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第四十二章 腐ってもサブヒロイン
抹消されるヒロイン
しおりを挟む体育の授業で二時間もミハイルと絡んで……いや、健全な“ストレッチ”を楽しんでしまった。
彼にやましい気持ちは、無かったようだが。
俺の股間は素直すぎるほどに、暴れまわってしまう。
おかげで、更衣室に入ってもなかなか着替えることが出来なかった。
ズボンを下ろせば、全男子生徒にバレてしまうからな……。
理性を取り戻すために、しばらく深呼吸を繰り返し、どうにか着替えることが出来た。
※
帰りのホームルームを終えて、各々が教室から出て行く頃。
机の上に置いてあるリュックサックに、小さな白い手がポンと置かれる。
「タクト☆ 一緒に帰ろ☆」
「ああ。そうだな」
もうこのやり取りが日常と化している気がした。
俺の隣りに、こいつがいることが、当たり前のように感じる。
ダチだから……だろうか?
ミハイルが一緒にいてくれるだけで、安心する。
半年以上の付き合いだから、他人みたく変な気を使わなくてもいい。
何なら、腐女子の母さんより、居心地が良いかもな……。
二人で仲良く駄弁りながら、校舎を出る。
長い坂道を降りていると、ジーパンのポケットから、可愛らしい歌声が流れ始めた。
俺の推し、アイドル声優のYUIKAちゃんが発表した新曲。
『永遠永年』だ。
着信名を見れば……。
全日制コースに通っている現役JKこと、赤坂 ひなただ。
その名前を見て、ピンときた。
今日、学校で会った時に頼んだ写真のことだろう。
小説のイラストモデルとして、提供してもらうため、俺が彼女に頼んだんだ。
「もしもし?」
『あ、新宮センパイ! お待たせしましたぁ~ 約束の写真、選び終わったんで、今から送信しますね♪』
選ぶのに数時間掛かると言ってはいたが、本当に半日かかったよ……。
「そうか。悪いな」
『いえいえ。やっぱ私がヒロインなんで、ちゃんとお手伝いしないとですよ~』
偉くご機嫌だな。
別に俺が写真を必要としているわけではないのに……。
電話を切ろうとした際、ひなたに1つ注意を受けた。
それは送るデータが膨大な為、通信費がアホみたいにかかるかもしれないと。
一体、何十枚送ってきやがるんだ?
まあ今日はもう帰るだけだ。
通信費は白金に経費として、請求すれば、問題ないし。
歩きながら、適当に写真が受信されるのを待とう。
~20分後~
「ピコン……ピコッ! ピコッピコッピコッ!」
手に持っていたスマホを思わず、地面のアスファルトに叩きつけるところだった。
あまりのやかましさと、しつこさにぶちギレる。
今のところ、ひなたから送られてきた写真は120枚以上……まだ終わりが見えない。
何枚か、ファイルを開いたが、正直大して変わらないアングルや表情の写真ばかりだ。
もっと絞れよと言いたい。
だが後半の写真は、制服姿のひなたではなく……。
日頃、自分で撮ったと思われる写真が多く感じた。
自宅でたくさんのペットに囲まれて、嬉しそうに笑うひなた。
クラスメイトのピーチと、ケーキを頬張る写真。
他にも海辺で家族と仲良く佇む一枚など……情報量が多過ぎる。
こんなに要らないのに。
しかし、最後の写真を開いた瞬間、思わず生唾を飲み込んでしまった。
「す、スク水……」
現役JKのスク水なんて、中々お目に掛かれないので、スマホにグイッと顔を近づて確かめる。
どうやら、所属している水泳部の競泳水着だ。
褐色肌で程よく筋肉がついている細身のひなた。
とても健康的なスポーツ少女だ。
何かの大会のようだ。
表彰台の上で、嬉しそうにピースしている。
ひなたからすれば、大会で一位を獲ったことが誇らしいのだろうが……。
男の俺が見ると、スク水JKの全身写真。
つまり、グラビアアイドルと大して変わらない。
レアな写真だ。たまらん……。
「よ、よし……」
当初、予定していなかったが、この写真だけはクラウド上にアップロードしておこう。
いや別に、おかずにするつもりじゃなくて、こんな機会は滅多にないから……ね?
と、スマホをいじっていると……。
「タクト☆ さっきから、ナニをやってんの?」
満面の笑みで、ずいっと近寄ってくるのは、ミハイルさん。
もちろん、2つの大きなエメラルドグリーンは、いつものように輝いていない。
瞳の輝きは完全に消え失せ、ダークモードだ。
「あ、いや……これは」
「ねぇ? さっきから、ピコッピコッてさ。誰からなの? アンナじゃないよね?」
ずっとニコニコと優しく笑ってくれるけど、目が笑ってない。
ここは、嘘をつくと後が怖いぞ……。
もう正直に話すしかない。
「こ、これはだな。小説に必要な写真なんだ! け、決して嫌らしいことじゃないぞ?」
自分で言っていて、何故か疑問形になってしまう。
大人しく、ミハイルにスマホを差し出して、説明を始める。
彼は「うんうん」と黙って、俺の話を聞いてくれた。
しかし、スマホの写真をしばらく閲覧したあと……。
とある写真で、彼の額に太い血管が浮き出る。
「タクトの話だとさ。小説のイラストに使いたいだけだよね? ほのかは、いつもの病気写真で良いと思うよ。個性だからさ☆」
腐女子は病気じゃないって……。
「お、おお。ほのかっぽい写真だろ?」
「うん☆ ほのかの良さが出てると思う☆ でもさ、ひなたの写真だけ、なんでこんなバカみたいに数が多いの?」
ひなたという名前が出た瞬間、ドスの聞いた声で喋り始めた。
「そ、それは……ひなたが勝手に送りつけて……。本当は三枚ぐらいでいいんだが」
「じゃあさ、オレが三枚に選んであげるよ☆ タクトって写真選びとか、分かんないでしょ?」
「え……」
「特に、このさ。水着写真は絶対にいらないよね?」
と、至近距離で脅されたので、俺はもう何も言い返すことが出来なかった。
「はい」
「じゃあ、消去しておくね☆ タクト、良かったね。こんな汚い女子高生の水着写真を持っているとね。今はお巡りさんに児ポ法だったけ? あれで捕まるんだよ?」
「……」
こうして、ひなたの写真だけ、何故かブレた表情の写真ばかりを選別されてしまうのであった。
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