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第五十章 分岐点

歪み

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 マリアとのラブホテル密会が報道されて、数日が経った。
 正直、ミハイルにいつバレるか、ずっと不安で生きた心地がしない。
 あとで知ったことだが、色んなニュースサイトに取り上げられているほど、マリアは有名人だった。

 一部のテレビ局でも、今回の報道が流れているらしく。
 DO・助兵衛という作家は、ラノベ業界に限らず、一般人の間でも話題にあがっているそうだ。
 編集部の白金が、興奮気味に電話で教えてくれた。

 もう俺には、後がない。
 ここは潔く彼に謝罪すべきだろう……と腹を括った。

 あいつに会ったら、すぐに頭を下げよう。
 下手な嘘は使わず……正直に起きた出来事を説明すれば、きっと今まで通り許してくれる。
 だって、俺たちはマブダチだし。
 1年間も一緒に同じ高校へ通っている仲だ。
 俺のために女装までしてくれる……ミハイルなら、きっと。


 朝食を済ませると、リュックサックを背負って、地元の真島まじま駅へと向かう。
 いつも通り、小倉行きの列車に乗り込んで、彼を待つことにした。
 二駅進んだ先の、席内むしろうち駅に着く。

 自動ドアがプシューッと音を立てて開く。

「タクト~☆ おっはよ~☆」

 といつもなら、元気よく笑顔のミハイルが現れるのだが。
 一向に姿を見せない。

 俺が席を立ち、キョロキョロと辺りを見渡すが、誰も乗ってこない。
 遅刻したのだろうか?
 いや、ミハイルはアホだが、根は真面目だ。
 特に俺と一緒に、行動することにこだわる人間。
 ありえない。

  ※

 目的地の赤井あかい駅について、しばらくホームで次の列車を待っても、やはり彼は来ない。
 心配になった俺は、スマホを取り出し、電話をかけてみることにした。

『おかけになった電話は現在、繋がらない状態か、電源を入っていないため……』

 何度かけても、同じ答えだった。
 一体どうしたと言うんだ?
 やっぱり、あの記事を知ったから、落ちこんでしまったのか。
 それなら俺が謝らないと……。

 不安で仕方なかった俺は、彼の実家へ電話することにした。
 以前、姉のヴィッキーちゃんが、外泊した時にかけてきたから、アドレス帳へ登録しておいたのだ。

『ご連絡いただき、誠にありがとうございます♪ パティスリーKOGAです♪』
 ビジネスモードのヴィッキーちゃんが出た。
「あ、俺です。ミハイルの同級生の新宮です」
 そう言うと、態度を一変させるねーちゃん。
『チッ! 坊主か……なんだ?』
「あの……ミハイルは、まだ家にいるんですか?」
 恐る恐る聞いてみたが、意外な答えが返ってきた。
『は? ミーシャなら、朝早くに学校へ行ったぞ? 会ってないのか?』
「はい……。会えなかったので、身体でも壊したかと」
『あはは! 全然、あいつならピンピンしてるよ。早く学校で会ってやれ。きっと喜ぶから』
 ヴィッキーちゃんにそう言われて、やっと安心できた。
「ありがとうございます。じゃあまた……」
『おう! またな』

 おかしい……。
 そんなに朝早く家を出たのなら、俺と一緒の電車に乗ってもいいじゃないか。

  ※

 とりあえず、一ツ橋高校へ向かうことにした。
 ヴィッキーちゃんの言うことが本当なら、彼は校舎にいるはずだ。
 ひとりで、心臓破りの長い坂道を登っていく。
 いつもなら、二人で仲良く駄弁りながら、歩いているから、こんなにキツいと思わなかった……。

 武道館が見えてきたころ、一人の女性が校門の前で、仁王立ちしていた。
 真っ赤なチャイナドレスを着た淫乱おばさん。
 ものすごいミニ丈だから、下から見上げる俺は、パンツが丸見えだ。吐きそう。
 頭には、シニヨンキャップを左右につけて、お団子にしている。

「あちょ~! 新宮、新年から気合が入っているな! ほあっちゃ~!」
 と叫びながら、構えをとる宗像先生。
 格闘ゲームの新作が発売されたから、その影響か?
 アホ丸出しだな。
「おはようございます……先生」
「なんだ。元気ないな?」
「その……ミハイル。古賀は、もう来ていますか?」
「ん? お前ら一緒に来てないのか? 仲が良いお前らだから、新年も二人で来ていると思ってたけど」

 きょとんとした顔で、宗像先生は俺を見つめる。
 この感じ、嘘は言っていない。
 ということは……ミハイルが、ヴィッキーちゃんに嘘をついたんだ。

 真実を知った俺は、うなだれてしまう。

「そうですか……じゃあ帰ります……」
 あいつがいないなら、意味がない。
 そう思ったら、自然と身体が元の道へと向きを変える。
 それを見た宗像先生が慌てて、止めに入る。
「っておい! なにも古賀が来てないからって、お前まで帰らんでいいだろ! それに今日は試験だ。単位がかかっているぞ? 第一、あとで古賀が来るかもしれんだろ!」
「はぁ……」
 ミハイルの性格上、ありえない。
「新宮。お前、何かしたのか? ケンカしたなら、ちゃんと古賀に謝れよ?」
「わかってます……」

 俺だって、謝れるもんなら、さっさとしたいよ。
 ミハイル……今、どこにいるんだ。
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