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第四十五章 クリスマス前哨戦
今度、会ったら「落とす」って言ったろ?(沼)
しおりを挟む一がリキに好意を寄せていると知ったミハイルは、態度を一変させ、ニコニコと笑っている。
少し離れた場所……。玄関でリキと話す一を見て、何か思いついたようだ。手の平をポンと叩く。
「そうだ! タクトの手についた汚れは、落とせないけど……。一のお尻なら、落とせるよね☆」
と瞳をキラキラと輝かせる。
こういう時は、大体変なことをやらせるつもりだ。
「一の尻? なんのことだ?」
「だから、汚れだよ☆ タクトが手で触ったのなら、汚れがついてるじゃん。ちゃんと落とさないとね☆」
「……」
それって、俺が汚物ってことかよ。
酷いな、ミハイルくんたら。
※
玄関に戻ると、すぐにミハイルは頭を下げて、一に謝る。
「ごめん。オレ、勘違いしてみたい」
急に謝られたから、一も動揺していた。
「え、えぇ!? いえ、僕は別に……新宮さんのことでしたら、何とも思っていませんから。いつも空気みたいな存在だと思ってます」
「ハハハッ。だよな☆」
おい、こいつら。
なに俺のことを、ディスりやがっているんだ?
空気だと……一の奴。今度、博多社で会ったら、覚えてろよ。
ケツだじゃ、済ませねぇからな。
「ところでさ。一のお尻に、まだ汚れがついてるよね? ちゃんと落とした方が良いよ。タクトの手はべったりとして、汚いから☆」
だから、何で俺だけ汚物扱いになってんの?
「え? 汚れ?」
一は彼の言うことが理解できないようで、首を傾げている。
「ちょうど、オレのダチがいるからさ。そいつに落としてもらおうよ☆」
「はぁ……」
ミハイルはリキの傍に近寄ると、背伸びして耳打ちを始める。
「こうして、あーやってね……」
「え? それで、俺が一のを触ればいいのか?」
「そうそう☆」
「ふ~ん。ま、いいぜ」
この時、俺は彼らの行動を止めるべきだったと、のちに後悔することとなる。
~10分後~
「くっ、んあっ! いぃっ……」
「どうだ? 落ちたか?」
「あぁっ! だ、ダメですぅ! そ、そんな……」
一体、何を見せられているんだ? 俺は……。
サキュバスのコスプレをした少年が、スキンヘッドの老け顔に、尻を撫で回される。
リキ自体はやましい気持ちなんて無いから、善意でやっているに過ぎない。
全ては俺の隣りで、ニヤニヤ笑っているミハイルが計画したものだ。
「ハハハッ☆ 一のやつ、嬉しそうだな」
「……」
確かに想いを寄せているリキが、優しく尻を触ってくれるから、悦んでいるようだが。
「だ、ダメですぅ! 僕とリキ様はまだ出会って2回目だと言うのに……こんなっ、んぐっ!」
一の息遣いは徐々に荒くなり、頬を紅潮させ、瞳はとろ~んとしている。
時折、身体をビクッと震わせて。
「別に良いだろ? 一がタクオのダチなら、俺のダチだよ。気にすんな。ところで、尻の汚れ……痛みは良くなったか? 今、どんな感じだ?」
「ハァハァ……心臓がバクバクして、今にも飛び出そうですぅ!」
「そりゃ、良くないな……。なんでそうなるんだろな?」
お前が尻を撫で回して、感じさせているからだよ! とは言えないな。
結果的にとはいえ、一の願望を叶えているし……俺は傍観者でいよう。
2人の会話を聞いてたミハイルが、更なる追い打ちをかける。
「ねぇ、リキ。一はお胸が痛むんだよ。だから、お尻を触りながら、お胸も触ってあげてよ☆」
「えぇ……」
一体、ナニをさせる気だ。この人……。
それを聞いたリキは、「わかった」と答える。
平然とした顔で。
~更に10分後~
「あああっ! そ、そんなっ! 上からも下からもだなんて……リキ様っ!」
「辛そうだな……。もっと触ってやるぜ。早く良くなるといいな」
異様な光景だった。
左手で一の胸を、右手で尻を……。円を描くように優しく撫で回すリキ。
触っている最中、どうやらリキの指が“クリーンヒット”したようで、一が叫び声をあげる。
「あぁっ! そこは……ダメッ!」
「ここが悪いのか? じゃあ、もっとやってみるな」
「もう、僕……壊れちゃいそうっ!」
高校の玄関で、俺たちは一体なにをやっているんだろうな。
※
散々、身体を弄ばれた一は、床に腰を下ろす。
息遣いはまだ激しく、横座りでうっとりとした顔だ。
「リキ様。ありがとうございました……すごく良かったです」
「そうなのか? なんか良く分からないけど、治ったなら安心したぜ!」
とニカッと白い歯を見せて、親指を立てるリキ先輩。
「ハァハァ……あの、お手洗いは近くにありますか?」
「この廊下の奥にあるぜ」
「わかりました……ちょっと、お借りさせていただきます。コスが汚れてないか、確認を……」
えぇっ……ウソでしょ?
汚れを落とすはずが、コスのどこかが汚れたの?
サキュバスが搾取出来ず、逆に搾り取られたとか……まさかね。
一は、廊下の壁にもたれ掛かりながら、よろよろと奥へと進んでいった。
「アハハ! 面白かった☆」
「……」
ホントに酷いよ。この人。
人間で遊んでるじゃん。
とミハイルの言動にドン引きしていると……。
背後から、視線を感じた。
振り返ってみると、階段の上。2階からスマホをこちらに向ける少女が一人。
腐女子のほのかだ。
鼻から真っ赤な血を垂らしながら、眼鏡を光らせている。
どうやら、今まで起きた出来事を録画していたようだ。
「ヒヒヒッ。こいつは最高の逸材だわ……リキくん×一くんか。これだから、創作はやめられないのよっ!」
お前の創作とは、一緒にして欲しくない。
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