436 / 490
第四十九章 どこかで誰かが見ている。
未経験なのに、テクニックがすごい!
しおりを挟むラブホテルまで、俺を連れ込んだマリアだったが……。
肝心のドキドキさせる映像は、見せられずにいた。
むしろ、ピュアで奥手な女の子と感じる。
まあ俺的には、好感を持てるタイプだけど。
マリア自身は己の不甲斐なさに、憤りを感じているようだ。
肩を小刻みに震わせて、碧い瞳に涙を浮かべている。
「……ぐすん。せっかくタクトと二人きりなのに、何も出来ていないわ。記憶の改ざんが……」
まだこだわっているのか?
確かに、アンナのコスプレパーティーを越える記憶は、作れていないが。
童貞の俺が、ラブホテルへ3回も来ている時点で、充分レアな思い出だと思うけど?
ベッドの上で、バスローブを纏ったマリアが座っている。
かなり落ち込んでいるようだ。
俺は少し距離を取り、近くの冷蔵庫からブラックコーヒーを取り出して、喉を潤わせる。
何とも気まずい空間だ。
これが、あと半日以上あると思うと、苦でしかない。
別に俺が、マリアを無理やり襲ったわけでもないのに……なぜか罪悪感が残る。
※
コーヒーを飲み終え、ゴミ箱へ空き缶を持って行こうとしたら、急にマリアが顔を上げる。
「そうだ! タクト、あれならできるわよ!」
と自身の胸を叩くマリア。
「アレ? なんのことだ?」
「ふふん。きっとこのテクニックは、ブリブリアンナじゃ出来ないわよ」
妙に自信があるな。
まあ、元気が出たことは良い事か。
「なにをするんだ?」
「それはね……抜くのよ! タクトの太いのを、思い切り!」
俺は、マリアがラブホテルへ来て、頭がおかしくなったのかと思った。
「抜くって……お前。まさか……」
「そのまさかよ! 私の指ってすごいんだから! 必ずタクトを抜きまくって、気持ち良くさせてあげるわ!」
「ウソ……」
急に下ネタ全開になったマリアを見て、言葉を失ってしまう。
俺とは対照的に、彼女は興奮気味に語り始める。
「タクトって最近、抜いてないでしょ?」
「あ、いや……人並みには……」
「ウソよ♪ 顔を見たら分かるわ。そういうことは、女の子に任せるものよ♪」
初めて聞いたんですけど。
自家発電は、己が手でするから、って意味だと思うんだけど。
女の子がしてくれるものなの?
「そ、それはダメだ……俺たち、まだそういう関係じゃ……」
優しく断ろうとしたが、マリアは首を横に振る。
「いいえ! 絶対に抜かせて。大丈夫、痛くしないわ! 私、こう見えてたくさんの人を、抜きまくっているのよ」
まさかのビッチ発言である。
「なんで……?」
「パパがよく言うのよ。『マリア。そろそろ抜いてくれ』って。だから、私が毎晩抜いてあげているの♪」
「……」
俺以上に、ヤバい家庭がいた!?
~20分後~
「どう? タクト。気持ち良いでしょ?」
「あ、ああ……」
確かにマリアのテクニックは、最高だった。
ベッドの上で、膝枕をしてくれる神対応。
そして、銀色の道具を手に持ち、俺の額に触れる。
ブツン……と何かが引きちぎれる、音がした。
最初は痛かったけど、しばらくすると、気持ち良く感じられるようになった。
なんだか、眠たくなってくる。
確かに、これは昇天すると言っても、過言ではない。
「もう~ タクトったら、相当溜めてたわねぇ? 抜きがいがあるってもんだわ♪」
そう言って、ピンセットで俺の眉毛を抜く。
彼女が表現する「抜く」とは、毛を抜くことだ。
俺が想像していたような、卑猥な行為はなにもない。
マリアのパパさんが、夜な夜な抜いてほしいと、リクエストするのも分からんでもない。
だって、気持ちが良いもの。
「ねぇ、タクトって眉毛を抜くの、初めてでしょ~」
「ああ……こんなに気持ちが良いなんて……うっ!」
最初こそ、チクッと痛みが走るけど。
その後の快感ったら、やめられない。
「ほぉら、見てごらんなさい。こんなに溜めていたのよ♪」
そう言って、手の甲を見せてくれる。
彼女の白い手に、たくさん並ぶ眉毛たち。
黒い毛虫みたいで、気持ちが悪い。
「うわっ……」
「男の人って、眉毛あまりいじらないものね。今度から定期的に、私がメンテしてあげるわ♪」
「ああ……」
この時、俺は半分以上、意識がなかった。
眠たくて仕方がなかった。瞼が重たい。
気がつけば、夢の中へと入っていた。
『あはは☆ タクト~ こっちだって~☆』
お花畑の前をミハイルが走っている。
デニムのショートパンツを履いていた。今日もその小尻がたまらない。
俺は一生懸命、彼の元へ追いつこうと必死だ。
『ま、待てよ。ミハイル!』
『嫌だよー! だって、タクトが悪いことしてるもん!』
『悪いことってなんだよ?』
急に立ち止まるミハイル。
俺はやっとのことで、彼の元へたどり着く。
そして、ミハイルの肩を掴んだ瞬間。
彼の姿が、一瞬にして変わってしまう。
『タッくん……なんでラブホテルへ、マリアちゃんと行ったの?』
女装したアンナに変身していた。
顔色が悪く、自慢のエメラルドグリーンは輝きを失せている。
『そ、それは……』
『なんで、アンナとミーシャちゃんを裏切ったの?』
『違うんだ……聞いてくれ!』
必死に弁解しようとするが、アンナは静かに首を横に振る。
そして、幽霊のように、ゆっくりとその姿が透明になり、消えて行く。
『待ってくれ! アンナ!』
俺が止めても、彼女は黙って背中を見せる。
最後に一言だけ、アンナはこう呟いた。
『ごめん。もう無理かも……』
「待てっ! アンナ!」
宙に手の平を伸ばし、彼女を引き留めようとした。
しかし、目の前にあるのは、見慣れない天井。
そうだ……今は、マリアとラブホテルへ来ていたんだ。
眠っていたのか?
とりあえず、身体を起こそうとしたその時。違和感を感じる。
両腕がベッドの柵に、縛られていたからだ。
それもドラマで見るような、銀色の手錠。
「誰がアンナですって?」
声の方向に視線を合わせると、鬼の形相でこちらを睨んでいるマリアがいた。
しかも、俺の股間の上にまたがっている。
完全にマウントを取られていた。
「えっと……これは、なんのプレイ?」
一体、このあと。俺はどうなるんだ。
処女の次は、童貞を奪われるのか……。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
二十歳の同人女子と十七歳の女装男子
クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。
ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。
後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。
しかも彼は、三織のマンガのファンだという。
思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。
自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる