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第四十四章 出産
結婚マウント
しおりを挟む初めてのパパ活……ならぬ赤ちゃんのお世話は無事に終了した。
最後に、スタッフのお姉さんが記念撮影を個別に撮ってくれると言う。
今回、参加した子供たち全員に。
ま、俺たちもその中に入る大きな子供なんですけどね……。
フリーパスで何回も新生児室を体験している5才児、えりり先輩は慣れた様子で、赤ちゃんを抱え、ピース。
そして、去り際に俺へ向かって一言。
「しんぎゅーくん。良いパパになるんでちゅよ」
「あ、はい……頑張ります」
一生、なれないと思うけど。
最後に、俺とアンナの番だ。
ペアでの参加だったから、2人で仲良く撮影タイムに入る。
あ、違った。
正しくは、俺たちの赤ちゃん。ゆう君も間に入っているから、3人での親子撮影だ。
お姉さんがカメラを構える。
「それじゃ、パパさん。ママさん。赤ちゃんと一緒にもっとくっついて~」
まだ結婚もしてねーわ!
しかし、アンナはとても嬉しそうだ。
「ほら。パパ☆ ちゃんと、ゆう君を抱っこして☆ みんなで、にぃ~ って笑おうねぇ」
「……にーっ」
無理やり、笑顔を作る。
肝心のゆう君と言えば、終始ピクリともせず、無表情だ。
何枚か、撮影を繰り返して、お仕事体験は終わりを迎えた。
看護服を脱いで、お姉さんに返す。
新生児室から出ると、俺は入口で渡されたマップを確認した。
「さて、次はどの職場体験にするかな……」
そう呟くと、アンナがグイッと俺の手を掴む。
「何言っているの? もう帰るよ」
「え?」
「今日の取材は、あくまでもタッくんとアンナの赤ちゃんでしょ? それ以外は取材する必要ないよ」
「そ、そんな……」
結局、初めて、れれぽーとに来たというのに、本館を一切見ることなく帰ることになった……。
もちろん、あのモビルスーツも見られず。
今日の取材って、マジなんだったの!?
※
バスに乗り、博多駅まで直帰する。
アンナが言うに、今回の取材は、俺の親父が関係していて。
ゴールデンウィークの時、親父と会った際、「俺の子供を期待している」と言われたから、鵜吞みにしたようだ。
いつか俺たちの間に、赤ちゃんが産まれた時、ちゃんとパパとして、活躍できるように練習させたかったらしい。
マジ、今回の取材だけはないわ……。
でもアンナは、ずっとニコニコ笑っていた。
最後に、新生児室で撮影した親子写真を眺めながら。
「ゆう君。いつかアンナ達の前に来てね☆」
だから、一生来てくれないって……。
もう病んだ人みたい。
れれぽーとで取材こそしたが、あまりにも早く博多に戻ってきたので、時間がかなり余っている。
それに、腹が減った。
仕方ないから、アンナにいつも行くラーメン屋、“博多亭”で昼食を提案すると、快く承諾してくれた。
ていうか、れれぽーとにも新しい店があっただろうから、そこで食いたかったわ。
※
店の引き戸を開くと、お馴染の大将がお出迎え。
「らっしゃい! お、琢人くんにアンナちゃんじゃない。今日もデートかな?」
大将がそう言うとアンナは嬉しそうに答える。
「はい☆ 今日は二人の赤ちゃんと会ってきて~☆」
誤解が生まれるから、やめてほしい。
「え!? 赤ちゃん!? アンナちゃんと琢人くんは、もう結婚してたのかい!?」
驚く大将。
そりゃ、その反応になるわな。
しかしアンナは、構わず話を続ける。
「結婚はまだしてません。赤ちゃんが欲しいって、言われたから……」
頬を赤くして、俯いてしまうアンナ。
ていうか、俺は別に赤ちゃんが欲しいなんて言ってないよ?
親父だからね。
その発言を聞いた大将は、俺をギロッと睨みつける。
「琢人くん! そういうの最低だよ! ちゃんと責任を持たないとダメだよ。おいちゃん、怒ってるからね。出禁にしちゃうよ!」
「いや、大将……そういうんじゃ……」
「目の前のホテルへ行ってたんでしょ! もうアンナちゃんと、すぐにでも結婚しなさい! 今日のラーメンは奢ってあげるから!」
「えぇ……」
もう嫌だ。
俺、なにも悪い事してないのに……。
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