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第四十四章 出産

新生児

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「タッくん! 早くはやくぅ~ 遅れちゃうってば!」
 そう言って、俺の手を強引に引っ張るアンナ。
 相変わらずの馬鹿力だから、腕が引きちぎれそう……。
「いって……アンナ、そんな急がなくても、良いんじゃないのか? 時間はたっぷりあるし」

 入場ゲートをくぐると、そこには小さな街があった。
 子供のお仕事体験とはいえ、かなり本格的な店や工場が並んでいる。
 他にも、警察や消防署まで。
 そしてこのラッザニア福岡へ、一度足を踏み入れると。子供たちは“大人”として扱われる。
 限られた時間だが、本当に雇用された成人になるからだ。
 あくまで、館内のみで使える紙幣だが、お給料まで貰える待遇。


 しかし、この中にアンナが言う……俺たちの赤ちゃん。
 そんな仕事体験は、見当たらない。


 館内の一番奥まで来ると、アンナが脚を止めた。
 やっと俺から手を離してくれたが、肌の色が紫に変色していた……。
 これ、折れてないよね?

「さ、タッくん☆ アンナたちの赤ちゃんとご対面だよ☆」
 と近くにあった看板を指差す。
「へ?」
 見上げると、『新生児室』というプレートが天井にぶら下がっていた。

 辺りをよく見回す。
 そこだけ一面、真っ白な建物だ。
 新生児室があれば、手術室。それに小型だが、救急車まで近くの道路に配備してある。
 本当の病院じゃないか……。

「アンナ。今回の取材って……この新生児室。看護師体験なのか?」
「うん☆ だから、赤ちゃんの取材だよ☆」
「ああ、そうなんだ……」

 ガラス窓の向こうで、幼女が嬉しそうに赤ちゃんをお風呂に入れたり、オムツを履かせたりしている。
 だが注意すべきなのは、本物じゃないってことだ。
 常時、瞼を開きっぱなしのお人形。

 これが、俺たちの子供だってか?
 はぁ……心配した俺がバカだったよ。

  ※

 俺たちより先にお仕事を終えた先輩たちが、新生児室から出てくる。
 主に6歳から8歳ぐらいの幼女さん。

「ふぃ~ ちかれたぁ~」
「パパぁ! のどかわいたぁ~! おちゃ!」
「助産師はこんなにも賃金が少ないのですか。そりゃ、人出が足りないですよね」

 え、最後の眼鏡っ子。
 めっちゃ、大人びてる……。

 先ほどまで幼女が着ていた看護服を、次の番である俺たちにスタッフのお姉さんが配り始める。
 今回、新生児室に参加したメンバーは、俺とアンナ以外、みんな幼稚園児だ。
 しかも全員、女の子。
 そして、窓にベッタリとくっついてビデオカメラを向けるのは、パパとママさん達だ。
 なんだ、この場違い感。
 気が狂いそう。

 華奢な体型のアンナは、幼女のサイズでも難なく着ることが出来た。
 しかし、俺はそうもいかず。
 スタッフのお姉さんが新しいサイズを持って来てくれた。

 胸につけた名札を見ながら、お姉さんが眉をひそめる。

「新宮くん……だよね? きみ、中学生にしては、なんか老けてない?」
 ギクッ! 嘘を押し通さないと。
「あ、よく言われます……」
「ふ~ん。じゃあ、今からみんなに説明と、自己紹介をしてもらうから、一列に並んでね」
「了解です!」
 クソ。なんで、俺がこんなことをしないといけないんだ。

  ※

「じゃあ、説明の前に、みんな自己紹介してもらうね。一番大きな新宮くんから!」
「いっ!?」
 俺が最初かよ。
 嘘はつきたくないが、ここはアンナの作った設定を守ろう。
 気のせいか、親御さんの視線が鋭く感じる。

「あの子、デカすぎじゃない?」
「まあでも、最近の子って発育良いし」

 重くのしかかる罪悪感。
 しかし、演じきるのだ、琢人よ。

 少し声のトーンを高くしてから。
「あ、ぼくのなまえは、新宮 琢人ですぅ! 真島中学の3年生でちゅ!」
 こんなもんだろ……。
 だが、俺の隣りに立っているツインテールの幼女が、下からジッと睨んでいた。
「しんぎゅーくんって、ちゅー学生なの?」
「う、うん」
「そうなんだ。あたちはね。えりり、5歳。保育園にいってるよ。すごいでしょ?」
 ガチのロリっ娘と一緒に仕事すんのか……。
 辛い。
「シンプルにすごいと思います。リスペクトできます……」
 
 早くこの地獄から、抜け出したい!
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