ストーカーじゃないですか!? なんで私の個人情報をここまで……」

 宗像先生の時とは違うアカウントだが、どうも言っていることが似ているような。
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