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第四十五章 クリスマス前哨戦

意外とロマンチスト

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「いいから、早く……触ってよ。タクト」

 と自ら、可愛らしい小尻を突き出すミハイル。
 だが、先ほどまでの勢いは無い。
 恥ずかしくて、仕方ないようだ。

 パーカーで顔を隠しているから、どんな表情かは分からないが。
 きっと、真っ赤なんだろうな……。


「じゃあ……いくぞ?」

 緊張しているミハイルの鼓動が、こちらにまで聞こえてきそうだ。
 狭いトイレの個室で、二人きり。
 辺りは静まり返っている。
 聞こえるのは、俺とミハイルの荒い息遣いだけ。

 生唾を飲み込み、ゆっくりと両手をフェイクレザーのショートパンツへ近づける。
 試しに人差し指で、彼の尻を突っつく。

「!?」

 なんて、柔らかいヒップなんだ。
 程よい弾力……押したら、ぷにんと跳ね返ってくる。
 もっとだ。もっともっと触りたい!
 いや、揉みまくりたい!

 抑えていた理性が崩壊し、俺に残ったのは……野性のみ。


 もう、どうなっても知らない。
 今は目の前にある可愛らしい、ミハイルの尻をいかに愛すること。

 改めて、しっかりと両手で小さなヒップを揉んでみる。

「んあっ!」

 ミハイルが妙に色っぽい声で反応する。
 背中を反らせて。
 その声に俺も驚く。

「だ、大丈夫か? 痛いならやめるけど……」
「うぅん……痛くないよ。早く汚れを落として」
「了解した」

 クソ。
 反則的な可愛さだ。
 こんなミハイルは、初めてに思える。
 それがまた初々しくて、たまらない。
 俺は……もう次に、ミハイルに触れた瞬間。
 どうなるか、分からない。

 だって、今いる個室は、誰からも見られないし。
 狭いが密室だ。

 レザーのヒップもたまらんが、ダイレクトで触ってみたい。
 このまま、流れでミハイルのショーパンを下ろし……ドッキング。
 
「それはダメだ……」

 ミハイルに聞こえないぐらいの小さな声で呟く。


 初めては、白いベッドの上に赤いバラの花びらを散りばめ。
 きっと彼が恥ずかしがって、今みたいに両手で顔を隠すだろう。
 だから、俺がリードし、ミハイルの細い腕を枕元に抑え込む。
 そしてあの美しいエメラルドグリーンの瞳を、見つめながら繋がる……。


 って……妄想が爆発してしまった。
 
 目の前の尻を突き出したミハイルは、プルプルと小刻みに震えていた。
 自分から提案しておいて、恥ずかしいんだろう。

「ねぇ、タクト……」
「どうした?」
「やっぱり、無理かも」
「へ?」

 俺は耳を疑った。

「おかしいよ、こんなの。オレたち男同士なのに……」
 ミハイルのやつ。
 恥が上回ったのか。
 でも、俺の欲求は満たされていない。
 まだまだ、触りまくりたいのに!

「おかしくない! まだ一の汚れは落ちていないぞ、ミハイル!」
 すまん、一。
「でも……オレさ、今日……」
「今日がなんだ?」

 次の瞬間、顔からパーカーを離して、振り返る。
 思った通り、真っ赤な顔で、俺をじっと見つめた。
 エメラルドグリーンの瞳は涙で潤んでいる。

「オ、オレ……今日はまだお風呂入ってないの!」
「はぁ?」
「だから、汚いし。汗臭いかもしれないの!」
「ミハイル? なにを言って……」
 と言いかけている最中で、彼は俺に背中を向ける。
 個室の鍵を開けて、扉を勢い良く開いた。

「悪いけど、汚れは手洗い場でしっかり落として! あと、ついでにアルコールで消毒してね!」

 そう叫ぶと、振り返ることもなく、走り去ってしまった。
 一人、個室に残された俺は、放心状態に陥ってしまう。

「さ、さ、触れなかった……ミハイルの尻」

  ※

「クソがーーーッ!」

 小便臭いトイレのタイル目掛けて、拳を叩きつける。何度も何度も……。
 汚いと分かっていても、俺の憤りをどこかにぶつけないと自分を保てないからだ。

 触りたかった、もっと……。
 いや、初めてが“後ろ”からでも、経験しておくべきだった。
 でも……後悔しても遅いんだ。
 ミハイルに拒絶されたから。

 ていうか、お風呂に入ってたら、させてくれたの?

 汚い便所の床で4つん這いになっていると、誰かがトイレの中に入ってきた。

「お、タクオ。こんな所にいたのか。急にミハイルといなくなるから、心配したぜ」
 
 誰かと思えば、リキだ。
 普段の俺なら彼の心遣いに、礼を言うところだが……。

「うるせぇ! 全部、てめぇのせいだ! 老け顔のクソハゲ野郎!」
「え、酷くね? 俺が何かしたか……」
「したわ! おめぇのせいで、初体験が台無しだよ!」
「タクオ……良く分かんないけど。謝るよ、ごめんって」
「一生、許すか! このハゲが!」

 リキは何も悪くないのに、当たってしまった……。
 でも、股間が暴走して、興奮が治まらないんだ。
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