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第四十三章 野郎ばかりのラブストーリー?
オタクは女装男子を想い、ヤンキーは腐女子を想う。
しおりを挟む結局、妹のかなでに言われたから……ではないが。
ミハイルに料理系のグッズ。アンナには指輪をあげることにした。
まあ、今考えているものなら、間違いないだろう。
インターネットで注文してもよかったが、やはりここは直接、自分で店に足を運び、選んだ方が良いと思う。
しかし、一体どこで買ったらいいのか、分からない。
地元の真島じゃ、そんな洒落た店はないし……。
思いつく場所と言えば、最近なにかと頻繁に通っている博多駅周辺。
それから、やはり若者の街である天神ぐらいだろうか。
ぼっちである俺が買い物をしに行くのは、どちらの街も難易度が高い。
だが、あいつの誕生日だからな。
「よし! 行くか!」
自身の顔を両手で叩き、気合を入れる。
そして、スマホとリュックサックを持って家から出ようとしたその時だった。
手に持っていたスマホから、着信音が流れ出す。
電話をかけてきた名前は……ロリババア。
その名を見ただけで、舌打ちしてしまう。
「もしもし?」
『あ、DOセンセイ! 今、暇でしょ?』
毎回、誰もがこう言うイメージを抱いていることに苛立ちを覚える。
「ハァ? 別に暇じゃないぞ。今から博多か天神あたりに買い物へ行くところだった」
それを聞いた白金は、すごく驚いていた。
『えぇ!? 万年童貞のかわいそうなDOセンセイが、民度の高い博多と天神へ買い物に行くなんて、福岡に大災害が起こりそうですね!』
「……用がないなら、切るぞ?」
『あ、ありますよ! この前、頼んでおいたヒロイン達……。ひなたちゃんとほのかちゃんの写真は、用意できましたか?』
「ああ。それなら、しっかり許可を得た上で、用意できたぞ」
『それは、素晴らしい! じゃあ今から打ち合わせも兼ねて、博多社に来ませんか? どうせ、買い物もしたいんでしょ?』
「まあ……そうだな」
白金の使いパシリってのが、気に食わないけど。
でも、なんか仕事で天神へ行くと思えば、気が楽になった。
『じゃあ、写真を持って久しぶりに博多社でお会いしましょうねぇ~♪ ブチッ!』
相変わらず、切り方が雑でイライラする。
この際だ。白金にもちょっとプレゼントについて、相談してみるか。
あいつも一応、女だし……。
※
天神のメインストリートともいえる、渡辺通りをひとり歩く。
平日だと言うのに、ここはいつも人でごった返している。
おしゃれで尚且つ高そうな服を纏い、片手には“スターベックス”のフラペチーノを持ったマダムが、颯爽と通りを歩いて見せる。
民度が違い過ぎて、死にそう……と思っていたら。
目の前に場違いなハゲのおっさんが、キョロキョロと頭を左右に振って、何やら探している。
くしゃくしゃに折れ曲がったメモ紙を持って。
「おっかしーな……ほのかちゃんから、教えてもらったのに」
「え……ほのか?」
おっさんが発した女の名前に、ついつい反応してしまう。
級友でもある、変態腐女子だから……。
俺が「ほのか」と口から発した瞬間、ツルピカに禿げあがったスキンヘッドが、ゆでダコのように真っ赤に燃え上がる。
どうやら、人の女にちょっかいを出した……と勘違いしているみたいだ。
振り返ると、すぐさま俺の胸ぐらを掴んで、睨みをきかせる。
「てめぇ……ほのかちゃんに何する気だ!?」
「ぐはっ! リキ。お、俺だ……。マブダチの琢人だろ……」
「あ、タクオじゃねーか」
喉元を抑えながら、息を整える。
「かはっ! 少しは加減しろ……」
「悪い。まさか、タクオとは思わずな」
俺じゃなかったら、半殺しに合っていたのか?
やっぱ、ヤンキーが好きになった相手へ近づくと、ボコボコにされるんだろうなぁ。
※
人のことは言えないが、何故ヤンキーのリキが天神に来ているか、尋ねると。
「俺さ。ほのかちゃんの取材に協力したじゃん。あれが編集部で話題らしくてさ。発売したマンガも爆売れだから、もっとネタを提供して欲しいって、頼まれたんだ」
なんて、武勇伝のように語られてしまった。
まあ確かに、ほのかの処女作は100万部も売れたから、他の作家がリキの持っているネタを欲しても、おかしくはないか……。
でも、正しくは彼のネタではない。
ネコ好きのおじさんから、提供してもらった体験談だろう。
つまり、リキはほのかに頼まれて、博多社にあるBL編集部へ向かっている最中だった。というわけだ。
しかし天神なんて、彼もなかなか来ないため、迷子になっていたようだ。
ならばと、俺が助け舟を出す。
どうせ、目的地は一緒なのだから。
「リキ。俺も仕事で、博多社へ向かう途中なんだ。一緒に行こう」
「おお! ありがてぇ! バイクで来たけど、マジわかんねーよ。この街」
「だろうな……」
分かる分かると、黙って頷く。
天神って、呪いが掛かっているってぐらい迷路だから。
方向感覚がバカになっちゃうし。
仲の良いダチと二人で歩けば、正直そんなに民度の天神も怖くない。
しばらく渡辺通りを歩いていると、一際目立つ大きなビルが見えてきた。
ビルの壁を一面、銀色に塗装しており、ギラギラと光って、眩しい。
自動ドアが開いた瞬間、俺は目を疑った。
そこには、一匹のウサギが立っていたから……。
「お、お……お帰りなさいませだピョン! 博多社へようこそだピョン!」
「え……」
可愛らしくロビーから飛び出てきたのは、一人のバニーガール……ではない。
正しくは、バニーボーイと表現すべきだからだ。
その証拠に、股間がふっくらと盛り上がっている。
彼は博多社の新しい受付男子、住吉 一。
れっきとした漢だ……。
訪れた客が俺と知った瞬間、顔を真っ赤にさせて、ロビーの隅に逃げ隠れる。
「ひぃ! ご、ごめんなさい、ごめんなさい! 新宮さんだとは思わず……BL編集部の倉石さんに言われて、やっていたんですぅ」
「……」
この出版社は、ろくな大人がいないな。
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