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第四十六章 男の娘生誕祭

願いごとは一つまでが良い。

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 エレベーター前に、スチュワーデスみたいな制服を着たお姉さんが2人立っていた。
 俺たちは左側のお姉さんに案内されたので、そちらへと向かう。
 先ほど買った入場券を渡すと、ニッコリと笑ってくれた。

「どうぞ、福岡の空をお楽しみください♪」

 なんて営業スマイルを見せてくれたが……。
 果たして、今日の曇り空で福岡を一望できるのやら。

 博多タワーは全長234メートルもある巨大な建物だが。
 地上1階から、エレベーターで昇ると、展望部は3階までだ。

 高速のエレベーターに乗ることによって、物の数分で目的地に着く。
 急激な気圧の変化により、耳が詰まってしまう。
 まあ唾を飲み込むことで、不快感はすぐに解消されるのだが。

 着いた階層は、展望部の3階。
 俺たち民間人からすれば、博多タワーで入れる一番高い場所。
 あとは階段を使って、下の階に降りれば、予約しているレストランがある。
 ま、ここはとりあえず、福岡を360度の大パラノマを2人で楽しむとしよう。

 タワーに来た事がないアンナは、窓に手をつき「うわぁ、すごぉい☆」と驚いていた。
 俺も彼女と肩を並べ、久しぶりの福岡を眺める。

「曇っていたから、心配だったが……思ったより綺麗に見えるもんだな」
「うん☆ すごいね! タッくんは、お母さんと来た事があるんでしょ?」
 と緑の瞳をキラキラと輝かせる。子供のように。
「ああ……」
「その時も2人で、この風景を楽しんでいたの? タッくんが住んでいる真島はあそこだよね☆」
 そう言って、一生懸命アンナは我が故郷を指差してみる。
「うん……間違ってないと思う」
「どうしたの? 何回か、お母さんと来たんでしょ? ひょっとして、もう忘れた?」
「いや、今でも鮮明に覚えているさ」

 ここから見える風景よりも、当時、流行っていた二次創作を……。
 主に男の裸体ばかりで、汗だくで汁だくのやつ。
 俺はこんな観光スポットでさえ、母さんにより、洗脳されていたんだ。
 
  ※

 展望部を一回りして、福岡の景色を楽しむ。
 タワーの中も、今日は客が少なく感じた。
 おかげで、アンナとのデートをゆっくりと楽しめるから、良いとは思うが。

 一周回ったところで、奥の方に何やら、小さなツリーが飾られていた。
「なんだろね、あれ」
 興味を示したアンナが近寄ってみると、制服を着たお姉さんが星の形をした色紙いろがみを差し出す。
「ただいま、クリスマスのイベント中でして。お客様もツリーへ願い事を書かれていきませんか?」
 ずいっと営業スマイルで迫られた。
 笑顔が怖いんだよな。
 しかし、アンナはその提案を快く承諾。
 というか、ノリノリで2人分の星をお姉さんに要求した。

 お姉さんから色紙をもらったアンナは、1枚俺に突き出す。
「タッくん。お願いを書こうよ☆ サンタさんが願いを叶えてくれるかもしれないよ☆」
「ああ……構わんが」
 サンタさんって、小さな子供限定じゃないの?


「ううむ……」
 ツリーの近くに置かれたデスクの上で、1人唸る。
 いきなり願い事と言われても、特にない。

『母さんが早く枯れますように』

 一番最初に浮かんだのは、これだが。
 しかし、願いではないな。
 重たい症例だから、医者が必要として。

『来年もアンナと一緒にいられますように』

 これが妥当か……でも、なんかこれにも違和感を感じる。
 もうひとり、追加したくなってきた。
 その名は……。

「タッくん! 書き終わった!?」

 隣りで書いていたアンナが、急に身を乗り出す。
 そして、俺の色紙を覗き込んだ。
 咄嗟に俺は両手で、願い事を隠す。

「なっ!? こういうのは、勝手に見るもんじゃないぞ!」
 焦りから怒鳴る俺を見て、アンナはうろたえる。
「ご、ごめん……どうせツリーに飾るから、見てもいいのかなって……」
 と小さな唇を尖らせる。
 ま、可愛いから許そう。
 咳ばらいをして、話題を変えてみる。

「おっほん! そういうアンナの願いはなんだ?」
「え、アンナのお願い? そんなの聞かなくても、わかるでしょ☆」
「へ?」
「タッくんと、ずぅーーーっと一緒に、何があってもいられますように。だよ☆」
 と恥じらうことなく、俺に色紙を見せつける。

 マジだ。一言一句、間違っていない。
 しかし……アンナが書いた色紙は、1枚だけではない。
 追加でお姉さんに、もう1枚貰っていたから。

「なあ、その願いはとても嬉しい。俺も同じ願いだからな」
 それを聞いたアンナは、ぱーっと顔を明るくさせる。
「ホント!? タッくんも気持ちが一緒なんだね☆ すごく嬉しい!」
 手を叩いて、その場でぴょんぴょんと跳ねてみせる。
「それは同感だ。しかし、アンナのもう1枚ってなんだ? 良かったら見せてくれるか?」
「え、もう1枚? いいよ☆ はい!」

 そう言って、アンナはニコニコと笑いながら、俺に色紙を見せてくれた。

『赤坂 ひなた。坊主頭になれ!』
『北神 ほのか。さっさと、リキくんとくっつけ!』
『長浜 あすか。炎上してアイドル廃業。高校からも退学処分』
『冷泉 マリア。シンプルに死ねっ!』

「……」

 こんな呪いみたいな願い事を、福岡のてっぺんに飾ってもいいのか?
 明日はイブだから、カップルとか家族連れも来るのに……。
 アンナは悪びれることもなく、ニコニコと微笑んでいる。

「タッくんの願いもアンナと同じなんでしょ?」
 なんか彼女から、すごくプレッシャーを感じる。
「う、うん……ほぼ同じだと思います」
「良かったぁ~☆ タッくんとは嫌いなものが同じで嬉しい☆」
 全く一緒ではないってば……。
 
 願い事を一緒にツリーへ飾りつける。
 アンナには見せなかったが……俺の本当の願いは。

『来年もアンナと一緒にいられますように』

 一見、その文章で終わりに見えるが、続きがある。
 本当は「ミハイル」という名前も追加したのだが、恥ずかしくて、下手なイラストで上書きした。
 よく見れば、彼の名前だと分かるが……まあ、書いた俺しか、気がつかないだろう。

 ツリーに色紙を飾りつけながら、なんだか頬が熱くなる。
 なんで、ダチの名前を書いてんだって。

 先に飾りつけを終えたアンナが、俺の顔を横から覗き込む。

「タッくん? なんか顔が赤いよ。寒いの?」
「あ、いや……ちょっと、な」
 本人が隣りにいるので恥ずかしい。
 そして、これを願い事として、たくさんの人々に見られると思うと……。
「ちゃんとお願いが叶うと、いいね☆」
「うん……そうだな」

 俺は一体、何を望んでいるんだ?
 アンナとミハイルは、同一人物なのに……。
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